二話/僕は、悪人
僕は、学校では協調性のある人間として生きていると思う。
それなりの仲間と、それなりに、ワイワイ騒いでいるし、
それなりの女子と、それなりに、ワイワイ喋ってる。
だから、僕にとって鈴村帝という女の子なんて、興味がなかったし、
正直、ただのクラスメイト以下という感覚だった。
あの日以来、僕は鈴村帝の事で不眠症を患った。
目を閉じると、ふとあの日の、鈴村帝の姿が脳裏によぎるのだった。
あの金網を蹴る姿が…
僕は、あの日を境に、鈴村帝の見方が変わった。
正直、驚いたとか、そうゆう気持ちもあるが、彼女が近く感じた。
今まで、どうでもいい女子…というか、人間だった彼女が、今や僕の中では、気になる存在と化した。
別に、好きという安易な気持ちで、気になるわけではなく、彼女、鈴村帝という女子…ではなく、鈴村帝という人間が、僕にはとてつもなく、気になるのだった。
教室でも、彼女の姿を追う事が多くなった。追う…というよりも、人間観察に近いのだが。
国語の時とか、つまらなそうに話を聞いてる彼女とか、
数学の時間、悩みながらも解けた問題を、先生に褒められて、とても嬉しそうにする姿とか…。
僕は、完全に彼女に魅了されてる。
夏を前にした放課後に、僕は彼女の帰宅する姿を発見した。
夕日が、彼女の姿を照らしていて、少し彼女が眩しかった。
僕は、少し走り、鈴村帝を呼び止めた。
彼女は振り返り、僕を見て、眉間にしわを少し寄せた。
「待ってよ。一緒に、帰ろう?」
「…別に……いいけど…。」
僕は、つい先日の事を思い出した。
この前、鈴村帝と軽く言い争ったんだっけ。
あの後、鈴村帝は、真っ赤な瞳で僕を睨みつけた後、走って帰ってしまった。
そんな事があった訳で、お互い気まずい。
まぁ、僕はそんなんでもないけど。
彼女は、少し不機嫌顔で歩き出した。
僕は、その横をいく。
けれど、段々、彼女の方が早くなっていく。それに、合わせて僕は彼女についていく。
「で、答えは教えてくれないの?」
僕が、沈黙を破り、自然な感じに問いかけると、彼女は少し嫌そうな顔をした。
「私が、教えなきゃいけない訳?」
僕は、彼女のスカートから見える足に目をやった。
包帯がされている。まだ、直っていないのだ。
「うん。勿論。」
「笑顔で、言うなよ。正直、ムカつく。」
「でも、鈴村、お前、俺に言わなかったら、どうなるか分かる?」
「さぁ?知らない。」
「・・・・・・・・・バラすよ?」
「…うざいね、君。」
鈴村帝は、無表情で笑った。
「どうして、そんなに、聞きたいの?そんなに、汚い事まで使って。」
「うーん・・・まぁ、聞きたいから?」
「・・・・・・私、君がそんな人だなんて、思ってもいなかった。イメージ崩れたぁーー!!」
僕は、笑った。
「そうだよ。俺って、こんな奴。」
「・・・・・・・・・・・・あぁー・・・もう、いいや。」
「何が?」
彼女は、小石を遠くの方へ、蹴り飛ばした。
「昔から、イラつく事をためる癖がよくあったの。そのせいで、眠れなかったり、ストレスで病気になったり・・・って、色々あった。でも、今年に入ってから、すっごくいい解消法を見つけたの。」
「・・・。」
「それが、あの事な訳。」
彼女は、そう、遠くを見る様なあの目で言うと、悲しそうな顔をした。
「でも、さすがに、足の傷もすごく酷くなって、やめようと思ってる。」
「じゃあ・・・なんで・・・」
「私も分からないの。なんていうか、この頃は、無意識的にあの公園に行ってしまうの。」
「・・・それって、なんかの病気?」
「うーん、そうかもしれない。てゆか、依存?みたいな。」
「・・・・・・・・・なんか、鈴村、すっごく開き直ってない?俺に話す事を。」
彼女は、ははっ!と笑うと、悲しい目をして言った。
「うん。もういいや!って、開き直ってる。どうぞ!パシリにでも、してくださいな。」
「・・・・・・じゃあ、命令。これから、俺と帰ろう。」
僕は、パシるつもりなんて、これっぽっちも無かった。
けれど、彼女が心配だった。
彼女の今の目は、どこか、冷たい寒い国を見つめてる。
それが、心配だった。
彼女は・・・いつか・・・消えてしまいそうだ。
「・・・・・・わかった。一緒に、帰ろう。」
彼女は、コクリと頷いた。
僕は、彼女の瞳を覗いた。
影で、よく見えなかった。




