第二十章 最後の対決
黒い霧が、誠司を飲み込もうとしていた。
だが、誠司は動かなかった。
「届ける」
誠司は手を前に伸ばした。
「黒田。俺は、お前に届けるものがある」
「何を……」
「想いだ。俺の——想い」
誠司の身体が、光り始めた。
配完の祝福——ではない。もっと深い、もっと温かい光。
「お前は、俺の上司だった。パワハラ上司だと、俺は思っていた。でも——」
光が強くなる。
「お前も、苦しんでいたんだな」
黒田の動きが、止まった。
「上からの圧力。数字への執着。終わらない労働。お前も——使い潰されていた」
「……何を言っている」
「俺は、お前を憎んでいた。でも、この世界に来て——分かった。お前も、俺と同じだったんだ」
誠司は一歩、前に出た。
「届けたかったんだろう。誰かを笑顔にしたかったんだろう。でも、届けても届けても——報われなかった」
「黙れ……」
「だから、壊れた。届けることを諦めて、止める側に回った」
誠司はさらに一歩、前に出た。
「でも——お前は、本当は届けたいと思っているはずだ」
「黙れ!」
黒田が叫んだ。
黒い霧が、誠司を包み込んだ。
「誠司さん!」
リナが駆け寄ろうとした。だが、レオンが止めた。
「待て。見ろ」
黒い霧の中で——光が輝いていた。
誠司の光。届けようとする想いの光。
「俺は——お前に届けたいものがある」
誠司の声が、霧の中から響いた。
「記憶だ。俺とお前が——一緒に配達をした日の記憶」
「……何?」
「覚えているか。入社して最初の年。お前はまだ、現場のドライバーだった。俺は新人で、何も分からなくて——」
光が、さらに強くなった。
「あの日、雨が降っていた。俺は道に迷って、配達に遅れそうになって——」
「……」
「お前が、助けてくれた。『こっちだ』って。一緒に走って、一緒に届けた」
霧が——揺らいだ。
「あの日の最後の配達。おばあちゃんが、涙を流して喜んでくれた。『孫からの誕生日プレゼント、届いた』って」
霧が——薄くなっていく。
「お前は、あの時——笑っていた。俺は、その笑顔を覚えている」
「……」
「お前は、届けることが好きだったはずだ。誰かを笑顔にすることが、好きだったはずだ」
霧が——晴れた。
誠司と黒田が、向き合っていた。
黒田の目には——涙が浮かんでいた。
「俺は……」
黒田は呟いた。
「俺は——届けたかったのか……」
「ああ」
誠司は手を差し出した。
「届けよう。今からでも——遅くない」
黒田は——しばらく動かなかった。
やがて、彼は——誠司の手を取った。
その瞬間、配完の祝福が発生した。




