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囚われの姫は恋をする  作者: 長谷部 龍成
2/3

初回、初日の朝

夢を見るというのは、なんとも不思議なことではないだろうか。

五感を徐々に制限され、やがて意識が飛び、突然意識を取り戻す。

こんな怖いことは他にないのに、得られるのは安心感と小さな自由。


人は、レム睡眠とノンレム睡眠を繰り返すらしい。夢を見ている時間と、何も無い時間を代わる代わる過ごす。それでも、まるで単行本の2巻を探し漁るように、1度の睡眠で見る夢は繋がっている。大人しく先に進むかと思ったら、今度は自分の脳が作るはずの夢なのに、突拍子もなく暴れ周り、自分すら置いてけぼりにする。


全くもって理解できない。

そんな取りとめのないことを考えながら、五感の復帰を全身で感じ取る。


朝だ。カラカラに空気が乾き、その空気は喉元をすぎて心まで乾かすようだ。身はすっかり冷え、布団に愛を注ぎたくなる。そして何かに縋るように、いつの間にか開いていた眼を無意識に扉に向けた。布団の代わりになってくれそうな存在は現れない。

それから諦めるような溜息をつき、ゆっくりと上体を起こす。

毎朝のように繰り返したルーティンは、無意識に脳へ信号を送り、筋肉を動かす。

緑のカーテンを手で押しのけ、もう長年掃除していない汚れた窓の向こうを眺める。

今日はどうやら快晴のようだ。淀みのない青空は、俺の目には眩しすぎる。遠くに連なる背の低い山々をちらりと一瞥して、それから陰鬱な気持ちとともにスリッパを踏みしめた。


2月下旬のフローリングはまだまだ冷たく、スリッパがなければ突破は困難だろう。半ば蹴るようにしてスリッパに足をねじ込み、部屋の扉の方へ向かう。

寒さに震える体を押さえつけ、俺は登校する準備をするべくリビングに向かった。


・ ・ ・ ・


3週間ほど前は、木々は雪を美しく着こなしていたが、どうやらお気に召さなかったようだ。針葉樹達は不機嫌に葉をとがらせ、俺を見下していた。


視線を手元のスマホに落とす。時刻は8時2分。バスまではあと8分くらいある。近くのベンチに腰を下ろし、なんとなく、無表情に立つバス停に目を向ける。

古びた足元とは全く似合わない、真っ白で真新しい時刻表が貼ってある。最近貼り替えたのか、時刻が見やすくなっていて助かる。使わないけど。

さて、SNSでも眺めていようか、と再度スマホに目を落とす。

アプリを開くが、タイムラインには何も流れ込んでこない。なぜならフォローという文字に続くのは3という、確実にSNS向きではない数字で、さらにこの3人は、朝っぱらから元気に投稿するようなやつらではないからだ。

というか、そもそも彼らはSNSをやっている暇はない。充実した青春を送ってらっしゃるからだ。俺とは違って。


趣味もない。友達も少ない。なにか始めなければ、空虚なまま高校生活を終えてしまうと分かっていても、焦るばかりで行動に移せない。


それでも今日も、いつもと同じように学校に行き、家に帰り、眠る。

俺はなんの為に生きているんだろうか。

バスが軋みながら近づいてきて、止まる。ドアが開く。機械が整理券を吐き出す。辺りを見回すと、乗客はつまらなそうな顔で薄い箱にご執心だ。


このバスは、なんの為に走り、どこへ向かうんだろうか?


乗り込み、整理券を取る。背後でゆっくりとドアが閉まる。


もう、最後まで降りることは出来ない。


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