表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宅配ドライバー×異世界転生_逆順配送の勇者 ~異世界で俺の積み込み術が最強でした~  作者: もしものべりすと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/22

第七章 仲間との出会い:元騎士の青年

リナが復帰してから一週間後のことだった。


ギルドに、一人の青年が訪れた。


金色の髪に、青い目。背は高く、筋肉質の体格。顔立ちは整っていて、どこか気品がある。だが、服はボロボロで、髭は伸び放題。かつては立派だったであろうが、今は落ちぶれた印象を受ける。


「配達員になりたい」


青年は言った。


「名は?」


ガルドが聞いた。


「レオン。レオン・フォン・ヴァルトシュタイン」


「ヴァルトシュタイン……」


ガルドの顔色が変わった。


「騎士の家系か」


「元騎士だ。今は没落した」


レオンの声には、苦い響きがあった。


誠司は後ろから青年を観察していた。騎士の家系。没落。何かあったのだろう。だが、それは本人が話したくなければ聞く必要はない。


「配達の経験は?」


「ない。だが、剣は使える。護衛が必要なら、役に立てる」


「配達員は、戦わない」


誠司が口を挟んだ。


レオンが振り返った。


「何だと?」


「届け物を守るのが仕事だ。敵と戦うことじゃない」


「馬鹿な。敵に遭遇したら、どうする」


「逃げる」


「逃げる? 騎士が?」


レオンの顔が歪んだ。


「騎士は逃げない。敵と戦い、勝利することが騎士の誇りだ」


「なら、お前は配達員に向いていない」


誠司は言い切った。


「配達員に必要なのは、勇気じゃない。判断力だ。戦うべき時と、逃げるべき時を見極める力。お前にそれがあるか?」


レオンは黙った。


拳を握りしめて、誠司を睨んでいる。だが、反論はしなかった。


「配達員になりたいなら、俺と一緒に配達に出ろ」


誠司は言った。


「それで、お前に配達員の素質があるかどうか、俺が判断する」


翌日、誠司とレオンは二人で配達に出た。


目的地は北の街道沿いの村。荷物は十二個。比較的安全なルートだが、途中で滞留魔に遭遇する可能性はある。


「荷物は俺が持つ。お前はついてくるだけでいい」


誠司は言った。


「……分かった」


レオンは不満そうだったが、従った。


道中、誠司はレオンに配達員の心得を教えた。


「配達員の第一の仕事は、届け物を届けること。第二の仕事は、自分が無事に帰ること。この二つを達成するために、あらゆる手段を使う」


「あらゆる手段?」


「ルートの選択、時間配分、危険の回避。すべてが手段だ。戦闘も、選択肢の一つではある。だが、最後の手段だ」


「なぜだ。敵を倒せば、危険はなくなるだろう」


「倒せればな」


誠司は言った。


「だが、滞留魔は倒しても消えない。物理的な攻撃は効かない。魔王軍は大軍だ。一人で戦っても、勝てない」


「では、どうする」


「届ける」


誠司は言った。


「滞留魔は、届けられなかった届け物が核になっている。その核を届ければ、滞留魔は浄化される。戦わずに、勝つ方法がある」


レオンは黙った。


騎士として育てられた彼には、理解しがたい考え方なのかもしれない。だが、誠司は構わず続けた。


「配達員は、強さを競う仕事じゃない。届け物を届ける仕事だ。そのために必要なのは、力じゃなくて、知恵と判断力だ」


「……」


レオンは何も言わなかった。


だが、その目には——何かを考えているような色が浮かんでいた。


村に着いたのは、昼過ぎだった。


配達は順調に進んだ。逆順積載のおかげで、荷物を探す時間はゼロ。一軒、また一軒と、着実に届けていく。


十軒目を終え、残りは二軒になった時だった。


「待て」


レオンが足を止めた。


「どうした」


「……あの家だ」


レオンは、村の外れにある小さな家を指差した。


「俺が届けるべき手紙がある」


誠司は眉を上げた。


「届けるべき手紙?」


「ああ。三年前から、ずっと持っている」


レオンは懐から、古びた封筒を取り出した。


「親友の、遺書だ」


話を聞いたのは、配達の合間だった。


レオンは、三年前まで王国騎士団に所属していた。同期入団の親友がいて、二人は共に戦い、共に訓練し、共に夢を語り合った。将来は将軍になると、誓い合っていた。


だが、三年前の戦いで——親友は死んだ。


魔王軍との戦闘中、レオンを庇って致命傷を負った。死の間際、親友はレオンに一通の手紙を託した。


「家族に届けてくれ」と。


だが、レオンは届けられなかった。


親友の死は自分のせいだ。自分を庇わなければ、彼は死ななかった。その罪悪感に押し潰されて、遺族に会う勇気が持てなかった。


やがて、騎士団も辞めた。実家も追い出された。すべてを失って、放浪の末に——このギルドに辿り着いた。


「届けなければならないと、分かっている」


レオンは言った。


「だが、届けられない。あの家族に会う勇気が、ない」


誠司は、レオンの手にある封筒を見つめた。


三年間、ずっと持ち続けてきた手紙。届けられなかった手紙。届けるべきだと分かっていながら、届けられなかった手紙。


