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第1章

――雲ひとつない晴天。

やわらかな風が木々の葉を揺らし、青空に心地よい音を響かせていた。


その広場には、男女それぞれ二列に並んだ学生たちが整列していた。

全員が同じ灰色の制服に、赤いシャツ、そして灰色のブレザーを身につけ、まるで機械のように規律正しく立っている。


男子列の一番後ろには、ひとりの少年がいた。

白い髪、わずかに赤みを帯びた目。

どこか影を落とした表情で、左手だけでカバンをスーツケースのように持ち上げ、佇んでいる。


――奈良ユウキ、十六歳。

天才と呼ぶには十分すぎる頭脳を持ち、試験ではいつも百点から二百点の範囲を取り、ほとんどが一九九点か二百点だった。


だが、そんな才能とは裏腹に、仕事と学歴にしか興味のない両親は、彼にほとんど関心を向けなかった。


ユウキがぼんやりと地面を見つめていると、不意に耳に届いた声があった。


――「あなたは選ばれし者だ。」


顔を上げると、空に透明なダイヤのような光が浮かび、同じ言葉を繰り返していた。


「あなたは選ばれし者だ。」


次の瞬間、その眩い光に包まれ、ユウキの心に圧倒的な恐怖が走る。

――まるで“殺される”と悟った瞬間のような本能的な恐怖。


周囲に助けを求めようとするが、誰一人として彼に気づかない。

まるでユウキだけが別の次元に取り残されたかのようだった。


目を開けようとしても開かず、ユウキは必死に目をこすり続けた。

そして――。


視界が戻った時、そこは楽園のような世界だった。


エメラルド色の草原が果てしなく広がり、そよ風が木々を揺らし、そしてユウキは一本の大木の下に横たわっていた。


「ここは……どこだ?」


だが、何よりも驚いたのは自分の身体だった。


力がみなぎり、風のような速度で動けそうな感覚。

反応速度は常識を超え、体の軽さはまるで別人のようだ。


ユウキの服も変わっていた。

白いフード付きのマント、磨かれた黒いズボンと靴。

腰には十三本の小さな投げナイフ、そして柄に赤い目が刻まれた紫色の大きな鎌が掛けられていた。


その時、遠くから澄んだ女性の声が響く。


「ユウキ様ーーー!」


顔を上げると、黒髪に金色の瞳を持つ少女が、白いドレスを翻しながら駆け寄ってくる。


「ユウキ様、突然姿を消されたので……皆、とても心配しました!」


「すまない、アカメさん。ただ、少し外の空気を吸いたかっただけだ。」


アカメ――。

普段なら、こんな美しい少女に名前を呼ばれただけで、意識を失うほど動揺していたはずだ。

だが、今のユウキは違っていた。

この世界の身体と精神が、彼を“殺し屋”として作り変えていたのだ。


「ユウキ様、本日の任務をお伝えします。」


(任務……? まさか僕は――)


「誰を……殺せばいい?」


自分の口から自然に出た言葉に、ユウキ自身が少し驚く。


(そうか……この世界の記憶。僕はこの国で最強の暗殺者……)


「今回の標的は、アシス王国北部を恐怖で満たす魔王メティウスです。」


「報酬は?」


「……一兆四千七百億ゴールドです。」


「なっ……!」


喉が詰まりそうになるが、ユウキは何とか平静を装った。


(こんな額……受けるしかないだろ。)


「任務を引き受ける。ありがとう、アカメ。」


アカメは顔を赤く染め、小さく頷いてからユウキの城へ戻っていった。

まるで褒められた子犬のように、感激した声で繰り返している。


「……ありがとう、アカメ……。」


ユウキが立ち上がると、壁に貼られた一枚の紙が目に入った。


《北の魔王メティウス 討伐任務》


胸の奥に奇妙な感覚が走る。

不快で……しかし同時に甘美な震え。


「……ああ。この感じ……“殺す”時の感覚か。」


ユウキはコートを翻し、国々を繋ぐ転移の門へ向かった。

門を潜ると、氷の国アシス北部の荒野へと姿を移す。


白銀の大地を歩き続けると、彼の視線に巨大な黒い屋敷が映る。

中へ入ると、豪奢な赤い絨毯、鋭い視線を向ける護衛の悪魔たち。


ユウキは一歩前に進み、静かに呟いた。


「……メティウス殿。」


重く威厳のある声が返ってきた。


「何用だ、若き暗殺者よ?」


「少し……二人だけで話したいことがある。」


悪魔は興味深そうに顎を上げる。


「よかろう。」


次の瞬間、二人は真っ白な何もない空間へと移動した。


「では、望みを言え。」


ユウキは赤い瞳を細め、低く答えた。


「……あなたの命です。」


沈黙――

そして、爆発するような笑い声。


「我を殺すだと!? クハハハハハッ!! 貴様、愚かを通り越して面白いわ!!」


その笑いが終わるより早く、ユウキの姿が消えた。


――赤い閃光。


ユウキのナイフが一瞬で軌跡を描き、次の瞬間にはメティウスの首が空中へと跳ね上がっていた。


悪魔は自分が斬られたことすら理解していない。


世界が砕け、気づけばユウキは自分の城に戻っていた。

手にはメティウスの頭を掴んでいる。


アカメがそれを受け取り、魔法陣へと投げ入れると――

直後、黄金の袋がユウキの足元に落ちてきた。


「報酬になります、ユウキ様。」


「ありがとう、アカメ。」


ユウキが微笑むと、アカメは恥ずかしそうに視線を落とした。


胸を高鳴らせながら。


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