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崩れた世界と鮮血

さて

だが少し見覚えがあるのはなぜだろうか。


幸せだった日々が脳内をよぎる。涼みに外へ出るおじさん。犬の散歩をしてるおばさん。塾帰りの大学生。この夜の静けさ。輝くアンタレス。昨日と同じだ。昨日と同じ夜のはずなのだ。明後日と、明々後日と、同じ夜のはずなんだ。そのはずなんだ....


風景が壊れていく。当たり前だった世界を構成していた数々のピースが崩れ落ちていく。


嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。

落ちたピースをなんとか掴もうと手を伸ばす。だが現実はそれすら許してくれない。


当たり前と言うパズルを構成していたピースは全て崩れ落ち、空いた空間を新たなピースで埋め、それを当たり前と名付ける。


世界が書き換えられたのだ。ただ一つのピースを除いて。


目の前にいるアレを除いて。


考えたって絶対にわからない問題だと思っていたが、田鶴にはなんとなくその答えがわかっていた。


でももしその解が正しかったのなら、僕は死ななければいけないのだろう。


恩を仇で返すことだけは、絶対にしたくないから。


強い風邪が吹いた。

心地よいものではなく、背筋を凍らせるような、何かとても冷たい風が。


哲平は脳内でこれを生命の危機と判断した。

彼はこのグループの中でもリーダー的な存在だった。だからかみんなを守らねばいけない。自分がなんとかしなければならない。と自分に責任を押し付けていたのだろう。


結果的に彼は判断を誤った。

アレを前に避ける素振りすら見せず突っ立っている田鶴を守ろうと、彼はトイレのスッポンでアレに殴りかかった。


彼が瞬きを二回した時には、もうそこに彼の左手は無かった。


彼は心の底から絶叫した。


左の腕から鮮血を撒き散らし、まるで羽の切れた蝉のように地べたを呻きまわった。


田鶴はそれを見ていることしかできなかった。


親友が自分のせいで片手をなくし呻き回っているさまを、突っ立って見ていることしかできなかったのだ。


目の前のピースが赤く染まっていく。鉄平の血だ。状況を飲み込めていない優馬、詩音を置いていき、田鶴の世界だけが動いていく。


なんとかしなきゃ。なんとかしなければ。

自分が動かなきゃいけないとわかっているのにもかかわらず足が動かない。動いたところで何をするべきなのかすらわからない。


やはりここで死ぬべきなのだろうか。


安易な判断から生徒会長たちから逃げ、人を救いたいなど無理なことを友達に吹き込み、親友を巻き込み片腕を失わせる。そしてそれを黙って見ているだけ。


そうだ。死んで当然なのかもしれない。

いや、死ぬべきなのだろうと僕は思っていた。


数秒前までは。


哲平のその姿を見ているうちに僕の中である感情が増大してきた。それは恐怖である。


徐々に状況を飲み込めるようになっていき、それと同時に逃げたいと言う衝動が強くなる。


でもここで逃げたらおそらく一生後悔するだろう。もし生きてたらの話だが。


足が震える。脳が逃げろと叫んでいる。


もし僕が逃げたら彼らは全員やられてしまうかもしれない。僕がやるしかないんだ。僕があいつを倒すんだ..。僕ならできる。そう自分に言い聞かせた。


だが脳はガン無視だ。逃げるための理由を探している最中である。


今から全力で学校に戻って応援を呼べば助かるかもしれない....。


おそらく次のあいつの攻撃で優馬が死ぬ。そして次で詩音が死ぬ。そしてその次は.....。


僕だ。


ダメだった。自分を抑えることができなかった。


立ち向かうべきだった。このただの傘なんかじゃ勝てないこともわかっている。でも命をかけて戦うべきだったんだ。そんなことわかっていた。


だってアレは、僕のおばあちゃんだから。


眠い

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