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順位、その行方。

2012/05/28 改稿

 晴天に、派手な銃声が轟く。

 ぼくはその音を聞いてスタートを切る。種目は四百メートルだ。

 ぼくは、これで必ず一位を取らなきゃいけない。

 何故か。

 あの子を、彼女にするために。


 風を体に感じながら、とりあえず六割ほどの力で走る。あまり序盤で勢い良く走りすぎると後でスタミナ切れしてしまう。

 ギャラリーの声が朧気に聞こえる。何を言っているかわからない。ふと、彼女はぼくのことを応援しているのか気になった。

 ――いやいや、ここで変な事を考えるんじゃない。走りに影響が出る。

 トラックの半周を回った。あと、もう一周と半分だ。

 うちの学校のトラックは二百メートルだ。四百メートルはその倍だから二周。案外簡単そうじゃないか、と思っていたが走ってみると意外ときつい。ペース配分を間違えると一気に最下位に落ちるという恐ろしい種目だ。

 現在の自分の順位は三位。二位の緑色ゼッケンは二メートル程先に、トップの青色ゼッケンは六メートル程先にいる。赤色のゼッケンの奴は最初のスタートでミスっていた。可哀想に。

「トップのサッカー部の日比野君、半周を回りました! それを追いかける三人も頑張ってください」放送部の棒読みで喋る実況が聞こえる。もう少し熱の入った実況は出来ないのかよ、と内心で苦笑した。

 そこで、あいつの名前が日比野ということを初めて知った。あいつ、何故か知らないけどスタート前からぼくのことを睨んでいた。特に、接点は無いと思うし、何も悪い事をしたような覚えは無いのだが。

 トラックの一周目が終わった。二位の奴はスタミナが切れたのか、走る速度が遅くなっている。もう目と鼻の先だ。トップは四メートルほど先にいる。

 速度を速めて一人を抜く。現在の順位は二位。一位まであと約三メートルちょっとと言った所だろうか。まだまだ巻き返せる距離だ。

 トラックの四分の一を回った。そろそろ、追い上げなければ。僕はギアを九割に上げる。

「おっとテニス部の近藤君、巻き上げに入りました!」そう言うことを言うんじゃねえよ、と叫びたくなる。それを聞いたら相手の速度も速くなるじゃねえかよ。

 放送の所為かはわからないが、前の奴も速度を上げていく。まずい、このままじゃ一位に躍り出られない。あの棒読み実況め、とぼくはテントの下で涼しい顔をしている放送部員に苛立つ。

 ――やはり、全速力で行くしかないか。

 上手く行けば、ギリギリで抜かせる。だが上手く行かなければスタミナが切れて三位に転落。だが一位になるには、この策しかない。

 二百メートルなら、確立は五分五分と言った所だろう。だがこれは四百メートル。その倍だ。それに、これはスタミナを如何にうまく使うかがで勝負が決まる種目だ。はっきり言って、失敗する確立は九割と考えても可笑しくはないだろう。

 成功確立一割の大博打。ぼくは何としてでも、その一割を引き当てなければいけない。

 ゴールまであと半周。ぼくはギアを最大限まで引き上げる。

 ぐんぐんと縮まる距離。だがそれに比例して荒くなっていく息。

 ――勝たなきゃ、勝たなきゃ。


「君のために四百メートル、一位取るから」


 彼女に誓った言葉が脳裏をよぎる。

 トラックは、もう残り四分の一となっていた。もう、ぼくのスタミナは限界に達している。

 もう少し、もう少し持ってくれよ。ぼくのスタミナ。

「ゴールまであと五十メートルを切りました、両者とも互角です!」

 一位と並んだ。もうスピードは落とせない。

 落としたら、そこで負けが確定だ。

 絶対に、絶対に勝たないといけない。

 あの子を、僕のものにするために。

「両者、ゴール手前。さあ、どっちが先でしょうか!」

 ――ずっと、この時を待っていた。

 あの子を彼女にする為の、最初で最後のチャンス。

 ぼくが勝つんだ、絶対に。

 一気に、ゴールへと飛び込む。

 ゴールを報せる銃声が、晴天に響いた。

 さて、一位はどっちだ?

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