異世界転移でギフトもらうやつ
田邊幸子、現役女子高生。
享年16歳と若くして、交通事故でこの世を去った。
「死んだ後ってどうなるのかと思ってたけど…」
何もない。自分がそこにいるのかも分からない。目を開いているのか閉じているのかも分からない。そもそも、まだ私の身体が存在してるのかも認識できない。
変な感覚だった。輪廻転生とかしないのかな?そうやって考えていたら何かが側にいるような気がした。
いないのかも知れないけれど、いる気がする。ある気がする?私じゃ無いものが存在している気がした。それに気づいたら、それが形を成し、そこに現れた。
「またか」
それは独り言を呟いた。変な存在だった。人の形を取ってる気もするけど、そうじゃないのかも。なんだってさっきからこんな曖昧な感覚なんだろう。
「神様ですか?」
私は恐る恐る口を開いた。神様っていったら白いローブみたいなものを身に纏った白髭のおじいちゃんとか。でも、女神様とかのがいいな。絶世の美女で、ナイスバディで。
私が想像すれば、曖昧だった存在が認識できるようになる。女性の、人の形をした、美人なナイスバディの。そして人ではないもの。
「そう呼んでも構わない」
「神様では無いんですか?」
「お前がそう呼びたいなら呼べばいい。そういう存在かどうかは分からないという話だ」
訳が分からない。回りくどい話し方をするものだ。
「名前とは、そのものを理解するための指標である。神とか運命とか因果とか理とか。様々な呼び名をされるが私を完璧に表現するものは存在しない」
なんだそりゃ。じゃ、神様じゃないんだろうか。
「例えばだ。夜道を歩いていたら脛を擦るものがあった。その後、なんだか歩きにくく家路まで不快な思いをした。それがなんだか不気味に感じたので友に相談した男がいた。そうしたら友は笑って答える。『そいつぁ妖怪すねこすりに会ったんだ。すねこすりに股を潜られると歩きにくくなるって話だ』」
はい…?
一体何の話なのか。てか何ですねこすり?神様曰く、地球日本育ちの私に分かるような例えを出してくれたそう。いやでも、もっとメジャーなやつでも良かったんじゃ…
私がぽかんとしていると、神様は続ける。
「理解できないことは不気味なのさ。それをすねこすりって妖怪が出たと説明されれば理解ができる。本当は別の、道草が脛を擦っていたとしても何だとしても」
「はあ…」
「名前が分かれば理解ができる。説明ができればもう恐れることはない」
意味が分からない。これは私の頭が悪いのか、それとも神様の説明が悪いのか。
私には理解できないと悟ったので、違う質問を投げることにした。
「ここはどこですか?何が起こってるんですか?」
「間違いが起こった」
「間違い?」
「間違って死した魂がその世界の理から零れ落ち、違う世界に落ちかかっている」
私がそういう存在ってことだろうか。
私、間違って死んじゃったの?
「そんなのヒドイ!どうにかして下さい!」
「そこはそんな問題じゃない。お前の生きていた地球。それができてからこの方、その年月の中ではお前が今日死のうと50年後死のうと刹那のこと。微々たる差でしかない。しかしそのズレにより、たまに理から零れ落ちることがある」
それってやっぱり間違いってことじゃない?誤って死なせちゃったのなら、何かお詫びをもらってもいいんじゃないの?私が読んでたマンガとかだと皆そんな時は役に立つギフトをもらっていたはず。
「なぜ特別待遇を求める。些細な誤差に詫びる必要があるのか?」
女神様は汚いものを見るように鼻にシワを寄せて、しかし少し考えた。
「しかしそうだな。私からの贈り物はくれてやろう。お前に死を」
不穏な言葉にギョッとする。そこでやっと私は理解した。神様は別に私に都合の良い味方ではないのだと。慌てて拒否しようと口を開くが遅かった。
「間違った世界に落ちてしまう異物なら、早めに除去した方がいい。すぐその世界でもお前の命が終わるよう呪いを授けよう」
その言葉が終わるかどうかくらいで、私は意識の底に引っ張られていった。まるで睡魔に抗えず眠りにつく感じ。
ああ、私は呪われてしまったんだろうか?
目が覚めると私は薄汚い路地裏に倒れていた。ゴミが散乱し、ジメジメして陰気臭い。
手のひらを見つめてみる。何か変わっただろうか?特に変わったところは感じられない。もしかして夢でも見ていたのかも。
なぁんだ、って安心しながら路地裏から一歩出て、また引っ込んだ。一歩進んだ先は中世ヨーロッパみたいな町並みだったからだ。
「サチコ」
名前を呼ばれて振り返ると路地裏には猫がいた。いや、猫とイタチの中間みたいな生き物だ。
「目ぇさめたか!」
「猫が喋ってる…」
「猫じゃない!オレはサチコの死だぞ!」
私の死?
「言ってただろー!死を与えるって。オレはサチコの死だ。姿を可視化するため名を拝借したぞ。どんな名前が良いかわかんなかったから、あの方の話からもらってきた」
猫は陽気に喋りかけてきて、私の足元により脛に身体を擦り付けてきた。
「オレはサチコの死にして、すねこすり。よろしくな!」
「歩きにくくなるんで擦り付けるの止めてください」
ちょっと待って待って。
話を整理すると、まず私は…今、恐らく違う世界に零れ落ちてきてしまった。そして、神様からは異物排除のためすぐ死ぬ呪いをかけられていて…
目の前のこの猫もどき別名すねこすりが呪いを可視化したものだと。
「どうすんのよー!絶望どころの話じゃないじゃない!」
「サチコ困ってるのかー?」
すねこすりが心配げに見上げてきた。カワイイ顔したってダメなんだから!
「どっか行ってよ!呪いなんて真っ平ごめんよ!」
「ムリだぞー。だって死は誰にだっていつでも隣り合わせだから。いなくなることはできないんだぞ」
すねこすりは私の拒絶にしょんぼりした顔をしながら教えてくれた。
「オレは常にサチコに寄り添っていたけど、あの方からの呪いで見えるようになっただけなんだぞ」
「まぁ確かに…死なない生き物はいないわよね」
元々あったものを見えるようにしただけ…
じゃただの脅し?別に呪いを授かった訳ではないのかも?私が楽観的に捉えたらすねこすりは訂正してきた。
「あの方言ってたぞ。理解することは近づくことだって」
「また回りくどい話?」
「オレもよく分からなかった。死が隣にあること、意識することは死を呼び寄せることでもあるって」
何でよ。どういう理論か私にはサッパリだ。神様の話は大概理解できなくて困ってしまう。
「ええい、分かった。呪われたのね、私!」
「うん!仲良くしてくれー!」
「受けて立とうじゃない!」
理解してないから死には近づいてないってことにしておこう!それに、呼び寄せることでもあるなら、遠ざけることだってできそうじゃない。
「だって神様が言ってたのよ!『今日死のうと50年後死のうと刹那のこと。微々たる差でしかない』って!」
「つまりどういうことだー?」
「すぐに死ぬのも、50年後に死ぬのも微々たる差なら、私は50年後に死ぬよう生き抜いてやる!」
「じゃあオレたち50年間ずっと一緒だな!」
私はすねこすりと50年間共にすることを決意した。
続きません。