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鋼の声で歌って  作者: 五部 臨
鋼の声で歌って
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険しきを冒す者達 / 女騎士オリエル




 始まりと違い、戦いはあっさりと終わった。ぐったりとしている冒険者達は車座になり座り込んだ。

 オリエルも兜だけ脱ぎ、息を整える。朝の風に混じって血の臭いが肺へと流れ込む。死体は端にやり、聖水を掛けて放り捨てたが、今だにむせかえりそうだ。飛び散った粘性の血は大地に呑まれることもなく、ぼうと乾くのを待っている。


「いやあ、やはり拙僧、大活躍であるッ!!」


 その空気を破る声。全員に睨まれながらも、蒸気を吹き上げて、かんらかんらと笑う巨漢。そこに杖がめきりと叩き込まれた。


「君が、一番、邪魔だったんだ」


 やったのは長衣の女だ。目には隈があり、体調はよくないように見えるが力は強い。機械神官の体がぐらりと倒れる。オリエルはほうっと驚きの声を浮かべた。


「ぎがああ、なニをするンだァッ!」


 言葉に不協和音を交えて批難するが、誰もがその批難の正当性を認めなかった。長衣の女はそのまま杖を鋼鉄の頭にぐりぐりと押し付けた。


「はいはい、そのぐらいにして。オリエルさんに紹介しないと」


 パンっと手を叩いて、リオナが状況を仕切った。慣れた様子なのは彼女の苦難の歴史がなせるものだろうかと、オリエルはうんうんと頷いた。

 鼻を鳴らし、ダスイーが口を挟む。


「気になることがある。サクッと済ますぞ。まず、でかいのがガドッカ。顔色悪いのがウィード。困ったらウィードになんか言え。おわり」

「相変わらず適当ねぇ」


 いつものことなのか、ウィードと呼ばれた女は頬に手を当てて苦笑いした。


「私は街の離れで呪術師やっているものなんだ。役目は負傷の治療だから、そう怖がらないでね」

「いえ、治療ができるというのは有り難い。しかし、体の方は大丈夫なのですか」


 顔色は土気色、目の下に隈が浮かぶ。長衣の頭巾は被りっぱなしで、くすんだ金髪が濡れたように顔に張り付いていた。そして膝を抱えて、寒そうに体をぎゅうと締めている。


「ああ、うん、これは素よ、心配しないで」

「はあ」


 思い出せば、確かに傷病者の動きではない。なんとも言えぬ返事を返すオリエルにもう一つ、ウィードは苦笑いした。


「これでもね。私はグリセル達の仲間だったのよ。実力はあるつもり」

「そう、ですか」


 兄の仲間という要素が挟み込まれ、思考が絡まった。

 むむ、唸るの思考を無視して、大きな銅鑼声が耳朶を叩いた。


「ではでは、拙僧の番。ガドッカである。機械の雷神ザオウに仕える神官戦士である。よろしく頼む」


 鋼鉄の腕を差し出してきて、ギシンっとオリエルの手を握ってくる。オリエルでなければ腕が折れそうな力で強烈な握手をぶんぶんと行った。

 ふんっと力を込めて握り返すと拮抗した。なるほど、力は十分そうだ。


「ほう、できるな」


 したり顔で言う機械の神官。他の仲間達はオリエルが耐えたことに、うわあという声だけで反応がなんとも止まってしまった。

 何かおかしなことをしただろうかと頬をかいて戸惑う。気にすることを早々に取りやめて、オリエルも礼を返す。


「オリエル・コークスグルトと申します。此度、皆様の戦列に加えていただくこととなりました。戦人としては未熟者でありますが、ご指導ご鞭撻、お願いします」


 軽く握った右手を胸の上に置き、頭を下げた。


「せいぜい」

「任せな! 拙僧はベテラン、というものなのだ」


 ダスイーの声を切り捨てて、ぷっしゅうと煙を噴き上げて答える。呆れたように声を漏らす周囲に、なんだなんだと不満げに声を上げた。

 ふて腐れるダスイーを無視しつつ、リオナはまた手をパンと叩いた。


「はいはい。それで兄さん、どうしたの」

「なんでもねぇよー」

「に、い、さ、ん」


 立ち上がり、ずいっとダスイーに寄るリオナ。見上げる形のダスイーは思わず目を逸らすが、その方向ですら読まれているようで先回りされていた。

 まさに手の平の上だ。ダスイーはせめてもの抵抗として舌打ちするがまったく様にならない。億劫そうに、口をこちらに開いた。


「たぶんだがなあ、迷宮の再構築が起こっているかもしれねぇ。気をつけろ」

「再構築というと」

「部屋だの罠だの怪物だののがよぉ、一気に召喚されているんだよ。下手すると喚ばれたモンで中が変わっちまうから、再構築っつーんだ。間違い探しみてえに変わってることもあるし、パッと見で分かることもある」


 ふんふんと頷くオリエル、ウィードが代わって言葉を続ける。


「例えば、今戦った顔面人だけど外まで出てくるものではないわ。以前は結構、奥の方で見かけたわね」

「十八階層の鍾乳洞のあたりだったかねぇ。それも数回しかあわねぇ、レアもんだ。っても面倒なだけで、強くもねえし、実入りもねえけどよぉ」


 ダスイーの言葉にリオナはそれにうんうんと頷く。さらさらと黒髪が揺れた。


「それじゃあ、その辺りを気をつけて迷宮に突入。今回の目標は第五層の下水道までの探索。今回はたぶん再構築直後だから、そこまでにしましょう」

「へいへい。そいじゃあ、野郎共。ぼちぼち向かうぜぇ」

「了解です」「おー」「はいはい」「うっし、任せろ」


 各々がバラバラの返礼をして立ち上がる。吹き上がる蒸気を見ながらオリエルもゆっくりと立ち上がる。

 埋め込まれた石の門は開いたままで、黒々とその深淵をこちらに向けていた。





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