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大仁駅→田京駅


先日の朝未明、母さんが息を引き取った。 68歳という平均寿命にも満たない歳で。

親父は俺の小さい頃にはもう死んでいて、記憶すらない。それから女手ひとつで俺を育ててくれた。


それなのに何故こんな電車なんか乗ってるのかって?

それは俺が小さい頃、そこの向かいに座っている親子のように、母さんと手を繋いで電車な乗った記憶があるからで、もう一度母さんとの思い出を振り返るのにいい場所だと思ったからだ。

少々騒がしいことを除けば。




小学校のころだっけな。毎日昼は給食だったが、時々弁当の日があって。

みんなはその日をすごく楽しみにしていたが、俺だけは違った。

昼ご飯の時間になって、みんなが騒いで席をくっつけ合っている中、一人弁当箱を片手に教室を出た。


「一緒に食おうぜ」と友達に誘われたが、他のクラスの奴と食べるっつって断った。

そして俺は誰もいない使われていない教室で一人弁当箱を開けるのだった。


一面真っ白なご飯の真ん中に梅干しがぽつん。世にいう「日の丸弁当」。おまけにバナナが一本。


悔しかった。

みんなと一緒に食べたかった。

けどそれは俺には出来なかった。みんなに変な目で見られるのが怖くて。

白いご飯はこぼれる涙で少し味がついていた。


だけど母さんに文句も言えなかった。朝から夜遅くまで頑張って働いて、でもそれでも貧乏だってことを十分分かっていたから。



小6の運動会。小学校で最後の運動会に母さんは「今年は行けるから。応援するからねっ。」と朝言った。今まで憂鬱だった運動会も張り切っていったなぁ。

100メートル走。俺が走る番だった。決して足は速くないが、母さんの応援があるから大丈夫だと思ってスタートラインに立つ。

ピストルが鳴った。スタートは悪くない。

カーブにさしかかったところで母さんの姿が見えた。でも…


ビリだった。同じレースには学年でも1、2を争う奴がいた。

直後が昼休みだったから本当なら飛んで母さんのとこへ行くはずだったがうつむいて行った。


母さんは笑顔で出迎えてくれた。途端涙腺が崩壊した。

「ほらほら、泣かないの。あんたがあんなに足が速いなんて知らなかったよ。お父さんの血かしらね。ほら今日は豪華なお弁当だからたくさん食べなさい。」


いつもの真っ白で殺風景な弁当じゃなかった。唐揚げも、ハンバーグもあった。

俺の涙は2種類の涙だったが、決して中和されることはなかった。




みっともないな、俺。こんな公共の場で大の大人が泣いたりして。

なぁ『伊豆っぱこ』よ。俺の周りだけでいいから俺を一人にしてくれないか?

その願いは叶わなかった。母さんと同じくらいの歳の婆さんがやって来て俺の隣に座る。

その婆さんはこちらをちらと見るとこう言った。

『大切な人を亡くしたようねぇ。だけんどねぇ、前に進まなきゃあ始まんねぇらよ。その人のお骨をひとつ小さな苗木の下に埋めなさい。その木を大切に育てればいいだろうよ』

俺はこの婆さんが魔女かと思った。でもこれも何かの縁。信じてみるか。


「田京、田京です。」


俺は早速駅から徒歩5分にあるホームセンターでオレンジの苗木を買って庭に母さんの骨と一緒に植えた。

そのオレンジの木に母さんと同じ名前をつけた。








この小説を書いている途中、感情移入し過ぎて何回も涙してしまいました

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