第二十一章 逆順積載、最後の真意
光が、王宮の跡地を包んだ。
黒田が取り込んでいた滞留魔が——浄化されていく。黒い霧が晴れ、澄んだ空気が戻ってくる。
「何が……」
黒田は自分の手を見つめた。
青白かった肌が、元の色に戻っている。赤く光っていた目も、元の茶色に戻っている。
「滞留魔が……消えた……」
「届いたからだ」
誠司は言った。
「俺の想いが、お前に届いた。だから、お前の中の滞留魔も——浄化された」
黒田は——泣いていた。
声を上げずに、静かに泣いていた。
「俺は……なんてことを……」
「終わったことだ」
誠司は黒田の肩に手を置いた。
「大事なのは、これからだ」
「これから……」
「ああ。始祖の手紙を、届けよう」
誠司は王宮の跡地の中心を見た。
そこに——光の柱が立っていた。
五つの封印が解けたことで、始祖の手紙が姿を現したのだ。
誠司は光の柱に近づいた。
中に——一通の封筒が浮かんでいる。
「始祖の手紙……」
誠司は手を伸ばし、封筒を取った。
古い封筒。だが、不思議な力を感じる。千年の時を超えて、ここに存在し続けた手紙。
「届け先は——『未来の世界を救う者』」
誠司は封筒を見つめた。
「俺たちが、届け先なのか」
誠司は封を開けた。
中には——一枚の便箋が入っていた。
古い紙。だが、文字ははっきりと読める。
未来の世界を救う者へ
この手紙を読んでいるあなたは、きっと多くの苦難を乗り越えてきたことでしょう。
届けることの意味を問い、絶望し、それでも届け続けることを選んだ人でしょう。
私は、この世界を創った者です。
この世界を創った時、私は一つの願いを込めました。
「想いが届く世界であれ」と。
届け物は、想いの器です。送り主の想いが込められ、届け先に届くことで、その想いは花開く。
届かなければ、想いは腐り、滞留魔となる。届けば、想いは力となり、配完の祝福となる。
この世界の法則は、単純です。
届け続けること。
それだけで、世界は優しくなる。
あなたが届けた想いの数だけ、世界は温かくなっている。
あなたが救った人の数だけ、世界は明るくなっている。
だから、届け続けてください。
疲れても、報われなくても、届け続けてください。
あなたが届ける一つ一つの想いが、世界を救っています。
そして——あなた自身も、救われています。
届けることは、与えることだけではない。
届けることは、受け取ることでもある。
あなたが想いを届けるたびに、あなた自身にも——想いが届いているのです。
最後に、一つだけ伝えます。
逆順積載——最後に届けるものを、一番奥に積む技術。
その真の意味は——最後に取り出すものこそ、最も大切に守られている、ということ。
あなたが最後まで守り続けた想いが、あなたにとって最も大切なもの。
それを、決して手放さないでください。
未来の世界を救う者よ。
届け続けることをやめるな。
届いた想いの数だけ、世界は優しくなる。
——世界を創りし者より
誠司は、手紙を読み終えた。
「届け続けること……」
涙が、頬を伝った。
「届いた想いの数だけ、世界は優しくなる……」
誠司は空を見上げた。
配完の祝福が、王都全体に広がっていく。
始祖の手紙が届いたことで——世界中の滞留魔が、浄化されていく。
「終わった……のか」
黒田が呟いた。
「ああ」
誠司は頷いた。
「終わった。始祖の手紙は——俺たちに届いた」
誠司は黒田を見た。
「そして、俺の想いも——お前に届いた」
黒田は——泣いていた。
「すまなかった……神崎……」
「いい」
誠司は手を差し出した。
「これからは、一緒に届けよう」
黒田は——誠司の手を取った。
そして——笑った。
三年ぶりの、本当の笑顔だった。




