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浅葱の桜は散れども  作者: 巡葉朔乃
3/4

決意

「ということで小夜さん」


もうすっかり陽は沈み、京特有の蒸し暑い夜となろうとしていた。たまに吹く風が心地よい。だが今の状況はその様なことを感じることも出来ない程息が詰まる状況だった。

しかし、にこにこしながら小夜の前に胡座をかいた沖田が口を開く。一気に空気が変わった。その隣には整っていると言うのに気難しい顔をした男、鬼の副長と恐れられた土方歳三が腕を組ながら座っている。


「今日からここにいていいからね」

長い髪を揺らしながら嬉々として言った。しかし土方は沖田のその言葉に対しても乗り気では無かった様だ。小夜が話し始めようとしてもその隙を与えなかった。

彼は終始しかめっ面で、

「しかし近藤さん…本当に良いのか?」

と局長の近藤の様子を窺っている。目だけを動かし、低い声で問う。小夜にとっては圧力以外の何物でも無かった。美しいのに触れると斬られる。その様に映った。


対する近藤はと言うと、立派な体格であり、それに違わず剛胆な性格な様で、

「俺は別に構わないぞ?」

と自身の拳が入るとも言われている大きな口を開けて笑って言う。

「働き手が少なくて困っていただろうに」

その言葉は事実だったようで、土方も反論をしなかった。

土方は頭を軽く掻きむしりため息をつく。仕方ねえな…と前置きしてから、目線を小夜に移し、

「お前はここに置いてやる。あんまり勝手なことするなよ。あと総司」


そして最後に沖田へと目線を流し、

「何かあったらお前がどうにかしろ」

と、かけた言葉は威圧的だった。しかしまだ言い切りでは無く、二言目が紡ぎ出された。

「でも無理はするなよ。体のこと考えろ」

沖田の目が少し大きく開かれる。

「やだな、何いってるんですか。僕は元気ですよ?」

心なしか声が上ずっている。

「元気じゃないだろ。昨日だって血吐いて…。今日は動くなって言っただろ?」


そう言った途端、部屋が静まり返る。小夜も動揺した。あの時自分を助けたのは沖田だ。しかし倒れたと言っている。しかし沖田は気丈に

「だからあれはただの風邪ですって。全く土方さんったら変なところで心配性なんですから…」

よいしょ、と軽く掛け声を掛け立ち上がった。着物の裾が畳に擦れ、静まった部屋にその音が響く。

彼は小夜を一瞥し、

「ほら小夜さん行こ?息が詰まっちゃうでしょ」

茶目っ気がある声で言ったので少し安心した。

突然のことだったので驚いたが、

「あ、はい…もう大丈夫なんですか?」

土方と近藤を見たら、近藤が首を縦に振っていた。じゃあ行くか、と腰を上げようとすると土方に後で来いと耳打ちをされた。頷いてから沖田と退室した。


行灯の灯りは虚しく辺りを照らし続けている。


「…なあ近藤さん」

一点を見詰めたまま言葉が発される。


「あいつ老咳じゃねえか」


近藤も何となく想像はしていた。

老咳と言えば当時不治の病と言われていた病である。

「…ああ。俺もそうじゃないかとは思ったんだが…でもまさかな」

苦虫を噛み潰した様な表情の近藤に対して土方は深くため息をつき、

「俺だって信じたくはないさ。だけどな…ここのところ咳が出るわ午後調子が悪いわ…」

どっちも当てはまってるんだよな、と付け加える。

「まあ俺も医者じゃねえから確信持って言うことはできねえ」

「何も無きゃ良いんだけどな…」

近藤はゆっくりと瞼を下ろした。



「…老咳、ですか?」

文机に肘をつきながら言った土方の言葉に衝撃を受ける。

「あくまで可能性があるってだけだからな。あとこのことは絶対に口外するな」

「…分かりました」

それ以上何も言えなかった。不治の病ということは小夜も知っている。

「あいつにはお前のことは任せたって言ったがあいつのことはお前に任せたぞ」

「何、どうやら君のことは気に入ってるみたいだからな!面倒見良いから安心してくれ!」

その豪快な笑顔は局長という職に相応しく、全ての者の不安を拭ってくれる様だった。ぴしっと張った肩を揺らしながら笑う。


何となく不安を吹っ切ることが出来た小夜は、やっと口を開く。

「じゃあ…頑張らさせて下さい。私に出来ることは全てします」

決意した様子で口に出すと、土方と近藤の口角が僅かに上がったのが見えた。


何があっても最後までやり遂げる。

そう決意した夜だった。

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