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浅葱の桜は散れども  作者: 巡葉朔乃
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一人の夢

薄めの布団に寝転がり、先程のやり取りを思い返した。土方の厳しい表情と近藤の、心配させまいというあの笑顔が脳裏に焼き付いて離れない。


老咳か…


決してそう決まった訳ではない。しかしその事が頭の大半を占める。昨日知り合ったばかりとは言え、自分の命の恩人と言っても過言ではないからだ。

目が冴え、じわりと汗が滲む。寝苦しい夜になりそうだ。しばらく寝転がっていたがなかなか寝付けず、夜風に当たりたくなった。起き上がって縁側に向かうことにした。ぺたぺたと畳に足裏がくっつく感覚が煩い。

ひんやりとした床に腰を下ろす。行灯は既に消してしまい、月明かりと星明かりしか入ってこないが、丁度良い。


昨夜とは違い、星がよく見える。昨夜のことを思い出すと、夏であるにも関わらず寒気が襲う。体はそう反応しているが、随分と前の出来事の様にも感じられる。

心は重く、沈んでいた小夜の周りに何処からか螢が舞ってきた。屯所のある場所が比較的田舎だからか、数も多い。思わず笑みがこぼれた。足元さえ暗くて見えづらかったのだが、螢の淡い光が足元を照らす。その内の一匹が彼女の手元に止まった。光が弱くなり、また強くなった。それを繰り返した後飛んでいった。何の音も聞こえなかったが、何となく賑やかな感じがした。

明かり一つをとってみると静かな光だが、集まると非常に華やかで、幻想的で、眩しかった。


束の間の休息といったところだろうか。

この二日間は彼女にとって人生の大きな分かれ道となった日だ。体もだが何より精神的な疲労が蓄積していて、この景色が心の中に染み渡る。


段々と眠くなってきて、布団に入ることにした。明日に備えてということもある。念のため襖を閉めると途端に蒸し暑くなった。

歩く度に畳と足の裏が擦れた音がする。その音は深い闇の中に吸い込まれて消えていった。瞼を閉じるとそのまま眠りについた。



この夜はある夢を見た。


近藤を中心に新撰組の面々が、小夜に背を向けて遥か遠くに向かって歩いて行く夢。向かう先は分からない。途中で隊から離れていく隊士もいる。そして具体的な背景すらなく、色が塗られているだけだった。それも暗い、何色も重ねた結果の様な色合いだった。

それが不吉なものを表していることは感じ取れたが、この時はまだ何も分かっていなかった。

誰にも未来というものは分からない。

だからこそこの夢は何か引っかかるものがあった。暫くの間は忘れることが出来ない程だった。

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