あとがき
~ それからさらに4年後 ~
「よう、万札」
「おや。七文字から電話してくるとは珍しいですね」
「まあ、ちょっと困ったことになってよ。早速で悪いけど、相談に乗ってもらって良いか?」
「勿論です」
「助かる。実は今、会社の同僚に言い寄られててよ」
「いやいや七文字、昔はあんなにバッサリ切り捨ててたじゃないですか」
「いや、今回はそうもいかなくてよ……」
「断ると怖い上司とか、そういう感じですか?」
「ちげえよ。ただ、その、……本当に誠実で頼りがいのある、良い奴なんだよ」
「なんだ。相談という名の惚気ですか」
「いいから聞け! ……正直、俺もあいつとなら良いかなって思ってる。でも自分が家庭って奴を持つのかと思うと、やっぱり踏ん切りがつかなくてよ……」
「あー。そういうことですか」
「そうだ。ていうか幸せな家庭って奴を知らねえんだよ。俺のクソ両親は論外として、叔母さんは生涯独身だし、うちのボスも早くに妻子を亡くしたみたいだし、ピヨ吉は2回も離婚したし」
「こないだ3回目を遂げたらしいですよ」
「あいつマジで糞だな。まあ、そんな奴はいいとして、万札、率直に訊く! おまえんとこの家庭、幸せか!?」
「ええ。年内にはコウノトリさんも来てくれる予定で、とても幸せです。嗚呼、お腹から生命のドラムが聴こえる」
「よし、分かった! 俺もやれるだけやってみる!」
「どぅゆあべすと!」
「あ、言っとくけど、こんなヘタレたこと相談したのは、俺とおまえだけの秘密にしといてくれよ」
「大丈夫。あなたとの秘密は浄土まで持っていきます」
読了、ありがとうございました。
さて、本作のテーマはずばり「ハッピーエンドな別れ」です。
と言うのも、この「眼鏡娘とコンタクト」という企画、圧倒的に恋愛ものが多かったからです(差別化意識)。
そりゃコンタクト男子と眼鏡女子が、互いのトレードマークをトレード(!)するというのだから、きっとそれが自然な流れでしょう。
そこで本作では、敢えてボーイミーツガール要素を徹底的に排除し、万札と七文字という仲良し2人組にとことんフォーカスしてみました。
学生時代に仲が良かったとしても、卒業し、就職し、家庭も築けば、自然と仲も疎遠になってしまうというもの。
でも、それは決して悪いことではない。恋の破局とは全く違う、自然なフェードアウトです。
だからこそ再会したとき、昔話にガッツリ花を咲かせられる。
恋人同士の甘い関係も良き物ですが、セピア色のノスタルジックな友情もまた素敵な物だと思うのです。
なので本作では、その辺をつめこんでみました。
きっと万札と七文字はこの後も、それぞれの道を順調に歩んでいくことでしょう。
こういう、登場人物の半生をとことん書きこんでみたい、というのが今回の目標でありました。
単なるフィクション上の記号で終わらせたくない、生きている姿を書いてみたい。
そんなモチベーションの結晶が、この作品です。
締切を大いにブッチしてしまったことについては申し訳ありません。
でも、どぅまいべすと出来たので、個人的にはとても満足しています。
それでは改めて、読了、ありがとうございました。