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ハッピーマンデー

作者: 猫海

恋愛映画をよく観る。

人見知りで、女友達は1人もいない。もちろん付き合ったことなどない・・・そんな人間にとって恋愛というものは、高いハードルである。

しかし恋愛映画というのは、そんな人間にも恋愛というものを体験させてくれるものなのだ。


月曜日、この映画館では誰もが映画を安く観れる。

レディースデイやファーストデイというものしかほとんどの映画館ではない中、メンズでも安くファーストでなくても安い。

『ハッピーマンデー』


いつもレイトショーで観る。

そして席は一番後ろの真ん中。

かなりの話題作でない限りこの映画館では大きなスクリーンにはならない。そしてほぼ貸し切り状態になる。

真ん中の席で貸し切り状態・・・王様にでもなった気分である。さしずめ孤独の王様だ。

最近は成れずにいるが・・・


今日の映画は、人気小説が映画化したもの。

恋愛物では高校生が主人公というのが日本では多いが、珍しく大学生が主人公の映画。

開始5分前。入場し席を見渡す。誰もいない。今日こそは貸し切りだ。


客電が暗くなると同時に、今日も孤独の王様にはなれないことが確定した。

・・・原因は彼女だ。

決まってこのタイミング、決まって恋愛映画、決まって右斜め前の席。

孤独の王様にさせまいとわざとやっているのかと思ってしまうくらいだ。そんな訳ないのだが。

見た目はその辺にいそうをそのまま体現した感じ。そしてタイプでもない。


その後も何度も『ハッピーマンデー』に恋愛映画を観に行くも、孤独の王様にはなれなかった。

ベタな恋愛映画だったら、声を掛けて、恋愛に発展、運命の人だったんだ・・・とかなるところだろう。

しかし今まで恋人もいない、ましてや女友達もいない人間が、そんな興行収入0円のベタな恋愛映画のような運命を感じる訳が無い。

少しイラつきもした。

何故この曜日、この時間、この席なんだ、と。

だが彼女も悪気がある訳じゃないだろう。

たまたま観たい映画で、観たいもしくは観れる時間で、観たい席なだけだ。


ある日の『ハッピーマンデー』

今日観るのは、海外の恋愛映画。

いつもどおり一番後ろの真ん中の席で観る。

客電が消える。

いつもどおり彼女が現れる。そして右斜め前の席に座る。

このころには孤独の王様になりたがってる自分がいない事に気づいたが、どうでもよかった。


映画が終わる。

すごいいい映画だった。今まで観た恋愛映画の中で1番よかったと思うくらいに。

同時に寂しいと思った。

この映画のことを語り合う人がいないことに。

右斜め前に人はいるが、いきなり声をかけても変質者の類だと思われるのが関の山だろう。

帰ろう。

階段を足早に降り、通路にさしかかる。

「すいません」と声がした。

自分に声をかけたのかと思ったが、この映画には2人しかいないわけだ。

「・・・何ですか」と恐る恐る答える。

少し間を置いてから彼女は言った。

「・・・映画、よかったですね」



数年後の『ハッピーマンデー』

相変わらず恋愛映画を観ている。相変わらずレイトショーで、相変わらず後ろの真ん中の席で観ている。

開始5分前、入場し席を見渡す。誰もいない。

客電が消える頃、彼女が現れる。



変わったことが2つある。

右斜め前の席は空席になったことと、映画を語り合える人ができたこと。

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