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異能力探偵ハチミツ  作者: 春山ルイ
異能力犯罪
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捜査その1

 綴と究助は渋々、地上に降りてきた。


「究助さん。追い出されちゃいましたけど、どうしましょう?」


「クソヤロー……まあいいぜ。あの様子じゃどうせろくな捜査もしねぇで出てくる。すぐ戻れるだろ」


「特能……実際に見るのは初めてです」


 特殊異能力犯罪対策班、特能。その名の通り、異能力者が起こす犯罪、《異能力犯罪》に対応する刑事の1チームだ。

 特筆すべきは、異能力者が多く所属していることだ。毒を以て毒を制す、とでも言うべきか。異能力が用いられた事件には、異能力での捜査で対抗する。


「ただ……イメージとは違ってました。異能力犯罪のプロフェッショナルだと思っていましたが、捜査もしていないのに異能力者を疑って、縛り上げて……あの態度。横暴ですね……」


「妻崎豊っつったか。アイツの言うとおり、異能力犯罪の捜査指揮は特能に全権が任せられる。俺ら捜査一課は実質、奴らの部下になるんだ。癪だがな」


「そんなのあり得るんですか?」


「あり得ねぇと思うだろ!? 俺もあり得ねぇと思う! でもあり得てる!」


「……どうしますか? あの女の子が犯人なんでしょうか? そうは見えなかったんですが」


「中学生か高校生くらいだったな。一応、被害者とどんな関係だったのかを調べねぇと」


「それから彼女の異能力です。容疑者扱いされてるってことは、人を殺せるような異能力を持っているんでしょうか」



 噂をすれば、マンションから少女が引っ張られて出てきた。さっきの男、妻崎とは別の刑事が彼女を引いている。


「ち、違うんですぅーっ! わたしは犯人じゃないんですぅーっ! 許してくださいぃぃー!」

 

 少女は泣き喚いていた。もちろん事件の被疑者にされたら取り乱すだろうが、狂乱というレベルで泣いている。彼女は頭を振り回し、もはやヘッドバンキングだ。


「く、靴! 靴舐めましょうか! いや舐めさせてください!」


「おいやめろ! 頭を振るな、靴を舐めようとするな!」特能の男が困惑している。


「あなた様の下駄箱に連れて行ってください! 上から下まで全部の靴を舐めさせていただきます! あなた様のお仲間全員の下駄箱にも案内してくださいぃ!」


「やめろ! 下駄箱を知ろうとするな!」


「わたしは犯人じゃないんですぅーっ!」


 惨めだ。犯人とは思えないが……。



「しゃあねぇ……おい!」究助が彼の仲間に声をかける。「あの異能力者、名前は?」


不破(ふわ)凛子(りんこ)というそうです」


「よし……ハチミツ、俺はちょっくら電話かけてくるぜ。不破凛子の異能力の詳細を聞く」


「詳細? 電話? どこへかけるんですか?」


「異能力の情報を扱っている機関があってな。俺たち刑事はそこと連携して、事件に関係している異能力者に限り、情報を提供して貰うことができる」


「へぇ……」


「一応、個人情報だからな。許可が必要だし、ちょっと時間がかかる。ま、その分、間違いない情報だ。信頼していい」


 そう言うと、究助は機関とやらに連絡を取り始めた。相手はすぐに出て、やり取りを始める。綴は堅苦しい相手を想像していたが、究助の口調は親しげだった。滞りもないようで、1分ほどで通話は終えられた。


「20分くらいかな。待ちの時間だな」


「その間、他の人から聞けることを聞いてみませんか? 異能力の情報も、簡単なものなら聞き込みで得られるかもしれませんよ」


 探偵の基本は聞き込みだ。浮気調査も迷い猫探しも、おそらく殺人事件も、聞き込みからすべてが始まる。


「じゃあ、あそこにいる管理人に聞いてみるか」マンションから少し離れた所に、管理人のジーコが佇んでいた。「アイツ、不破凛子を犯人だと決めつけてたよな。不破のことを知ってるのかもな」


 ジーコは綴たちに気がつくと、じりじりと退く。しかし究助の方が早かった。究助の服装は刑事というより昔のヤンキーに近い。迫られると威圧感がある。


「なあ、あんた。どうしてあの子が犯人だって思ったんだ?」


「う……だ、だって、あの子は同じマンションに住んでイテ、しかも異能力者なんデスヨ!」


「まさか、それだけの理由?」


「え、エット、彼女は危険な異能力者デスシ……」


「まあ、お前の異能力者に対する偏見はどうでもいいぜ。あの子の異能力を知ってるか?」


「ハイ! あの子は物に触れズニ《浮かせたり、動かしたりできる》んデスヨ!」


「触れずに?」

「浮かせたり、動かしたり?」


 綴の脳内では手品師の姿が浮かんでいた。テーブルに寝かせた人を、そのまま浮遊させたままにしておく手品。しかも自在に動かせる。


 真実なら、これは致命的な証拠になる。


「ま、まさか……お爺さんも浮かせて……?」


「そういうことデス! 彼女ナラ、ドアが閉まっていても、ドア越しに尾割さんを浮かせられマス! 彼女しかデキマセン!」


 とすれば、あまりにも辻褄が合ってしまう。背後にも下にも人影がなかったのは、異能力を使って遠隔で落としたから。現場に鍵がかかっていたのは、ドア越しに殺害できる能力者だったから。