「俺が一緒に行く」


誠司は言った。


「え……?」


「一人で届けられないなら、二人で届ける。それでいいだろう」


レオンは呆然としていた。


「なぜ……お前に関係ないだろう……」


「関係ある」


誠司は言った。


「届けられなかった届け物は、滞留魔になる。お前のその手紙も、いつか滞留魔になるかもしれない。そうなる前に、届けるべきだ」


「……」


「それに、お前は配達員になりたいんだろう。なら、まずはその手紙を届けろ。それができなければ、配達員にはなれない」


レオンは長い間、黙っていた。


やがて——彼は頷いた。


「分かった。行こう」


親友の実家は、村の外れにあった。


小さな家。古びた壁。庭には花が植えられていて、丁寧に手入れされている。窓からは、炊事の煙が立ち上っている。


レオンは、門の前で立ち止まった。


「大丈夫か」


誠司が聞いた。


「……分からない」


レオンの声は震えていた。


「三年間、逃げ続けてきた。今更、何と言えばいい」


「何も言わなくていい。ただ、届ければいい」


誠司は言った。


「届け物は想いの器だ。お前の親友は、家族に想いを届けたかった。それを届けるのが、お前の仕事だ」


レオンは深呼吸をした。


そして——門を開けた。


玄関の扉を叩くと、中から女性が出てきた。


五十代くらいだろうか。白髪混じりの髪に、穏やかな目。レオンを見ると、一瞬だけ目を見開いた。


「あなたは……マルクスの……」


「はい。レオンです。マルクスの同期の」


女性の目に、涙が浮かんだ。


「生きて……いたのね……」


「申し訳ありません」


レオンは頭を下げた。


「三年間、連絡もせず……何も言えなくて……」


「いいのよ」


女性は微笑んだ。


「マルクスから聞いていたわ。あなたのこと。『レオンは俺の一番の親友だ』って、いつも言ってた」


レオンの身体が震えた。


「マルクスは……俺を庇って……」


「知っているわ」


女性は言った。


「あの子は、あなたを守って死んだ。でもね、それはあなたのせいじゃないの。あの子は、自分で選んだのよ。あなたを守ることを」


レオンは——泣いた。


声を上げて、子供のように泣いた。


三年間抱えていた罪悪感が、溢れ出すように流れ落ちていった。


手紙を渡したのは、しばらく経ってからだった。


「これを……マルクスから預かりました」


レオンは震える手で、封筒を差し出した。


女性は静かに受け取り、封を開けた。


中には、一枚の便箋が入っていた。彼女はそれを読み、涙を流した。


「ありがとう……」


女性は言った。


「届けてくれて、ありがとう……」


その瞬間——空気が変わった。


誠司とレオンの身体を、温かい光が包んだ。配完の祝福だ。


光は家全体に広がり、庭の花を輝かせ、空気を清浄にしていく。村全体に、穏やかな風が吹き抜けた。


「これは……」


レオンは呆然としていた。


「配完の祝福だ」


誠司は言った。


「届け物が届いた。想いが届いた。それが、祝福になった」


レオンは自分の手を見つめた。


「俺は……届けたのか……」


「ああ。届けた」


誠司は言った。


「これが、配達員の仕事だ。想いを届ける仕事。それは——誇り高き仕事だ」


レオンは、長い間、無言だった。


やがて——彼は顔を上げた。


「誠司」


「何だ」


「俺を、配達員にしてくれ」


その目には、新しい光が宿っていた。


「配達は下賤な仕事だと思っていた。だが、違った。これは——誇り高き仕事だ」


誠司は微笑んだ。


「ようこそ、配送ギルドへ」


王都に戻ったのは、夕暮れ時だった。


ギルドでは、ガルドとセレナ、リナが待っていた。


「どうだった」


ガルドが聞いた。


「合格だ」


誠司は言った。


「レオンは、配達員になれる」


レオンは一歩前に出た。


「レオン・フォン・ヴァルトシュタイン。本日より、王立配送ギルドの配達員として働かせていただきます」


ガルドは頷いた。


「歓迎する。共に届けよう」


セレナとリナも、笑顔で迎えた。


「よろしくね、レオン」


「よろしくお願いします、レオンさん」


レオンは——照れくさそうに笑った。


三年間、見せることのなかった笑顔。


「よろしく頼む」


その夜、ギルドの食堂で五人が集まった。


ガルド、誠司、セレナ、リナ、レオン。かつては百人以上いたギルドが、今はたった五人。だが、その五人には——確かな絆があった。


「今日で、ギルドの配達員は五人になった」


ガルドが言った。


「三年前の百人には程遠いが——確実に増えている」


「増やすさ」


誠司は言った。


「もっと届けて、もっと祝福を起こして、もっと仲間を増やす。そうすれば、いつか——」


「世界を取り戻せる」


セレナが続けた。


「ええ。取り戻せる」


誠司は杯を上げた。


「配送ギルドに」


「配送ギルドに」


五人の声が、食堂に響いた。


外では、星が輝いていた。


王都の夜空に、無数の星が瞬いている。


その光は——まるで、届けられた想いのように、温かく優しかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