【ノープロットで書いてみました】明智光秀である!
はじめに。
こちらは、架空のオリジナルキャラを町中にポンと置いたらどうなるかを考察した作品です。
キャラが勝手に動き出す、そんな理想の展開を無理やり実践してみました。
ちょっといろいろと挑戦してみたくなった拙い作者による単なる趣味です。
あくまで実験的作品でストーリーやテーマ性は皆無ですので、あらかじめご了承くださいませ。
「明智光秀である!」
その日、一人の若侍が町の中で上半身裸になりながら立っていた。
道行く人々は、怪訝そうな顔をしながらその若侍の顔を見ないよう通り過ぎていく。
彼は何者なのか。
なぜ、裸なのか。
誰も聞く者はいない。
すぐに役人がやってきて、若侍を取り囲んだ。
「そのほう、何者だ」
御用の提灯をかかげる与力や同心たち。彼らの顔にも、困惑の表情が浮かんでいた。
裸の男は答える。
「明智光秀である」とだけ。
「明智光秀? 150年前に本能寺の変を引き起こしたあの……?」
十手を持つ町奉行が問いただすと、男は「はて?」と首をひねった。
「ほんのうじ? なんじゃそれは」
「自らを明智光秀と名乗っておきながら、本能寺の変を知らぬとは奇怪な。それに上半身裸というのも解せぬ。おぬし、まさか将軍様がおわすこの江戸で何か企んでおるのではあるまいな」
「江戸? すまぬがよくわからぬ。ここはどこなのじゃ?」
あくまでとぼける男に、町奉行もまわりの同心たちも顔を見合わせ、肩をすくめた。もしかしたら、本当に何も知らないらしい。
「とりあえず、おぬしの詮索は後回しにしよう。まずは何か羽織れ」
そう言って町奉行は自らの上着を脱ぎ、男に羽織らせようとした。
とたんに男はそれを拒否した。
「いや、結構! ワシはこのままでよい」
「よいわけがあるか。往来の激しいこの大通りのど真ん中で、裸で立っておるなど見過ごすわけにはいかん」
「ワシはなんとも思わぬ! 裸が好きなのじゃ!」
「なにを言っておるのだ、おぬしは」
明らかに困惑している町奉行。
男はさらに言った。
「ワシはここで人を待っておる。明智光秀と名乗れば、おのずと姿を現すであろう、その人を」
「誰じゃ、それは」
「我が主君、織田信長公」
動揺が広がった。
明智光秀と名乗る裸の男。
その口から発せられる誰もが知る戦国武将の名に、とうとう町奉行の堪忍袋の緒が切れた。
「ふざけるな! 貴様、やはりこの江戸でよからぬことを考えておるのであろう。ええい、皆の者、この不審な男をひっ捕らえい」
町奉行の言葉に、同心たちがいっせいに男に襲い掛かった。
するとそこに突如として稲光が落ちた。
「ひいっ」
男に襲い掛かろうとしていた同心たちが耳をおさえる。
次の瞬間、彼らの目の前には巨大な黒馬に乗った女がいた。
しなやかな体躯、凛とした顔立ち、その鋭い視線に町奉行たちは寒気を覚えた。
「遅くなったな、光秀」
女が声を発すると、裸の男は答える。
「おお、お待ち申しておりました、お館様」
「まったく、お前はどうしていつも時空を超えていなくなってしまうのだ」
「不可抗力でございます。気が高ぶるとどうしても……。ですが、こうして毎回お館様が見つけ出して迎えにきてくださるから助かります」
「おぬしの気を追跡すれば容易なことよ。で、ここはどこだ?」
「江戸、だそうです」
「江戸? ふん、どうせ秀吉あたりが京を真似て作った地方都市であろう」
「猿真似が得意ですからね、あいつは」
「ところで……」
女は男に手を差し伸べて尋ねた。
「お前、どうして裸なのだ?」
「裸が好きだからです」
男は黒馬に跨った女に手を引かれて馬に飛び乗った。
すると、どうだろう。
再び稲光が落ち、彼らは瞬く間にいなくなってしまった。
あとに残された町奉行たちは、ただただ呆けた顔で突っ立っているしかなかった。
「な、なんだったんだ、あいつらは」
つぶやく彼らの顔には、狐につままれたような表情がいつまでも浮かんでいた。
この出来事は、江戸で起こった珍事としていまもなお歴史書に残されている。
公衆の面前で、突然現れては消えた男と女。
彼らはいったい何者だったのか。
どのように現れ、どのように消えたのか。
それは今もって謎に包まれている。
そして、最も重要なこと。
彼らは本当に歴史上の明智光秀と織田信長だったのか。
それを知る術は、ない。
まとまりのないこの作品を最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
そしてごめんなさい。
歴史に疎いので、設定に多々不自然な点があるかもしれませんが、架空の世界ということでご了承ください。