修善寺駅→牧之郷(まきのこう)駅
この修善寺もずいぶんとまぁ変わっちまったもんだ。
おらが9歳の頃、対戦が終わった。この伊豆も例のごとく空襲を受けた。
朝、お袋の、言葉では言い表せないほどの悲鳴で目が覚めた刹那、外は炎の壁が立ち込めていて、目を疑った。
逃げられないと思った。
このまま死ぬのかと思った。
町の大人たちの助けもあって、九死に一生を得たおらはあの日以降、命のありがたみを忘れたことはない。
――しかしあれからもう70年は経つだろうか。
一時この修善寺も栄え、伊豆温泉郷のひとつとして賑わったものだったが、景気もすっかり悪くなっちまって…。
昔得たものってのは、やっぱり失っちまうもんなのか。町もすっかり廃れて、女房にも先に逝かれ…。ガキの頃の友達だった、トモゾーもジローもケンチンも、初恋の相手だったトモコも、今は皆墓ん中だ。
周りの奴らはどんどんいなくなっちまうのは、やっぱり寂しい。悲しい。
けんど、今は一人でも、一人で生きてきた訳じゃあない。
だったらそんなに悲観しなくてもいいか。それなりにやりたいこともしてきたし。
あとひとつやり残した事があるとしたら…
「牧之郷、牧之郷です」
重たい足を動かし、外に出る。若い車掌さんがいい面構えで 窓から顔を出している。
「おい、そこの若いの。これをやるづら。」
そう言って『それ』と、未来の行く末を車掌さんに託した。
朝日がやけにまぶしかった。