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恐怖の女子水泳部 その3

更新は3日後と言いながら、少し暇ができたので第1話だけは終わらせました。

 一瞬にして、あたしは霊界らしき世界へとやってきました。ここは、人の意識が具象化する世界です。取り敢えずお花畑でも作って、ゴロ寝でもしてましょう。


 あたしのことは、もう女子水泳部の部長に全部丸投げしてあります。目指せ同士討ち。あたしの作戦通りにうまくやってくださいよ。くれぐれもあたしの身体を傷つけないように。


 それにしても、一人称でやってるために、憑依された後のあたしの描写をしなくていいってのは、とっても楽ですね。


 ま、あたし、これまでだって、別に大した描写はやってませんけど。――降霊術をとったらただの人、っていうのが、あたしの設定なもんで、描写力も、ただの人のレベルそのままなんですよ。それがリアリティってもんです。そうじゃありませんか?


 さあて、ただゴロ寝しててもつまらないですから、暇つぶしに、何か小話でも考えてましょうかね。



 ミコちゃん劇場・1 『峠の茶屋』


 気分は時代劇。とある峠の茶店にて。



「おや、お侍様。いらっしゃいませ」

「婆さん。すまぬが茶を一杯もらえぬか。喉が乾いてたまらぬのだ」

「さようでござりまするか。されど、ただいま、あいにくと茶を切らしておりまして、出がらししかござりませぬ」

「いや、出がらしでかまわん。頼む」

「今、『出がらしで、かまわん』と仰せられましたか?」

「ああ。早く頼む」

「本当にそんなもの注文なさるんで?」

「人の注文にケチをつけるな。早くしろと言っておろうが」

「は、はい。かしこまりました」

「おい、何をしている。茶碗に鎌などくくりつけて」

「『鎌碗』でござりまする。今、注文なされたではございませぬか」

「ふざけているのではあるまいな」

「滅相もないことでござります。鎌碗は、この地方の風習でございまして。――はい、どうぞ」

「妙な風習だな。まあ、こっちは茶さえ飲めれば……。――うおっ! な、何だ、この味はっ! かっ、辛い。クソ辛いではないか。まるで、辛子を湯に溶いたような……。はっ、まさか、これは……」

「『出がらし』でござりまする」

「これも、この地方の風習か?」

「はい」

「ああ、辛かった。口直しだ。水をくれ」

「はて? 水とは何のことでしょう」

「水は水だ。知らぬとは言わせぬぞ」

「知りませぬ」

「ババア、拙者を愚弄する気か」

「とんでもないことで。本当に心当たりがないのでござります」

「馬鹿な。川を流れておろうが。空から雨となって降ってくるだろうが」

「ああ、湯の冷めたやつのことでござりまするな。なるほど。それを他所では水というのですか」

「湯の冷めたやつ?」

「この地方は火山活動が盛んで、あちこちに温泉がございましてな。それで、湯という言葉の方が一般的なのでござりまするよ。――水という言葉なぞ、わしは初耳。これがホントの『水知らずの人』」

「クソババア! その下らぬ洒落を言いたいがために、水を知らぬなどと申したな」

「おみそれしました」

「斬られたくなかったら、さっさと水を持ってこい!」

「はいはい。水なら向こうに。――これがホントの『向こう水』」

「斬るぞ」

「ど、どうぞ、平にご容赦を。――はい、水でござりまする」

「む。確かに水だ。だが、ちょっと硫黄臭いな」

「何しろ、温泉の湯をただ冷ましただけでござりまするゆえ、硫黄臭いのは致し方ないことかと……。――これがホントの『水臭い』」

「許さん! 絶対に斬る!」

「まあまあ、落ちついて」

「落ちつけるものかっ!」

「では、オチもつきませんで、まことに申し訳ござりませぬが、この辺で……」

 

                                  

 こちらは霊界? です。会話文ばっかりの小話はいかがでしたか? 女子水泳部の部長が、水の話なんかするもんで、つい水をテーマにしてしまいました。


 あたし、実は気の利いたオヤジギャグとか冗談、とっても好きなんですけど、少しハズす確率が高いもんで、天才美少女の知的なイメージを守るため、人前では言うのを我慢してるんです。ツライわあ。



 あら、ここは?



