対決! 「ジュエリー」四天王 その1
あたしの足元には、気力を使い果たして再び気絶した中賀絵里さんがいます。この人はもはや脅威とはなりえません。しかし、目の前にまだ六人の女子が立ちはだかっています。校内では結構有名な3年生ばかりですね。顔を見たら名前がポンと浮かんできます。まあ、どんなことをして有名なのかまでは知らないんですけど。やっぱりどこかの部の部長なのかな。
改めて考えるとこの学校、風変わりな部が多過ぎるんですよね。絶対権力者の理事長の方針だといえばそうなんでしょうけど、生徒の自由を認め過ぎです。深夜労働部っていう非合法な感じの部まであるんですよ。
で、目の前に一人、風変わりの代表みたいな人がいます。人目を引く青い瞳。その上、忍び装束なんて奇天烈なものを身に付けている人なんて、校内でこの人だけです。
「忍術研究部部長・エリ峰田、推参。──神懸美子、覚悟」
うわ、いきなりこうきましたか。出し抜けに「覚悟」とか言われたって何のことやらって感じ。なんかやけに淡々としていて、ヤバい人みたいです。忍者っぽいといえばその通りなんですが……。
「ちょっと待ってよ。何か口上はないの? せめて後の五人ぐらい紹介してよ。せっかく『ジュエリー』の正体を掴んだんだから、答え合わせくらいさせてくれたっていいじゃない」
「『ジュエリー』が何なのか、知っているというのか」
峰田さんが微かに驚いたような表情を浮かべました。
「勿論よ。あんた達6人がしゃしゃり出てきてくれたおかげで、あっさりわかったわ」
「ならば、抹殺するしかないな。忍術研究部は元々そのための部。『ジュエリー』の中にあって諜報と暗闘を担当し、組織に邪魔な者を排除する除去者──それがこの私。『ジュエリー四天王』にして、ナンバーフォー、エリ峰田だ」
ああ、この人が中賀さんの言ってた四天王の一人ですか。体形はスリムですが、やっぱり強いんでしょうね。それにしても言ってることが中賀さん以上に物騒です。もしかして「ジュエリー」の序列って、過激な順なのかな?
あたしはこう言ってやりました。
「抹殺だなんて恐ろしいこと言うのね。うちの学校には、凶暴な変態はいても、根っからの不良なんていないと思ってたけど、『ジュエリー』って不良の集団なの?」
「そうとは一概に言えないな。ただ、『ジュエリー』のために働けば、その見返りとして、やりたいことをさせてもらえる。私にとって、それは暴力であり、ニンジャとして働くことなのだ。何をやらかしても、みんな組織が守ってくれる。他の『ジュエリー』のメンバーも、そして、その配下の連中も、それぞれに何か手助けしてもらいたいことがあるからこそ、『ジュエリー』に尽くしているんだ」
「だったら、『ジュエリー』を操ってる人の目的は何なの?」
「知らないさ。知る必要もない。知ってても『ジュエリー』の敵であるお前には言えない」
あたし、峰田さんの青色の眼が怪しく輝いたような錯覚を覚えて、一瞬すくんじゃいました。こんな怖い人とはあんまり話していたくありません。
「さあ、散りゆく者の最期の頼みに応えて、この5人の紹介をしておこう。──と思ったが面倒だから、お前ら自分でやっておけ」
峰田さんが投げ遣りに言うと、他の5人が一瞬顔を見合わせました。視線で協議がかわされたようです。一人ずつ順番に前に出て大声で名乗り出しました。
「『ジュエリー』のナンバーシックス、政治学研究部部長、間伽部恵里」
「同じくナンバーセブン、男装応援部部長、津芽えり」
「同じくナンバーナイン、洋弓部部長、亜々地江莉」
「同じくナンバーテン、旅行研究部部長、日賀絵梨」
ああ、やっぱり、そうなんだ。──男装応援部に思わずツッコミたくなる気持ちを抑えて、あたしはこう言い放ちました。
「中賀さんが言っていたわ。『ジュエリー』は10人だと。そして、あなた達全員、『えり』という名前だわ。これだけ聞いて『ジュエリー』の正体にピンと来ない人はいないわね」
「え、そうかな」
6人が一斉にあたしから視線を逸らしつつ、下手くそな口笛を吹き始めます。こんな古くさいリアクション、久々に見ました。
「『ジュエリー』というのは『10人のえり』すなわち『10えり』をもじった組織名ね。ついでに言うなら、命名者は間違いなく中賀さん」
「あ、当たっている。──ま、まさか我が組織の最高機密が、こんなにもあっけなく解明されてしまうとは。恐ろしや、神懸美子」
峰田さんがブルブルと身体を震わせ始めます。
「やはり『ジュエリー』のナンバーワンの言葉は正しかった。『神懸美子は必ず我が組織に災いをもたらすだろう。やられる前にやれ』。──神懸美子、今度こそ覚悟!」
わ、峰田さん。両手の拳にメリケンサックみたいなものをはめましたよ。当たったらただじゃ済まなさそう。あ、亜々地さん、アーチェリーを構えてます。これって、もしかして絶体絶命?
