十三話/彼女と、ブランコ
僕と、鈴村の影がブランコに乗って、ゆらゆら揺れてる。
僕は、鈴村を見ず、鈴村の影を見ていた。
鈴村が、地面を強く蹴った。
「ねぇ!――・・・帝って、どうゆう意味か知ってる?」
鈴村が、足を動かして、ブランコを高く高く上げていた。
「うーん・・・分からない。」
僕は、そっけなく答えた。
「うん。私も、分からない。」
彼女は、少し微笑んでこちらを見ていた。
僕はその少し大人っぽい表情に、ドキリとした。
「アタシね、君の『鈴村』って呼ぶのが、好きだった。」
彼女は、もっともっと、高く高くブランコを上げた。
真っ赤な夕焼け空に、彼女も浮いていってしまいそうだ。
「好きだった。ドキドキした。『鈴村』って他の人が呼んでも、感じない、この変な感じ。」
僕も、ドキドキした。けれども、僕は心のドキドキにあえて、自分自身で否定をした。
何かを期待すべきでは、ない、と。
「アタシね、君のさりげない優しさが好きだった。」
僕も、彼女と同じ様に地面を強く蹴って、ブランコを上げた。
「アタシね、君が好き。」
唐突に言われた言葉に、僕は、固まった。
「アタシは、君が好き。でも、私の好きは、君の好きとは一緒じゃない。」
彼女は、キッパリと、そして、ハッキリと言葉を口にした。
僕は、心に冷たくドロドロした物が、流されていくのを感じた。
そして、ぼんやりとした。
真っ赤な夕日が、徐々に、紫へブルーへと変化をしていった。
まただ・・・。
彼女が、微笑みながら、こちらを見ている。長い髪をユラユラさせながら、深海を漂っている。
そう、また、人魚の彼女が現れた。そして、また、唄いだす。あのメロディーを。
僕は、深海の中から、抜け出せていない。
上からの、太陽の光が、眩しい。
僕は、人魚に掴まろうと手を出した。