十二話/僕の、天使
鈴村が、無言で、僕の後ろに立っていた。
僕は、体制を立て直すため、深く、深呼吸をした。
そして、鈴村のか細い手を、静かに離した。
「・・・とにかく、鞄持ってくる。鈴村の分も、僕の分も。・・・――だから、鈴村は、校門の近くで待ってて。」
僕は、まだ、少し荒い息をしながら、冷静に言った。
鈴村は、無言で頷くと、校門の方へと向かった。
僕は、急いで鈴村と自分の鞄を取りに行った。
そして、校門へと走った。・・・何かから、逃げるように。
「鈴村・・・はぁ・・・はぁ・・・ほら。」
「ありがとう。ごめんね。大丈夫?」
鈴村は、心配そうに僕を見た。
「大丈夫。兎に角、学校から離れよう。利央に見つかると、また、面倒だ。」
鈴村は、僕が、歩き出すと、後ろから、一歩テンポをづらして付いて来た。
何も言わず、二人は沈黙を突き通した。
この場所に、音なんて存在しないかの様に、車の音や、風の音さえも・・・僕の耳には、届いてこなかった。
「・・・・・・――鈴村・・・全部、聞いてたんだろ?」
鈴村との分かれ道に近づく頃、僕は、口を開いた。
「・・・うん。」
「・・・なんで、いたんだよ。あの場に。」
「君の答えが、気になったから。」
「どうして。」
僕は、小さな期待をした。
鈴村は、僕を好きで、僕の告白現場に来たんじゃないのかと・・・。
「分からない。」
僕の心は、一気に、下へと落下した。
「・・・公園、行かない?」
鈴村は、指を指した。
そこは、鈴村が金網を蹴っていた、僕らの出会いの場所だった。
鈴村は、無邪気に走って公園まで行き、ブランコ前で、鞄を脱ぎ捨てた。
そして、僕に手招きをした。
僕は、地面を向いて小さく笑った。
きっと、もう少しで僕たちの何かが変わる・・・。
僕は、覚悟を決め、僕の小さな天使に、微笑みかけた。




