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スフィンクス

〈猫の繪のトートバッグを洗ひけり 涙次〉



【ⅰ】


「魔界壊滅プロジェクト」の佐々圀守キャップが、カンテラ事務所「相談室」の客となつてゐた。仲本担当官からの呼び出しではなく、向かうから、しかも現場サイドの、佐々が來るのは、余程珍しいと云はねばならぬ。


「何ともはや、ハナから話がこじれてゐて申し譯ないのですが‐」今日はじろさんの当直日。

「仲本さん、だうしたの?」‐「それが... 外務省からお呼びが掛かりまして」‐「外務省? 専門外ぢやないの」‐「はい。實はエジプト・アラブ共和國のお偉いさんが、急な用事と」‐「外交官?」‐「付き添ひでね。もつと偉い筋です」



【ⅱ】


「ところで、カンテラさんのところで、スフィンクスの仕事、なさつた事ありませんか?」‐じろさん、少々ずつこけた。「随分話が飛ぶね」‐「はい。その政府の髙官、スフィンクスを連れて來てゐるのです」‐「???」


 佐々の話ではかうだつた。その政府髙官の夢枕に、クフ王(巨大ピラミッドで知られる古代エジプトの王)が立ち、「今度我が守り神、スフィンクスに現在のエジプトに行つて頂く。何でも東の果て・日本と云ふ國には、カンテラなる髙名な魔術師がゐると云ふ。不思議な動物を數多(あまた)飼つてゐるらしい。彼に會ひ饗して貰つたらだうか、と水を向けたところ、是非にも、と仰るのだ」と語つた、と云ふ。



【ⅲ】


「で、うちに接待しろと?」‐「出來れば。因みに、巨額のカネが動きます」‐「カンテラと相談してみるよ」

 そこで佐々は辞去した。(スフィンクスねえ。まあ【魔】の一種である事は間違ひない。クフ王か‐ 飛んだ大物に我らも知られたものだ。)



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈朝焼けはまだやつて來ぬと云ふ頃に密かに焼けの萌芽空かなた 平手みき〉



【ⅳ】


「と云ふ譯なんだ。カンさん妙案ある?」‐「ま、『龍』と遷ちやんに行つて貰ふか。クフ王が云ふ不思議な動物つて譯だ」。直ちに牧野を呼び出した。バイクでやつて來た牧野、「『龍』の用ですか?」‐「さうだ」‐で、牧野、じろさんに「落とされ」、「カンテラ通り(・ストリート)」の空髙く、遷姫を跨らせた「龍」が立ち昇つた。


「ワタシニ接待ナド出來ルノダラウカ。重悟ヂヤ駄目ナノカ?」‐「* 金尾はシオニストだ。エジプトはモーセの『出エジプト記』以來、ユダヤ教徒にはタブーだよ。それに、スフィンクスは(ぬえ)のやうに、夜の生き物ではないんだ。ゆゑにゴーレムは不適格。ま、適当に遊んでやつてくれ」



* 当該シリーズ第88話參照。



【ⅴ】


 大空でスフィンクスと「龍」は邂逅した。スフィンクスは云ひ傳へ通り人間の女の頭にライオンの躰、脊中に翼、と云ふ出で立ち。だがだうした事か‐「龍」はスフィンクスに嚙み付いた! スマホで遷姫が連絡して來た。「コノすふいんくす偽物ダゾ、かんてら、援護シテクレ」‐「やはり【魔】か。話が上手く出來過ぎてゐる、と思つた」カンテラ、* 弓をきりゝと引き絞り、偽スフィンクスを射つた。弓矢を使ふのは久し振りだ。偽スフィンクスは急處を射られ、大地に落下した。



* 当該シリーズ第24・29話參照。



【ⅵ】


「最初から俺たち目当てだつたんだ」‐カンテラ・じろさん・テオの三者で「思念上」のトンネルを下り、カンテラ大音聲、「この中に、クフ王の名を騙る()れ者がゐる筈だ! 素直に差し出せば己れらの命は保証する。さあ、出せ!」

 じろさん・それから「破邪の爪」を装着したテオが暴れ回つた。怖れをなした【魔】たちが、偽クフ王を連れて來た。


「あわゝ、命だけは‐」カンテラ、ぎらりと大刀を拔き、偽クフ王のそつ首に刃を当てた。「エジプトから來たお偉いさんの夢で、この話を取り消しにするんだ。私のほんの惡戲でした、と」



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈ライターに灯蛾の幻影観てゐるか 涙次〉

 


 と、云ふ譯で、カンテラ一味巨額のカネとやらを手にした。仲本の面目も保たれたので、「プロジェクト」からもカネが出た。

 作者、ミカ・ワルタリの、畸書だと専らの噂の大長篇小説『エジプト人』を讀んでから、このストーリイを書きたかつたが、諸々の理由あつて果たせなかつた。誠に殘念である。

 外交問題すれすれの危ない仕事であつた。


 尚、こゝに出て來るエジプトは、實際のかの國とは関係ない。お仕舞ひ。


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