「うーん……」


 犯人じゃないというのも、なんの根拠もない綴の第一印象だ。異能力者というだけで犯人扱いはできないが、現状、擁護も厳しいものがある。


「えっと、次に被害者のことを教えてくれ──」


 ジーコへの聞き込みの成果は上々だった。

 被害者はお喋り好きだった。そのためジーコは被害者のことをよく知っていた。


「被害者の名前は尾割(おわり)南代(なんだい)。年齢は70歳。非異能力者だな」


「糖尿病を患っているとのことでしたね」


 ジーコから離れて、2人で情報の整理を行う。綴はメモに箇条書きで被害者の特徴を書き込んだ。話を聞きながらもメモを取る手は止まらず、文字通り一言一句、書き漏らしていない。




「は……八見さん……」


「え? ……わっ、葉島さん!」


 葉島が真っ青な顔をしていた。怯えた目に、手はわなわなと震えている。綴は究助に断りを入れ、葉島と2人きりになった。その方が話しやすいだろうし、励ましの言葉も言いやすい。


「大丈夫、じゃないですよね。深呼吸をしてください。落ち着くまで、側にいますから」


「あ、ありがとうございます……」


 完全ではないが、葉島の顔に血の気が戻ってきた。心苦しいが、彼女にも被害者のことを訊ねなくてはならないだろう。


「被害者の尾割さんは、誰かに恨まれるような方でしたか?」


「恨みですか……? いえ、ああ……分かりません。息子さんがいらっしゃるようですが、遠くに住んでいて、もう何年も会っていないそうです。奥さんは亡くなられていますし……友人関係についても思い当たる人は1人も……」


「そうですか……」


「八見さん、その、尾割さんは……だ、誰かに殺されたのでしょうか……?」


「ええっと、それはまだ。事故なのか、はたまた他殺なのか……」


「さきほど、部屋に行かれましたよね? なにか、怪しい物など落ちてたりは……」


「怪しい物?」綴はメモを読み返す。「荒れていて、テーブルの上の物が落ちていたりはしましたが、特に怪しい物となると……」


「そうですか……」


 葉島は重々しく息を吐いた。


「……わたしも刑事さんから事情聴取されました。疑われているのでしょうか」


「……は、葉島さんは怪しくないですよ!」


「ふふ……ありがとうございます」


 力なく笑う彼女を見て、胸が詰まる。世話をしていた人が死んでしまっただけでも苦しいはずなのに、疑われるなんて。


「あ……刑事さんが八見さんを呼んでますよ。行ってください」


 見れば究助が手招いている。

 招かれるまま駆け足で究助のもとに向かった。いったい、どこまで協力すればよいのだろう? あまり考えない方がいいかもしれない。



「不破凛子の能力の詳細が分かった。異能力の名前は《念動力》。こういう名前は、機関から名付けられる」


「僕のは《速記》ですかね。簡潔で分かりやすい」


「不破の《念動力》には細かな条件がある。聞いてメモしろよ」


「了解です」発言のすべてを記すことは、綴にとって容易い。



「まず、ジーコの言うとおり、念動力は対象に触れることなく、浮かしたり動かしたりできる。その対象だが、生物非生物問わずに浮かせられる。

 こっからが細かいぞ。浮かせられる物の重量は約30㎏、体積は80×80×80cmが限界だ。一度に浮かせられる数は1つまで」



「触れずに浮かせられるといっても、距離にも限界がありますよね。どれだけ離れた物を、どれだけの距離、動かせられるんですか? そこも分かります?」


「もちろん分かる。能力者本人を中心に、2mの円があると思ってくれ。その円の中の物を、円の中でだけ自在に動かせる。円から出ると能力の影響が消えちまう」


「半径2mが能力の効果距離、と。

 特能の妻崎さんたちはこれを知ってるでしょうか」


「知らねぇだろうぜ。どうせな」


 1つ、妻崎に対抗する術を手に入れた。さらに言えば、自信も持てた。

 しかし、同時に疑問も生まれる。


 この事件の真実は? どうして尾割は死んだ?


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