「ちょ、ちょっと。それじゃ、当たりどころが悪かったら死んじゃうじゃない。ほんの何週間か、あたしを動けなくするだけでいいんでしょ。もっと穏便にいきましょうよ」
「そんな指令、私は聞いていない。ただ抹殺あるのみ」
峰田さんが冷たく言い切ります。
本格的にまずいことになりました。ちなみに残りの「ジュエリー」4人も、それぞれ「鈍器のようなもの」と「バールのようなもの」を手にしています。
「うわーん。話が違ぁぁぁぁうぅぅぅ!」
あたしは取り乱したふりをしながら、誰を降霊すべきか必死で考えました。橘君なら、橘君ならやってくれる、と思いたいところですが、何しろ相手には武器があります。
「ふふふ。何か必死で策を考えているようだが、無駄だよ。何しろこの私は『世界忍術選手権』の金メダリストなのだ。強さの次元が違う」
ガーン。「世界忍術選手権」の金メダリストということは、世界一の忍術使いということじゃないですか。凄い。凄過ぎる。かつて一度として耳にしたこともない大会だけど。
もう橘君でも勝てないかもしれませんね。
じゃあ、峰田さん自身を降霊するのは?
うーん。峰田さんは危険過ぎますね。あたしの身体を使って「抹殺!」なんてやられたら、あたし、最悪の場合、殺人犯になっちゃうじゃないですか。
亜々地さんとかは?
峰田さんプラス5人が相手だと、目の前の誰を降霊しても勝ち目はないんじゃないかな。
ならどうすれば?
こうなったら腹を決めるしかないでしょう。思いついたばかりで何の保証もないですが、この窮地を切り抜ける唯一の手段にすがるしかありません。
あたしは演技で余裕たっぷりの笑みを浮かべました。
「仕方ないわね。そっちがその気なら、相手をしてあげるわ。でも、あんた達、負けたら相応のひどい目に遭うけど、いいの? しばらくは起き上がれないかもよ」
「そんなことにはならないさ」
「じゃ、勝負ね。小手調べにみんなでジャンケンなんてどう?」
「ジャンケン? なぜ今ジャンケンを?」
「──ウェルカムウェルカム・ライライライ、来たれ我が心のしもべよ」
敢えて質問を無視し、まずは誰にも聞こえないくらいの小声で降霊の呪文を唱えます。
「みんな、勝負しないの?」
あたしはそう訊ねるやいなや、相手の返答を待つことなく、最後の言葉を口にしました。
「──降霊!」
全て完了です。
霊界に向かう寸前、あたしの耳に六人全員の「拒否する」という声が確かに届きました。
──あーあ、やっぱり勝負断っちゃったのね。これで不戦勝、決定!
