第十六章 始祖の手紙
ギルドの奥、神殿に似た部屋。
そこには、祭壇があった。
祭壇の上には、淡い光が漂っている。その光の中に——女性の姿が浮かび上がっていた。
「ディリバリア……」
誠司は呟いた。
転生した時に出会った、届け物の女神。あの時以来、姿を見ることはなかった。
「配達勇者よ」
女神の声が、部屋に響いた。
「よく来ました。あなたの働きは、私の元に届いています」
「届いている……?」
「届け物が届くたびに、その想いの一部が私に届きます。あなたはこの数ヶ月で、何百もの届け物を届けた。その全てが——私の力になっています」
誠司は黙って聞いていた。
「しかし、まだ足りません。魔王軍の力は強大で、滞留魔は増え続けている。このままでは、世界は滅びます」
「滅びる……」
「そう。滞留魔が一定量を超えると、世界そのものが崩壊する。届けられなかった想いが、世界を蝕み尽くす」
女神の声が、重くなった。
「それを防ぐ方法は、一つだけ。『始祖の手紙』を届けることです」
「始祖の手紙……?」
「千年前、この世界を創った始祖が残した手紙。それを届けることで、世界に満ちた滞留魔を浄化できる」
誠司は眉をしかめた。
「届け先は?」
「『未来の世界を救う者』」
「……それは、誰だ」
「分かりません。始祖の手紙は、届け先が明記されていない。ただ、『未来の世界を救う者』に届けよ——それだけが記されている」
誠司は考えた。
届け先が分からない届け物。それを、どうやって届ければいいのか。
「始祖の手紙は、五つの封印によって守られています」
女神が続けた。
「北の氷原、東の砂漠、南の密林、西の火山、そして中央の王都。五つの場所に、封印があります。それぞれの封印を解くためには——届け物を届ける必要があります」
「届け物を?」
「そうです。各封印には、届けるべき『想い』が設定されています。その想いを届けることで、封印は解除される」
誠司は頷いた。
「分かった。やる」
「危険な旅になります。魔王軍も、始祖の手紙を狙っている。彼らは手紙を破壊し、世界を滅ぼそうとしている」
「破壊? なぜ」
「軍師クロダ——彼の目的は、世界の破壊です。届け物を止め、滞留魔を増やし、世界を絶望で満たす。それが、彼の復讐」
黒田。
誠司の心が、痛んだ。
「彼は、かつてあなたと同じ世界にいた人間。同じように、届け物を届けることに絶望した人間。彼を止められるのは——あなただけです」
「俺が……」
「はい。あなたは、届けることの意味を知っている。彼にも、それを届けてください」
女神の姿が、薄くなっていく。
「始祖の手紙を届けることが、あなたの使命。そして——黒田に想いを届けることも、あなたの使命です」
光が消えた。
部屋に、静寂が戻った。
ギルドの会議室に、全員が集まった。
誠司は、女神から聞いた話を伝えた。
「五つの封印を解いて、始祖の手紙を手に入れる。それが、世界を救う方法だ」
「五つの封印か……」
ガルドが地図を広げた。
「北の氷原、東の砂漠、南の密林、西の火山、中央の王都。すべて、危険な場所だ」
「順番はあるのか」
セレナが聞いた。
「ない。どの順番でも、五つ全てを解ければいい」
「なら——」
誠司は地図を見つめた。
「最適なルートを組む」
「最適なルート?」
「そうだ。五つの場所を、最短距離で回るルート。無駄な移動を省いて、時間を節約する」
誠司は地図に線を引いた。
「まず北の氷原。次に東の砂漠。その後、南の密林を経由して西の火山。最後に中央の王都」
「逆順積載、か」
レオンが言った。
「最後に行く場所を、最初に決める」
「そうだ。中央の王都が最後——そこに、黒田がいる可能性が高いからな」
誠司は地図を畳んだ。
「準備を整えよう。明日、出発する」
「俺も行く」
レオンが言った。
「私も」
リナが続いた。
「私も行くわ」
セレナも。
「全員で行く必要はない」
誠司は首を横に振った。
「ギルドの仕事も——」
「ギルドは、俺が守る」
ガルドが言った。
「お前たちは、世界を救いに行け。ここは、俺とマルコ、新人たちで守る」
「ガルド……」
「行ってこい、誠司。お前が帰ってくるまで——ギルドは、必ず守る」
誠司は——頷いた。
「分かった。頼む」
翌朝、四人はギルドを出発した。
誠司、リナ、レオン、セレナ。
目指すは北の氷原。第一の封印。
「長い旅になるな」
レオンが言った。
「ああ。覚悟しておけ」
誠司は前を向いた。
「だが、必ず帰ってくる。五つの封印を解いて、始祖の手紙を手に入れて——世界を救う」
「配達勇者らしい言葉だ」
「だから、その呼び方はやめろって」
四人は笑った。
そして、歩き出した。
世界を救う旅へ——。




