十六話/僕の、幸せ
愛しい・・・。
そう、あの甘い彼女の体温を感じた。
僕は、目を開ける。
僕は、着地していた。
そして、僕は、まだ、あの甘く優しい体温を、感じていた。
目を瞑って、いつもまでも、この体温に包まれていたい。
まるで、心が温かなお風呂に入った様な気持ちだ。
けれど、目を開けなければいかなっかった。僕は、ザラザラの土の上にはいなかった。
僕の目の下にあったのは、顔を歪めながらも、笑っている鈴村帝の姿だった。
「痛たいよ。」
鈴村が、力なく笑った。
僕は、笑った。
鈴村も、笑った。
僕らは、公園のど真ん中で、不恰好に重なりあってた。
鈴村の体温が、愛しい。決して、エロティックなイメージの体温ではない。
もっと、近くて、心の芯に染みていく様な・・・鈴村の体温。
暖かい。
そして、満たされていく。
「・・・僕、足引っ掛けたんだ。あの柵に。」
僕は、ふと、笑いをやめて、小さな声でいった。
満たされていったものが、少し引いていく。
彼女の表情は、見えない。
「うん。」
「しかも、足引っ掛けて、鈴村に激突した。鈴村は、しっかり立って着地したんだろ?」
「うん。」
「・・・僕――」
「うん。それでも、越えれた。それに、変わりはないでしょ。」
彼女は、母親の様な、優しい声で僕に言った。
胸が、一気に、ぎゅっとなる。
僕は、笑った。彼女も笑った。
そして、僕は、僕の下にいる鈴村に、抱きついた。
鈴村の薄い白い夏のセーラー服から感じる体温に、僕は、涙を流した。
彼女の肩越しに、涙が、染み込んでいく。
彼女は、僕を抱き返した。
僕らは、地面で抱き合った。
不恰好で、どうしようもない、全くといっていいほど、奇妙な抱き合いだった。
汗ばむ腕に、砂が張り付いた。
地面に、影が映る。
空には、昼と夜のグラデーションが描かれてる。
そして、僕の肩越しにも、暖かな何かが染み込む。
あぁ、僕は・・・――なんて、幸せなんだ。




