大仁駅
「大仁、大仁です」
アナウンスのボタンを押し、ドアを開けると金髪の少年が降りていった。
見た目は感じ悪い今時の少年という感じだったが 雰囲気はどこか吹っ切れたような、爽やかな印象を受けた。
人は見た目によらず、ということかな。自分の目が正しければ。
大仁はこの近辺(この市の中では)栄えている方だ(あくまでも伊豆の中ではの話だ)。
大通りに出れば、そこそこ食べ物屋もあるし、人
も集まる。温泉もある。
自分もこの伊豆を縦断するローカル電車の車掌だ。観光客におすすめスポットとか聞かれたら答えられるようにしないと。
そうだ、さっきの続きだ。
確かに、入社した当初はこの伊豆箱根鉄道になんの魅力も感じなかった。
高校時代もこの電車に乗って、毎日通っていたが 都会のと比べてものすごい揺れるわ、料金は高いわ(定期券だったが)、いいとこなんてひとつもないじゃないかって思ってた。せいぜい観光客が窓ごしの流れゆく風景にちょっぴり感銘を受けるくらいだ。
だけど、就職して毎日毎日同じ線路の上を走り続けて、乗り降りするいろんな人の顔を見て思ったのだ。
比べる必要があるのか
って。Suicaも使えて、車体も揺れないで。そんなことはきっと『伊豆っぱこ』には求められていないんじゃないか?
不便だけど、なんだか暖かいぬくもりを感じる、それが『伊豆っぱこ』の求められてるものだろう。きっと。
よし、行くか。
『伊豆っぱこ』は更なる都会に向けて、上っていく。
今回も拙い文章ですが、お読みくださりありがとうございます。
さて、今回は大仁駅ということで電車は停車していましたが、このあたりから窓ごしに富士山が見えます。進行方向に。
僕のこの小説に登場するキャラクターには誰一人として名前がついてませんが、ご想像におまかせします。
ではまたいつか。