表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

運命の台本を破り捨てる聖騎士

掲載日:2026/01/27

「――アルス。悪いが、パーティを抜けてくれないか」


 王都へ続く街道の途中、勇者レオンが冷たい声でそう言った。  夕日に照らされた横顔に、かつての仲間への情は一切ない。


「君の防御力は確かに高い。だが、それだけだ。地味で、華がない。俺たちの伝説には不要なんだよ」


 魔導士の少女と聖女が、背後から無言でこちらを見る。  三年に及ぶ旅の結末が、これか。


 俺が口を開こうとした、その瞬間だった。


『――聖騎士アルス。ここで彼は仲間に裏切られ、絶望のうちにその生涯を閉じることになる』


(……は?)


 頭の中に、感情のない女の声が響いた。  周囲を見渡すが、そんな声の主はどこにもいない。


(……おい、今なんて言った? 俺が死ぬ?)


『彼は絶望し、震える声で復讐を誓う。しかしその言葉が届くことはなく、一分後、背後から現れた空腹のデスワームに、頭から無残に噛み砕かれるのだ。合掌』


「勝手に拝むな。あと噛み砕かれるとか怖すぎるだろ」 「……あ? 何をブツブツ言ってるんだ、アルス」


 不審げに眉をひそめるレオン。どうやらこの実況ナレーションは、俺にしか聞こえていないらしい。


『……? 絶望して膝をつくはずのアルスが、なぜか冷静にツッコミを入れた。物語の進行にわずかなノイズが発生。しかし、運命は変わらない。デスワーム出現まで、あと三十秒』


 レオンは俺の沈黙を「ショックで言葉が出ない」と受け取ったらしい。彼は勝ち誇ったような笑みを浮かべ、さらに追い打ちをかける。


「これまでの功績を免じて、この『なまくら刀』だけはやるよ。せいぜい野垂れ死ぬまで、必死に足掻いてみるんだな!」


 足元に放り投げられた、錆びついた鉄の剣。それと同時に、ナレーションの声がカウントダウンを始めた。


『十、九、八……死への秒読みが始まる。アルスは地面に這いつくばり、去りゆく勇者の背中に向かって情けなく命乞いをするだろう。ああ、無残。実に見苦しい最期である』


「おい、ナレーション」


 俺は腰の聖騎士剣を引き抜き、背後――ナレーションが予告した「出現地点」を真っ向から見据えた。


「その実況、俺が勝手に書き換えても文句言うなよ?」


『三、二、一――デスワーム出現。……えっ?』


 ドォォォォォン!!


 爆音とともに地面が爆ぜ、巨大な多脚の魔物が姿を現した。ナレーションの予告通り、それは俺の「いた」場所を正確に食い破った――はずだった。


――ガァァァァァン!!


 凄まじい顎の噛み合わせ音が響く。だが、そこに俺の体はない。  ナレーションが「噛み砕かれる」と予言したコンマ一秒前、俺は真横に跳んでいた。


『な……っ!? 死の運命を回避。聖騎士アルス、あろうことかナレーションを無視して生存。物語の整合性に致命的なエラーが発生中』


「エラーとか言うなよ。生きてるだけで丸儲けだろ」


 俺は着地と同時に、勇者から投げ捨てられた『なまくら刀』を拾い上げ、代わりに自分の『聖騎士の盾』をデスワームの口内へ放り込んだ。


『アルス、混乱のあまり防具を放棄。これでは次の攻撃で――あ、あれ?』


 デスワームが、俺の盾を噛んだまま悶絶し始めた。俺の盾には「反射リフレクト」の常時発動スキルがかかっている。自分の噛む力が強ければ強いほど、そいつの牙は粉々に砕け散る仕組みだ。


「ナレーションさん、実況が遅れてるぞ」


『……ッ! デスワーム、自らの剛力により自壊! アルス、この隙に逃亡……ではなく、突撃!? 正気か!? 武器は錆びた鉄くずだぞ!』


「鉄くずじゃない。これは『運命をブチ壊す棒』だ」


 俺はデスワームの眉間に向かって、なまくら刀を突き立てた。  普通なら弾かれる。だが、ナレーションがさっき言った言葉が「確定した事実」として世界に干渉している。


(――「物語の整合性に致命的なエラーが発生中」だったな?)


 エラーが起きている場所は、世界の法則がガタガタだ。本来なら折れるはずの錆びた剣が、バターを焼いたナイフで切るように、デスワームの硬質な外殻を易々と貫いた。


『――クリティカルヒット。デスワーム、即死。……そんなバカな。計算が合わない。予定では、ここはアルスの墓標になるはずの場所なのに!』


 巨体が崩れ落ち、噴き出した体液が街道を汚す。  静寂。呆然と立ち尽くす勇者レオンたちが、目を見開いてこちらを見ていた。


「……おい、アルス。お前、今何をした……? デスワームを、そんな鉄くずで一撃……?」


 レオンの顔から余裕が消え、不気味なものを見るような色に変わる。俺は彼を一瞥もせず、空中に向かってニヤリと笑ってみせた。


『アルス、生存。生存……生存……。……チッ。予定を大幅に変更します。聖騎士アルス、運命の脱落者イレギュラーとして再定義。これより彼は、台本にない「未知のハッピーエンド」へ向かって爆走を開始する模様です……。……フン、お手並み拝見ね』


「お、ナレーションが投げやりになった。……おいレオン、何か言ったか?」


「な、……なめるなよ! たまたま運が良かっただけだ! 行くぞお前ら! こんな奴、放っておけばどうせすぐ死ぬ!」


 レオンは吐き捨てるように言い残し、逃げるように走り去っていった。彼らには見えていないだろう。レオンの後ろ姿に、赤い文字の【死亡フラグ:食中毒により魔王軍に捕縛されるまで、あと3時間】というナレーションの「補足注釈」が浮かび上がっているのを。


「さて、俺は俺で、死ぬはずだった聖女様でも助けに行きますかね」


『……何でそれを知ってるのよ。まだ解説してないでしょ、そのフラグ』


「勘だよ。……嘘。あんたの台本が透けて見えるんだわ」


 俺はナレーションと会話しながら、勇者とは真逆の方向へ歩き出した。


『……理解不能。本来、物語は“予定された結末”へ収束する。それが世界の安定条件のはずだった』


 声が、わずかに揺れる。


『だが――』


 ナレーションは、一瞬だけ言葉を詰まらせた。


『……彼は、生き延びた。ただ、それだけの事実が、この物語を壊してしまった』


 沈黙。


『――記録終了。本作は、ここで「物語」としての役割を終える』


 その声を最後に、頭の中からナレーションは完全に消えた。


 街道に残るのは、死ぬはずだった聖騎士と、噛み砕かれた“運命の台本”だけだった。

最後までお読みいただきありがとうございます!

運命の実況を無視して突き進む主人公、書いていて楽しかったです。

もし面白いと思っていただけたら、広告下の【☆☆☆☆☆】で評価をいただけますと幸いです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