八話/彼女は、亜麻色の乙女
「亜麻色の髪の乙女」
鈴村は、ふっと笑うとそう言って、靴箱から、靴を出した。
「・・・?」
僕は、ハテナマークを頭に乗っけて、靴を出しながら、彼女を見た。
僕の頭の中では、数年前に女性シンガーが唄っていた、「亜麻色の髪の乙女」が流れていた。
「あの「亜麻色の髪の乙女」とは、違うからね。ドビュッシーの。」
「外国人歌手?」
「クラッシックだよ。私の鼻歌じゃ分かんないと思うけど、多分、聞いた事あると思うよ。」
「ふーん・・・ピアノでも、やってるっけ?」
「ううん。なーんにも。」
彼女は、そう言って、早く帰ろう!と、手招きをした。
彼女の髪の毛が、夕日に照らされる。
天使の様な彼女の頬に、涙の跡と腫れぼったい目が、夕日に照らされる。
胸が痛くなる・・・
頭がズキズキとし始める・・・
僕の弱い部分が、ズキズキと僕を責め立てていく。
歩くごとに、痛みが増加していく。
今日、彼女を助けたかったのに、助けなかった僕が、彼女と僕自身に罪悪感を感じているのだ。
「頭、大丈夫?」
「え?」
顔を上げ、辺りを見渡すと、もうすぐ、鈴村と別れる道に近づいていた。
「下を向いて、何か考えてんのか、痛いのか・・・みたいな様子だったから・・・。」
「あ・・・そうなんだ。」
「無意識で?やっぱ、頭打ったからだよ。早く家に帰って、冷やして、医者に行った方がいいよ。」
「大丈夫だよ。」
「本当に?」
「うん。」
「そっか。」
鈴村と、別れる道が来た。
「じゃあね。」
「うん。」
鈴村が、後ろを向いて歩いていった。
「・・・ごめん。」
僕は、小さい声で呟いた。
頭が、ズキリとまた、痛む。