三話/僕も、男だ
僕にとって、鈴村帝の存在が日に日に大きくなっている事は、僕自身の中で、とてもハッキリとしていた。
ふと、考え事にふけると、彼女の姿が頭をよぎるのだ。
クラスでも、周りで一緒に喋る女子が、セピアに見えてくる。
彼女の、あの透き通る様な病的な白さだけが・・・唯一、カラーな気がしてならない。
別に、特別綺麗な訳じゃない。
別に、特別可愛い訳じゃない。
正直、男なんて顔重視だ。(僕だけか?)
性格が多少悪くても、可愛かったりすれば、それで、いいのだ。
それなのに、どうして僕は彼女を、気にしているんだ。
自分でも、よく分からない。
なんなんだ・・・鈴村帝は。
「帝ぉ!!体育の村松が呼んでるよ!」
廊下から、ひょこっ!と顔を出し、化粧をした女子が、高い声で鈴村を呼んだ。
「は?マジっっ!??うんー、分かった!ありがとねー。」
鈴村が、走って教室から出て行く所を見た。
後姿が、なんだか、可愛い。
「なーに、見てんの?」
「え?あ、いや。」
鈴村を呼んだ女子が、ニヤニヤしながら僕に寄ってきた。
「帝が、気になるの??」
「違うって。」
そんな事を言いながらも、僕は、鈴村が戻ってくるまで、教室のドアを何度も見たのは、認めざるおえない事実だった。
「ごめん。」
「別に。」
夕焼け空が、悲しそうにカラスを泳がせている。
鈴村帝は、面倒くさそうな顔をしていた。
先日から、僕らは毎日、一緒に帰る事になった。
まぁ、この前、僕が脅したからなのだけれど・・・。
僕は、テニス部なので、帰りが遅い。
そんな中、僕は、受験生で帰宅部の鈴村を待たせている。
正直、申し訳ない気持ちもあるが、鈴村を僕が見張ってなきゃいけない、と自分自身に言い聞かせてみた。
「なんで、アタシがアンタを待ってなきゃいけないんだ!って、顔してる。」
「そう?・・・・・・まぁ、ね。」
彼女は、遠くを見て笑った。
・・・――ほら、その顔。その顔がなんだか、不安なんだ。心の奥で、きゅ、ってなる感じ。心が、閉まるんだ。不安になる。
「・・・・・・・・・!」
僕は、思わず鈴村の手をとった。
「・・・なに。」
「いや・・・なんでもない・・・訳でもない。」
「・・・・・・。」
彼女の手は、異様に冷たかった。
彼女の顔を、見た。
僕を見ている。
「・・・・・・・・・手・・・手繋いでてもいい?」
「・・・ん」
鈴村は、小さく頷いた。
また僕らは、歩き出した。
僕の手と鈴村の手が、繋がっているのがコンクリートに影となって、映し出されている。
カラスが二羽、夕焼け空に羽ばたいた。
「・・・・・・金網・・・蹴ってない?最近は。」
「うん・・・。とりあえず、大丈夫かな。」
「そっか。」
彼女の手を、少し握った。
小さい手だ。
「そういえば、何で、今日先生に呼び出されてたんだ?・・・悪い事でもした??」
僕は、少しからかい気味に言った。
「ううん。君がエッチな事してくるって、先生に言っただけ。」
「は・・・・・・?」
「冗談!・・・実は、私、体育のプール、足の傷があるから、休んでるの。だから、先生に問い詰められた訳。」
鈴村は、笑った。
「大変だったろ。」
「いや・・・うーん・・・まぁ、サラリとかわしといたから。」
多分、鈴村の言う『サラリとかわす』は、女の子特有の事を理由にしたのだと思う。
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
なんだか、気まずい沈黙が流れた。
「そいえばさ・・・金網を蹴る時・・・無意識になるって言ってたじゃん?」
「・・・うん。」
「・・・その・・・どうゆう感じなんだ?無意識って。」
「・・・・・・うーん・・・」
彼女は、少しの間、小さな声で唸っていた。
そして、彼女は口を開いた。
さっきまで、飛んでいた二羽のカラスはいつの間にか、夕暮れ空のどこかへ、行ってしまったようだ。
是非、これからの参考に、少しでもいいので、感想を頂けたら嬉しいです。