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十一話/僕の答え


 夕暮れ時の教室


 まぶしい太陽


 吹奏楽部の音


 部活の掛け声


 詰まった想い


 たくさんの想いが詰まった教室・・・


 僕は、そんな教室に呼び出された。

 行くのが嫌になる。

 僕は、教室に行く前に、外にある東校舎への廊下に、向かった。

 ペンキで塗りたぐられた、緑色の廊下を歩く。

 太陽に照らされた、僕の影が、一歩一歩、心を躍らせていく。


 「鈴村。」


 呼びかける。

 「す」と「ず」と「む」と「ら」・・・ただの「ひらがな」を合わせただけの言葉なのに、僕は、この言葉を口にするだけで、満たされていく。

 馬鹿かも、しれない。それでも、僕にとって、この言葉は魔法の呪文の様に、僕の心を癒してくれる。


 「はぁーい?」


 鈴村は、本を読んでいた顔を上に上げ、僕を下から見つめた。

 間抜けな声が聞こえて、僕は思わず、笑った。


 「何、笑ってんの?」


 「いや、間抜けな声だすから。」


 「間抜けとは、失礼な!!」


 笑って、そう言うと鈴村は、また本に目を戻した。


 「あの、さ。」


 「なぁーに」


 「僕、ちょっと、呼び出されたからさ、待っててよ。ここで。後で、迎えに行くから。」


 鈴村は、黙っていた。

 そんな彼女の猫背を見て、僕は、顔を覗き込んだ。

 彼女は、顔を覗き込んだ僕に、驚いた。


 「イキナリ、顔近づけないでよ。驚くでしょ。」


 そう言うと、少し笑って僕に、手を小さく振った。

 至近距離だったが、彼女は、手を振って、「うん。」と頷いた。

 その彼女の姿を見て、僕は、手を振り返し、教室へ戻る道を歩いた。

 心に、重い物がドスンと、落ちてきたみたいだった。


 ――ガラッ


 教室のドアを開けると、そこには、利央がいた。


 「で、どうしたの?」


 僕は、早く話を済ませたく、素早く、切り出した。


 「あの・・・ね。」


 利央は、顔を少し背けた。


 「その・・・」


 後ろで、誰かが見ている気配がして、僕は振り返ったが、誰もいなかった。

 利央は、僕が振り返った事に、少し憤慨した様な顔付きを、ほんの一瞬だけ、見せた。


 「だからね!!私、あなたが好きなの!!」


 僕は、まぶしい夕日を見ながら、じっと立っていた。

 利央は、答えを欲しそうに、こちらを見つめ続けている。

 僕は、少し微笑んだ。


 「僕、鈴村帝って、女の子が好きなんだ。」


 僕の中で、何か、暖かい物が、溢れ出すのを感じ取った。

 利央の顔が、一瞬にして、膨れ上がった真っ赤な風船の様になった。


 「・・・彼女は――彼女は、もう、あなたが嫌いだから、近づかないって。そう言った。」


 「そっか。ありがとう。」


 僕は、笑いかけると、教室から離れた。

 告白なんて・・・されない方がいい。

 僕は、廊下を出て、走った。


 ――ゴンッ


 鈍い音が、した。

 下を見ると、足元に、鈴村帝がうずくまっていた。


 「痛ったぁー・・・」


 僕は、驚いたと同時に、鈴村の口を手で押さえて、もう片方の手で、鈴村のか細い手首を掴むと、猛突進するかの如く、階段へ飛び出た。

 鈴村は驚いていたが、僕の足に、遅れながらもついてきていた。

 僕は、小さく喘ぎながら立ち止まった。

 涙が、出そうになった。 

 


 


 

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