 何の前触れもなく、周りの景色がクルリと変わりました。どうやら保健室に戻ってきたみたいです。



 辺りを見回すと、室内は、薬やら何やらが目茶苦茶に散乱し、ひどいありさまになっていました。保健の先生、明日、ここに来たらきっと、卒倒しますね。


 床には4人の女子水泳部員がぶっ倒れています。まずは女子水泳部の部長を降霊して部員を攻撃させる作戦、うまく行きました。おしまいに虚脱状態の自分自身の身体もちゃんとぶっ飛ばしてくれたみたい。ラッキーなことにあたしは無傷。女子水泳部の部長が思いのほか強かったってことですね。


 さて、この後のことはあまり心配してません。仮にこの事件が問題となったとしても、あたしは正当防衛を主張できますから。保健室の破壊を含めて、何もかも女子水泳部が悪いということで、片づけてしまえるような予感がします。ザマーミロです。――けど、うちの学校は、絶対権力者である理事長の強力な意向があって、生徒の行動には、とても寛大なんですよ。ま、女子水泳部の連中が退学になるなんて事態は、まず起こらないでしょうね。


 おや、1人、まだ意識があるみたいです。


「か、神懸さん……」


 女子水泳部の部長が、床の上に横たわったまま、必死の形相で、あたしに話し掛けてきました。


「あたし達は、諦めないわよ。きっと、あなたを……背泳ピンクにしてみせる」

「イーヤですよー」

「あなたがいなくては、水泳戦隊は不完全なのよ。お願い。水の……水の声を聞いて。水の悲鳴に耳を傾けて。あなたになら聞こえるはずよ」

「そんな非現実的なこと、聞く耳、持ちません」


 あたしは、自分の能力のことを棚に上げてそう言ってやりました。


「なら、せめて、あたし達が元気になるまで無事でいて……」

「あたしが狙われてるってこと? ――それ、あたしを部に引き入れるための口実じゃなかったの?」

「違うわ。信じて。この期に及んで、嘘は言わない。――うっ!」


 あ、女子水泳部の部長が、一際苦しそうな表情を浮かべました。こいつはまずいパターンになりそうな気がします。


「じゃ、いったい、どこの誰があたしを狙ってるっていうの?」

「――『ジュエリー』に気をつけなさい……」


 女子水泳部の部長は、それだけ言って、あっさり意識を失いました。――こら! 肝心なことが何一つわからないじゃないの。せっかく変態なんだから、ありがちな展開のパターンを打破してみなさいよ。


 ともあれ。


 ああ、ヤな気分。かわいくて、明るくて、頭がよくて、スポーツ万能で、その上、気立てのとってもいい、このあたしが、なんだって「ジュエリー」とかいう、わけのわからないものに、狙われなきゃなんないの? ――といったことは、全然考えてません。まあ、今までどんな問題もノラリクラリとそれなりに乗り越えてきましたからね。このくらいでクヨクヨしていられませんって。


 あれ、そういや、今、何時だろ。


 唐突に現在時間が気になったあたしは、すぐさま保健室の掛時計を見やりました。


「うっそー!」


 なんということでしょう、もう5時を過ぎているではありませんか。


 があああああん! 今から食品スーパーに寄って食材買い揃えてから帰ったんじゃ、どんなに急いでも7時が精一杯。お母ちゃ──母さんに「遅い」って大目玉食らうわ。


 まずい。うちの母さんチョー怖いんです。もはやこれ以上出発を遅らせるわけにはいけません。ですが、ですがっ、着るべき服がないんです。どうしましょう!


 困りました。マリちゃん、まだ目が覚めてないもんで、しばらくはあたしの服、取ってきてもらえそうにありません。かといって、シーツを巻きつけただけの姿で、人が通るかもしれない廊下を通って女子更衣室へ行くのも、やっぱり恥ずかしいし。


 ん? ――そうだ! いい方法があったっ!





 まあ、名案は名案だったんですけど、あーあ、あたしって、ホントに友達甲斐のない女ですね。2分後の今、あたしは、ちゃんとした制服姿で、女子更衣室への廊下をひた走ってるわけなんですが、どうも後ろめたいんですよね。えっ? その制服、どこから手に入れたって? ――では、問題です。保健室のベッドの上で寝てるマリちゃん、実は今、素っ裸なんですよね。いったいどうしてでしょうか?

                                     第1話  完


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