四話/彼女の、笑顔
「なんて言うんだろうね。」
彼女は、ぼんやりと歩いた。
「自分が自分でなくなる・・・とか、そーゆー訳じゃないの・・・」
彼女の髪が透き通る。
僕は、それに触りたくなる。
「考えるの、私がなんであるのか。毎日が、繰り返されてる。ご飯食べて、ドラマ見て、ふかふかの布団で寝る。それが楽しみなだけの毎日。繰り返し、繰り返し・・・あぁ、どうなっていくの?って考える事に、蹴りたい衝動にかられるの。てゆか、考えてると、公園に行ってしまうの。」
「それを、自分が自分じゃなくなるって言うんじゃないの?」
「・・・え?そうなの?」
あぁ、この人、結構、抜けてるのかも。
僕は、ぼんやりと、ただただ、夕日を見ながらそう、思った。
「まぁ、違う世界に行ってしまう感じ?授業中とか、ボーっとしてると授業進んでて、そのボーっとみたいな。」
彼女は、説明があまりうまくない。
僕は、理解が出来なかったが、そんな彼女が、愛らしかった。
僕は、いままで、彼女の事をまったく、知らなかったという事に今頃になって、ハッキリと自覚した。
いや、興味がないから、知る事なんて、どうでもよかったのだろう。
なんて、損な事をしていたんだろうか。
「ねぇ、鈴村。」
「ん?」
「俺と帰るの・・・慣れた?」
「・・・微妙。」
「そっか。」
「うん。」
「こうして、鈴村と帰る様になったのも・・・あの日、あの時、鈴村を見かけて、俺が鈴村を見てたからだよなぁ・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「こーゆうのを、一期一会って言うのか・・・?」
「・・・さぁ・・・?」
鈴村は、表情を変えずに、そう応答した。
あっ、という間に、鈴村と別れる場所に来た。
僕は、繋いでいた鈴村の冷たい手を、自然に離した。
僕の手に、鈴村の冷たい手の感触が残る。
「・・・じゃあ、な。」
「うん。」
僕は、僕の家の方へ歩き出した。
「・・・・・・――ねぇ!!」
僕は、振り返った。
「・・・私・・・君といると、なんだか、金網を蹴る衝動がなくなるの!!」
「・・・・・・・・・」
「私、君と帰るの・・・なんだかんだで、楽しいよ。」
そして、僕は、驚いた。
「・・・・・・ありがとう。」
僕は、今の彼女の姿を写真に撮って、ずっと持っていたいと思った。
彼女は、僕が今まで見た中で、一番・・・優しくて、愛しい笑顔をした。
僕は、手を振ると、一目散に、家に走った。
なんだか、とても、嬉しかったから。
今日は、今日という日に、感謝した。