さて、霊界です。今度の降霊術は多分とっても短いでしょう。何せもうほとんどカタがついちゃってますから。
ミコちゃん劇場・その6 『ダジャレ探偵』
長万部レオは探偵である。開業当初は自分の名前をもじって「オシャレ探偵」と名乗っていたが、あまりにレベルの低いダジャレをを連発するので、いつしか「ダジャレ探偵」と呼ばれるようになった。
だが、長万部の関わった事件は、ことごとく二日以内に解決しており、犯罪者の間では「シャレにならねえ」と恐れられている。
「ダイイングメッセージの謎」
ダジャレ探偵・長万部レオは、とある孤島に建つ大富豪の別荘に招待された。彼はその大富豪の名前に全く心当たりがなかったが、届けられた招待状があまりに怪しげなものだったため、好奇心に駆られてつい招待に応じてしまった。アホである。長万部は上機嫌で「正体不明の招待状。イッツ、ショータイム」などとつまらないダジャレを繰り返し呟きながら、迎えにきたモーターボートで島へ向かったのだった。
さて、大富豪の別荘には他にも招待客がいた。建築家の三井隆、画家の川合健次、僧侶の高田勝運である。三人は互いに面識はなかったが、共通点が一つだけあった。それは招待者の大富豪との間に深刻なトラブルを抱えているという点だった。
突然の激しい嵐。桟橋から消えたモーターボート。パニックに陥る招待客。長万部は事件の予感に、思わず身構えた。
そして、事件は起こった。別荘の西側の部屋で大富豪が殺されたのである。
「西に死体」
執事からの連絡を受け、長万部が不謹慎な微笑みを浮かべながら現場に向かう。「西に死体」のどこに笑える要素があるというのだろうか。
部屋に入ると大富豪が血まみれで倒れており、その前で三井と川合が何やら激しい口調で相手を罵っていた。それを高田が「まあまあ落ち着いて」と取りなしている。
大富豪はナイフで心臓を刺され、絶命していた。部屋には激しく争った跡。
そして、大富豪の右手の指先付近には、死ぬ前に自らの血で書き記したとおぼしき文字が残されていた。それは「三」あるいは「川」と読める。紛れもないダイイングメッセージだった。
要するに三井と川合は互いに相手が犯人であると主張して、言い争っていたのである。
執事は悲しげな表情で言った。
「詳しい経緯は存じ上げておりませんが、旦那様はここにおられる三井様、川合様、高田様にそれぞれ深い恨みを抱いておられました。旦那様が和解と融資を名目に御三方をこの島へ招待したのは、断言はできませんものの、恐らくは……」
「俺たちを殺すつもりだったのか!」
三井がわめいた。
「断言はできませんが。──確かに私は命じられてモーターボートを海に流しました。けれども、それ以外は何も聞かされておりません」
「ま、ここは被害者が三井さん、川合さん、高田さんのうちの誰か、もしくは全員を殺害する計画を練っていたということで話を進めましょう」
大富豪の書いた文字を見つめていた長万部がおもむろに口を開いた。
「被害者は犯人を殺そうとしてに返り討ちに遇ったのでしょうね。──さて、皆さん。殺害現場で遺体を身ながら話すのも辛いでしょう。それに現場の保持も大事です。ここは一旦、上の居間に行きませんか」
長万部に促され、全員、居間へと移動した。
「今、居間にいます。さっきまで真下にいました」
そう呟きながらニヤニヤとしている長万部以外、全員が青白い顏で引きつった表情をしている。
「では、ここで私の推理を披露しましょう」
長万部は自信たっぷりに言い放った。
「まず、なぜ私がここに招待されたかです。恐らく被害者は、高い社会的信頼と卓抜した推理力を持つ私を、うまく利用しようとしたのでしょうね。例えば、三井さん、川合さん、高田さんが殺されたとして、その場合、誰が真っ先に疑われるでしょうか?」
「それは……旦那様です。動機がありますので」
「そうです。被害者は、自分が疑われないための策を予め練っていたと思われます。私はきっと、被害者のアリバイを証言したり、捏造された証拠を元に得意気に推理を披露したりするピエロの役割を担わされていたのでしょう」
長万部はそこで言葉を切り、三人の招待客の表情をじっと窺った。
「さあ、そんな背景はさておき、今回の殺人事件だけをとってみれば、中身は実に単純です。密室殺人でも全員にアリバイがあるわけでも凶器が消えたわけでもない。普通に被害者がナイフで刺し殺されたというだけ。間違いなくこの中の誰かが犯人です。そこで問題となるのが、あのダイイングメッセージ……」
