かすかなつながり
「やめちゃうって、ほんとだったんだね
あたし、さ
ずっともっと仲良くなりたいと思ってたんだ。
まあ、もう叶わんくなっちゃうけど
…ざんねんだな
ばいばい。」
そう、あたしはあの子がお気に入りだったの。
部活ちゅう、目が合う。
ボールをわたすと、目をみて、ありがとうございますっていう。
そして、ゆっくり目をそらす。
自惚れかもしんないけど、目が合うとか、そうゆうことって
相手も少なからず…?っておもっちゃうの。 あたしはただのせんぱいだし、君はただの後輩。
それだけだけど、それだけなのに…
もどかしくて もっと知りたくて、知ってほしくて。
けど、なんにも勇気がなくてなんにもできなくて。
それで、そのまま半年。
それで、急に、その話。
ほんとに?え?なんで? 頭のなかが ?マークでいっぱいになった。
やめる、って
あたしたちの唯一のつながりがなくなるんだって。 あーあ、ほんとになんにもできんかったなあ。
好きだったんかなあ。好きになれたのかもしれないなあ。
もっとお互い、知れてたら…もっとつながれてたら
ほとんど、話したこともないのに ほんとに最後だ、って思ったら
ちょっとだけなけなしの勇気がでた。
せいいっぱい、無理して
せんぱい風を吹かせて。 忘れられないように。君に。
――いや、違う 自分が忘れられるように、だ。
ちょっとだけ、目が潤んだ。 泣くなんて、ありえない
なんにもなかった。できなかったんだから。
ずっと、気になってた。
それはたぶん、俺も向こうも。 けど、ずっとなにもなかった 気になるとはいっても、声をかける勇気がなかったんだ。
なさけない と思う けど、
言い訳させてもらえば 相手はせんぱいだし、上の学年での評価も知ってるし なんか、俺なんかじゃ…って思ったんだ。
なおさら、なさけないな、俺
だからこそ、いつも目をあわせることが嬉しかった。
絶対、俺からはそらさないようにしようと した。
それが、ほんのちょっとの、なさけない俺の、意思表示になれば… って、そんなの伝わるわけないよな。 だけど…せんぱいも、そらさない?
いや、正直 目があうだけで 嬉しかった。
そんな、かすかな糸でつながっていた関係を俺は壊してしまった。
部活をやめたんだ。 理由はいろいろだ。
辛かった部活のなかでただひとつ、せんぱいのことだけが 気掛かりだった。
最後に部室に、 私物をとりにいった。
そのとき、急に声をかけられた。
聞きなれない、でも どこか落ち着く声。
明るいけど、無理してる。それがわかった、「ばいばい」。
そんな、そんな 寂しそうな声で言わないでください
――もう、俺はいなくなるのに、 俺が、部活を、かすかな糸をきったのに。
…「せんぱいっ」
あなたの声で勇気がでたんです。あなたのことばで。あなたが、俺の背中をおしてくれた。
伝えたい。この、想いを
――俺も、そう想ってました。
「俺と、仲良くなってもらえませんか?」