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修善寺(しゅぜんじ)駅
――車掌の朝は早い。
春とはいえ、まだ肌寒い日が続く。特に朝は。
世間ではもう出会いの季節が始まるのだろう。しかし自分はいつも車掌室の中。出会いは少ない。だがそれでも発見はある。
この伊豆箱根鉄道を利用する乗客を見ているだけで。
おもしろいものだ。
たった3両のこのローカル電車(自分でいうのも何だが)で起こるドラマが。
そんな光景を見れるこの職に就くことができたのは幸せなのだと今さらながら思う。
いや、今までの経験があったからこそ、この仕事の本当のたのしさを知ることができたのかもな…
おっと、気が付けばもうこんな時間だ
手元にある出発の合図のボタンをぐっと押す。
学生服を着た少年が駆け足で青と銀色の車両に乗る。
さぁて今日はどんな人に出会うのだろう。
アナウンスが流れてドアが閉まる。車体はゆっくり動き出す。
口元は自然と緩んでいた。