第十八章 五つの封印:東の砂漠
東の砂漠は、北の氷原とは正反対の過酷さだった。
灼熱の太陽。焼けつく砂。どこまでも続く、乾いた大地。
「暑い……」
リナが舌を出して息をしている。毛皮のある獣人にとって、この暑さは特にこたえるようだ。
「水を節約しよう」
セレナが言った。
「次のオアシスまで、どのくらいある」
「二日の距離です」
リナが答えた。
「匂いで分かります。水の匂いが、かすかに」
四人は砂漠を歩き続けた。
夜は冷え込み、昼は灼熱。極端な温度差が、体力を奪っていく。
二日目の夕方、ようやくオアシスに到着した。
小さな泉。周囲には、椰子の木が数本生えている。砂漠の中の、唯一の緑。
「ここで休もう」
誠司が言った。
「封印は、この近くにあるはずだ」
リナが周囲を嗅ぎ回った。
「あります。あそこです」
リナが指差した先に——石碑があった。
砂に半分埋もれた、古い石碑。表面には、文字が刻まれている。だが、風化して読めない。
「これが、封印か」
誠司は石碑に近づいた。
石碑の表面に、水滴の形をした窪みがある。
「水の記憶——」
届け物は、水の記憶。
「水を、ここに注げばいいのか」
誠司は水筒を取り出した。だが——
「待って」
セレナが止めた。
「ただの水じゃ、駄目な気がする」
「なぜ」
「記憶、って言ってたでしょう。水の記憶。それは——想いが込められた水じゃないと」
誠司は考えた。
想いが込められた水。
「涙……か」
涙は、想いが込められた水。悲しみの涙、喜びの涙、様々な感情が込められた水。
だが、今すぐ涙を流すことは——
「俺が」
レオンが前に出た。
「俺の涙を、使ってくれ」
「レオン……?」
「俺には、届けられなかった想いがある。親友の——マルクスの想いだ」
レオンの目に、涙が浮かんだ。
「三年前に届けたはずだった。だが、あの時——俺は、マルクスの家族に全てを伝えられなかった。遺書を渡しただけで、俺自身の想いは——届けられなかった」
涙が、レオンの頬を伝った。
「マルクス。お前は、俺の一番の友だった。お前と過ごした日々は、俺の宝だ。お前が死んで——俺は、生きる意味を見失った。だが、今は違う。俺は配達員として、想いを届ける仕事をしている。お前が命をかけて守ってくれた俺が——今度は、誰かを守っている」
涙が、石碑の窪みに落ちた。
「届けられなかった想いを、今——届ける」
光が溢れた。
石碑が、輝き始めた。
そして——砂漠の中から、水が湧き出してきた。
オアシスの泉が、大きくなっていく。枯れかけていた椰子の木が、緑を取り戻していく。
「封印が、解けた……」
セレナが呟いた。
レオンは涙を拭いて、微笑んだ。
「二つ目、完了だ」




