第十七章 五つの封印:北の氷原
北の氷原に到着したのは、出発から一週間後だった。
寒かった。
吐く息が白く凍り、肌を刺すような冷気が容赦なく襲ってくる。準備していた防寒具を着ていても、指先が痺れ、足先の感覚がなくなっていく。
「これは……厳しいな」
レオンが歯を鳴らしながら言った。
「想像以上だわ」
セレナも震えている。
「リナ、大丈夫か」
誠司が声をかけた。
リナは——意外にも平気そうだった。
「大丈夫です。毛皮があるので、寒さには強いんです」
「そうか。助かる」
リナの嗅覚は、この極寒の中でも機能している。彼女を先頭に、四人は氷原を進んでいった。
「封印は、この先にあります」
リナが言った。
「匂いがする。古い……とても古い想いの匂い」
「古い想い?」
「はい。千年以上——いえ、もっと古いかもしれない。始祖の時代からの想いです」
四人は歩き続けた。
やがて、氷原の中央に——巨大な氷の柱が見えてきた。
高さは数十メートル。透明な氷が、太陽の光を反射して輝いている。その中心に——何かが閉じ込められている。
「あれが、封印か」
誠司は氷の柱に近づいた。
中心に閉じ込められているのは——小さな炎だった。
氷の中で、消えることなく燃え続けている炎。温かそうな、オレンジ色の光。
「温もり……」
誠司は呟いた。
「届け物は、温もりそのもの」
女神の言葉を思い出す。
「この炎を、どこかに届ければいいのか……?」
「誠司さん!」
リナが叫んだ。
「後ろ!」
振り返ると——氷の魔物が、迫ってきていた。
巨大な、氷で出来た獣。目は青く光り、口からは冷気が漏れている。地面を踏みしめるたびに、氷が軋む音がする。
「来たか……」
レオンが剣を抜いた。
「俺が相手をする。誠司、お前は封印を」
「分かった」
誠司は氷の柱に向き直った。
温もりを届ける。だが、どこに? 誰に?
「考えろ……」
氷の柱に手を触れた。
冷たい。だが、中心の炎は——温かさを放っている。
「温もりを求めている者……」
この氷原で、温もりを求めているのは——
「俺たちだ」
誠司は理解した。
この極寒の地を旅する者たち。凍えながら、温もりを求めている者たち。炎は——そういう者たちに届けるべきなのだ。
「届ける」
誠司は手を氷の柱に押し当てた。
『時間厳守』のスキルが発動する。時間の流れが遅くなり、氷の柱の構造が見える。どこに力を入れれば、炎を取り出せるか——
「ここだ」
誠司は氷の一点に集中した。
すると——氷が砕けた。
炎が、誠司の手の中に落ちてきた。
だが、熱くない。温かい。心地よい温もりが、誠司の全身に広がっていく。
「温かい……」
その温もりは、誠司だけでなく、仲間たちにも届いた。
レオンとセレナ、リナ。凍えていた彼らの身体が、温まっていく。
そして——氷の魔物も、動きを止めた。
「何だ……?」
レオンが驚いた。
氷の魔物が——溶けていく。温もりが届いたことで、氷の魔物は消滅していた。
「封印が……解けた」
誠司は手の中の炎を見つめた。
炎は——消えていた。温もりは、四人に届けられて、消えてしまった。
だが、封印は解けた。
「一つ目、完了だ」
誠司は言った。
「次は、東の砂漠だ」




