さそり座の輝く夜
眠いぃ
7月11日。午後21時00分
すべての準備が整った。
僕は傘、哲平はトイレのスッポン、詩音はよくわからないスプレー、優馬はシャベルを持ってきた。
昼寝をだいぶとったおかげで目はぱっちりだ。寝てた間も特にホール湯が襲われたりしたことはなかったようだが、何人かが抜け出しをしようとして、バレたらしい。
だが僕たちはそうはならない。
怪しまれるようなことは何もしていないし武器もすべて掃除用具入れの中だ。
あとはトイレに行くだけだ。
だれ1人欠けずに絶対にここに戻ってくる。
絶対にだ。
哲平と詩音が顔を見合わせる。
まずは詩音が最初にトイレへ、
追いかけるように鉄平が行きあとで優馬と僕が行く。
3人で連れションという設定でもいいが、別々の方が覚えられにくいと思ったのだ。
詩音と哲平が無事トイレへ向かった。
次は僕と優馬の番。
怪しまれないよう、ゲームの話をしながら自然にトイレへ向かう。
そしてついに生徒会長の目の前を通る。
「トイレ行ってきます〜」
軽くうなずかれて通された。
案外余裕だった。
まずは優馬から、武器を取って窓から外に出る。なるべく大きな音を立てることのないように気を配り通り抜ける。
地面だ。無事全員揃って外に出ることに成功した。
駐車場から裏門へはとても近く、外からは開けられないため、護衛もいない。
難なく裏門を通る。
「よっしゃぁぁあ!!作戦成功だ!!」
「やったな!!」
本当にできたんだ。あの生徒会長を欺けたんだ!!今の僕らならなんでもできる気がする。
「よし、行こう!!住宅街へ!!」
鉄平を先頭に僕たちは住宅街へ向かう。
街の様子とは裏腹に星空はとても綺麗だった。
夜空にはアンタレスの赤色が強い存在感を放っていた。
学校は浅賀先輩達が守ってくれていたおかげで赤目以外は、奇怪な者に会うことは無かったが、ここからは誰にも守られず、何が起こるかわからない。気を引き締めて行こう。
そう思った矢先に問題は生じる。
道がふさがっているのだ。
「瓦礫と倒れた電信柱で道が塞がれてる......」
「鉄平、電信柱ぶん投げてくれ」
「むちゃ言え!そういう優馬が持ち上げてみろ!」
「無理に決まってんだろ!」
せめて能力が使えれば.....
「ほかの道を通るしかないわね....」
これ以外の道を通って住宅街へ行くには回り道をしなければならない。少し怖いがまあそこまで変わるわけでもないので引き返すことにした。
「他の道もこんな感じでボロボロなのかな.....」
「思ってたより被害は大きかったんだね..」
「だね...」
田鶴は表情を少し引き締めた。話で聞くのではなく、実際に見ることにより危機感が増したのだ。もしかしたら僕たちの家も崩れているかもしれない、家族が、文香が、被害を受けているのかもしれない。
その時、さっきの優馬の言葉がよぎった。
文香は僕のために学校を出たのかもしれない。もし本当にそうだとしたら.....
田鶴は自分を責めた。自分のせいかもしれない。自分のせいでみんなを巻き込んでしまっているのかもしれない、自分のせいで誰かが傷つくかもしれない。あるいは命を落とすかもしれない。
田鶴は足を早めた。出来るだけ先頭に立って、みんなの役に立ちたい。ほんの少しでもみんなの負担を軽減したい。
そう思い田鶴はみんなより先に出ようと早歩きをした。
「田鶴!そんなに急ぐな。慎重に行くべきだし何があるかわからない。後ろに戻れ〜」
「大丈夫。音もしないしまだ何もいないと思う。」
「これから何か出るようなフラグを立てるな!これで出たらどうすんだ!」
「そんなこと言わないでよ!これがもし小説なら次のページの挿絵は絶対怪物から逃げてる僕らの絵だぞ!」
「なんというか...のんきだねみんな..」
詩音は少し呆れた声で言った。
「すみません....」
少し意気がり過ぎたかもしれない。
先頭はキープしつつ慎重に歩こう。
住宅街までは大体あと1キロ。次の曲がり角を左に曲がってまっすぐ行ってまた左に行けば着く。距離としてはそこまで遠くないのでこのまま順調に行けば7分くらいで着くだろう。
曲がり角に差し掛かり、進行方向に異常がないかを確かめる。
ぱっと見は倒木とバラバラに散らばっている瓦礫以外は特に異常は無いようだ。
「行こう!」
僕がそう言うとみんなが付いてくる。
責任感と同時に頼られている喜びを感じた。
このまま行けばすぐ着けそうだ。などと思っているところだった。
やはり現実とはそう上手くいかないらしい。
事実は小説よりも奇なりとよく言うが、この場合僕は小説のようなテンプレ的な展開を経験している。事実大なり小なりなのではなく、事実=小説なのかもしれない。などとおかしなことを考えている暇はどうやら僕にはなかったらしい。
約2秒前にそこに現れたそれは、ヒトと言えばそうでもなく、かくして犬や猫と似た部類なのかと言われればそうでもない。今にも落ちそうなほど白い目玉を剥き出しにし、四足歩行で横からやってきた。
今までの僕ならそれを脳内で処理できる術を持っていなかっただろう。昨日までの僕なら。
これは間違いない。
あっち側の生き物だ。
赤目とは違う、もう一種類のやつだ。
(ง •̀_•́)ง