第十九章 五つの封印:南の密林、西の火山、中央の王都
南の密林での封印は、「生命の鼓動」だった。
ジャングルの奥深く、巨大な古木の根元に封印があった。届けるべきは、生命を愛する想い。セレナが、かつて失った家族への想いを届けた。彼女の涙と祈りが、封印を解いた。
西の火山での封印は、「再生の炎」だった。
溶岩が流れる危険な山道を登り、火口の近くに封印を見つけた。届けるべきは、破壊から再生へ向かう意志。誠司が、自分自身の転生への想いを届けた。死から生へ、絶望から希望へ。その想いが、封印を解いた。
四つの封印を解くのに、二ヶ月かかった。
そして——最後の封印は、王都にあった。
「帰ってきたな」
ギルドの前で、ガルドが待っていた。
「ああ。帰ってきた」
誠司は仲間たちを見回した。
全員、疲労の色が濃い。だが、目には決意が宿っている。
「残りは、一つ」
「中央の封印——王都の封印か」
「ああ。だが……」
誠司は王都の中心を見つめた。
「そこに、黒田がいる」
「分かっている」
ガルドが頷いた。
「偵察から報告があった。魔王軍の軍師クロダが、王宮の跡地に陣取っている。周囲には、大量の滞留魔が集まっている」
「大量の滞留魔……」
「始祖の手紙の封印を守っているようだ。いや——違う。封印を破壊しようとしているのかもしれない」
誠司は拳を握りしめた。
「行く」
「一人で、か」
「……ああ」
「駄目だ」
リナが前に出た。
「一人で行かせません。私も行きます」
「俺も行く」
レオンが続いた。
「私も」
セレナも。
「仲間だ、誠司」
ガルドが言った。
「一人で全部背負うな。俺たちは——共に届ける仲間だ」
誠司は——頷いた。
「分かった。全員で行く」
王宮の跡地は、黒い霧に覆われていた。
かつては壮麗だった建物が、今は廃墟となっている。壁は崩れ、窓は割れ、庭園は枯れ果てている。そして、その中心に——黒田が立っていた。
「来たか、神崎」
黒田の声が、霧の中から響いた。
「ああ。来た」
誠司は一歩前に出た。
「封印を解きに来た」
「無駄だ」
黒田が姿を現した。
その姿は——変わっていた。
黒いローブの下から、黒い霧が漏れ出している。目は赤く光り、肌は青白い。まるで——滞留魔に蝕まれているようだ。
「何だ、その姿は……」
「究極の滞留魔」
黒田は薄く笑った。
「届けられなかった全ての想いを、俺は取り込んだ。その力で——世界を滅ぼす」
「滅ぼす……?」
「そうだ。届け物なんて、届かなくていい。想いなんて、届かなくていい。全てが滞留魔になれば——世界は終わる」
誠司は黒田を見つめた。
「お前は——本当にそれを望んでいるのか」
「望んでいる」
「嘘だ」
誠司は言い切った。
「お前は、届けたいと思っていた。俺と同じように。だから、この仕事を選んだ」
「黙れ」
「届けても感謝されない。それが辛かった。だから——届けることを諦めた。止める側に回った。でも、それは——」
「黙れと言っている!」
黒田が叫んだ。
黒い霧が、津波のように押し寄せてきた。
「誠司!」
リナが叫んだ。
誠司は——動かなかった。
「逃げろ!」
レオンが剣を構えた。
「大丈夫だ」
誠司は言った。
「俺には——届けるものがある」