「あれは『三』だ!『川』じゃねえ!」
川合が三井を指差して怒鳴った。
「犯人はこいつだ!」
「馬鹿野郎! あれは『川』だ。死体の指の位置で一目瞭然じゃねえか。『三』だとすれば、三画目を右から左に書いたことになる。不自然だ! 犯人は川合、貴様に決まってる!」
怒声と共に三井が川合に掴みかかろうとする。とっさに執事が間に入り、三井を押し止めた。
「残念ながら、旦那様は筆順は極めていい加減な方でして……」
蚊帳の外の高田がふうっと大きな溜息をついた。疲れた表情だ。
「勿論、私には犯人がわかっています」
長万部は堂々と言った。全員の視線が彼に集まる。そして彼はゆっくりと手を伸ばし、一人の男を指差した。
「犯人は……高田さん、あなたです」
訪れた一瞬の静寂を打ち破り、雷鳴が轟く。
「ええっ! なんで私が。なんでそうなるんですか」
突然一方的に決めつけられて、高田が激しい動揺を見せた。
「どういうことですか?」
執事が怪訝な顏で長万部に問いかける。半信半疑のようだ。長万部が答える。
「だいたい、ダイイングメッセージなんてものは、犯人が戻ってきて見つけられたら消されておしまいなんですよ。でも被害者は心臓を刺されて、文字を隠すだけの余裕がなかった。だから見られてもいい形で書き残したんです。実際、あれは一見、三井さんか川合さんを指し示しているように見える。犯人の高田さんは、殺害現場であれを見てほくそ笑んだはずです」
今度は三井と川合がホッと溜息をつく。僅かに緊張の糸が緩んだらしい。
「だから何で私が犯人になる。馬鹿馬鹿しい」
高田はそう吐き捨てるように言うと、ギロリと長万部を睨んだ。
「それはあの文字が、そのままあなたを指し示しているからですよ」
「何だって!」
高田が意外そうな声を上げる。ニヤリとしながら長万部が続けた。
「あなたはお坊さんですよね」
「ああ」
「ダメですよ。そこは『そうだ』と答えなきゃ。──お坊さんですよね」
「そうだ」
「あはははは。言った言った。坊さんが『そうだ』と言った」
大はしゃぎする長万部に、他の全員の冷やかな視線が注がれる。
「怒りますよ」
執事がムッとした表情で言った。
「まあ、待ってください。──高田さんはお坊さんです。では、あの文字は?」
「『三』だろ」
と、川合が言った。
「『川』だろ」
と、三井が言った。
「違います。被害者は最後の最後までこの私を利用しようとしました。この『ダジャレ探偵』──長万部レオを」
「するとあの文字はダジャレ的な何かということですか!」
執事が目を見開いて言った。
「そう。正確には文字と見せかけた図形です。あれは『三』でも『川』でもなく、『棒が三本』なんですよ。すなわち……」
「『棒三』!」
執事と川合と三井が同時に叫んだ。
「そう『ぼうさん』です。犯人はあなただ、高田さん」
「ノーーーー!」
高田の絶叫が室内に響き渡る。
その時だった。
凄まじいまでに荒れ狂っていた風雨と、岸壁を激しく叩き付けていた波の音がピタリと止んだ。嵐は過ぎ去ったのである。
翌日、執事より通報を受けた警察が孤島に到着した。捜査の結果、動かぬ証拠が見つかり犯人はその場で逮捕。犯人は川合健次だった。
長万部レオの関わった事件は、ことごとく二日以内に解決しているという。事の経緯はともかくとして。
おしまい
西園州リカさんからバトンタッチを受け、あたしが不毛な妄想から現実に戻ると、そこには奇妙な光景が広がっていました。
絶賛気絶中の中賀さんを除く「ジュエリー」の連中が、全員放心状態で床にへたり込んでいます。体育座りでブツブツ呟いたり溜息をついてみたり。西園州さんの言葉が正しければ、みんな当分の間、使い物にならないみたい。
あたしは、西園州さんを降霊する直前に、「ジュエリー」の連中に対し、「勝負に負けた場合はしばらく起き上がれないような目に遭う」という説明を済ませていました。ジャンケンの勝負を持ち掛けたのは、彼女らに断らせるため。勝負を断ればその途端、西園州さんの能力における「不戦敗」の要件が充たされます。そして降霊と同時に、狙い通りの効果が「ジュエリー」の連中に生じたのでした。──以上、タネ明かし終わり。
ちょっとした賭けだったけど、うまく行ってホントとってもラッキー。
さあ、行きましょう。面倒なことはサッサと終わらせるんです。「ジュエリー」のネタが割れた以上、こちらから仕掛けるのもありですよね。
続く




