第二十二章 配達完了
あれから一年が経った。
王立配送ギルドは——「勇者配送ギルド」と名前を変え、大陸一の規模に成長していた。
配達員の数は百人を超え、各地に支部が設立された。滞留魔は激減し、大陸中に配完の祝福が満ちている。
「誠司さん、次の依頼です」
リナが駆け寄ってきた。
「北の村から、緊急配達の依頼です」
「了解。どんな届け物だ」
「お医者さんへの手紙です。村で病気が流行っているらしくて、至急薬を届けてほしいと」
「分かった。俺が行く」
誠司は荷物を背負った。
「レオン、留守を頼む」
「任せろ」
レオンが頷いた。
「セレナ、新人たちの指導を」
「分かったわ」
セレナが微笑んだ。
「ガルド、全体の管理を」
「承知した。気をつけて行ってこい」
ガルドが手を振った。
誠司はギルドを出ようとした。
「待てよ、神崎」
声がして、振り返った。
黒田が立っていた。
かつての敵——今は、仲間。魔王軍を離れた黒田は、ギルドで働いている。管理職としての経験を活かし、ルート最適化や人員配置を担当している。
「俺も行く」
黒田は言った。
「北の村なら、途中に俺の担当エリアがある。一緒に回った方が効率がいい」
「……そうだな」
誠司は頷いた。
「行くか」
二人は、ギルドを出た。
王都の門を出て、北へ向かう。
道中、黒田が言った。
「神崎」
「何だ」
「あの日——お前が届けてくれた記憶」
「ああ」
「あれで、俺は——救われた」
誠司は何も言わなかった。
「俺は、届けることを諦めていた。届けても報われない、届けても感謝されない。だから、止める側に回った」
黒田は空を見上げた。
「でも、お前が届けてくれた。俺にも——届けたいという気持ちがあったことを、思い出させてくれた」
「……」
「ありがとう、神崎。俺を——救ってくれて」
誠司は——笑った。
「礼はいい。これからも、一緒に届けるんだからな」
「ああ。そうだな」
二人は歩き続けた。
北へ向かう道。
その先には、届けるべき届け物がある。
届けるべき想いがある。
「最後に届けるものを、一番奥に積め」
誠司は呟いた。
「逆順積載——か」
黒田が言った。
「最後に取り出すものこそ、最も大切に守られている」
「ああ」
誠司は頷いた。
「俺が最後まで守り続けたもの——それは、届けたいという気持ちだ」
「俺も同じだ」
黒田が微笑んだ。
「俺たちは——配達員だからな」
二人は、歩き続けた。
空は青く、風は穏やかだった。
大陸中に、配完の祝福が満ちている。
届けられた想いの数だけ、世界は優しくなっている。
「さあ、行くか」
誠司は言った。
「次の届け先は——」
「北の村の診療所」
黒田が答えた。
「急ごう。薬を待っている人がいる」
二人は、走り出した。
届け物を届けるために。
想いを届けるために。
そして——世界を、もう少しだけ優しくするために。
配達完了。
だが、次の配達は——まだ始まったばかり。
届け続けることをやめるな。
届いた想いの数だけ、世界は優しくなる。
神崎誠司と黒田は、今日も走り続ける。
配達勇者として。
そして——仲間として。
【完】




