9話 評価とは大体間違っているもの。
今日はバイクの受け取りの為に壁側にある店に来た。
小さな個人経営の店は外から見た外観も、中の雰囲気もかなりお洒落な店だった。企業が直接営業している店はどことなく威圧感があり、機械的な営業だったので何も買わなかった。
次の店に向かおうとした時にこの店をたまたま見つけた。店の外観や中の雰囲気を見て、この店のオーナーのセンスの良さを感じて此処で買う事に決めた。
そんな事を思い出しながら店に入った。
「来た来た。今日はバイクの販売と受け渡しだけじゃなくて、ちょっと相談があるの。時間は大丈夫?」
中に入ると以前の店員さん、実はオーナーだった人にさっそく話しかけられた。それと始めてみる人が隣に居る。何処と無くオーナーと見た目が似ているきがする。
「時間なら大丈夫です。じゃあ直ぐに支払いを済ませます」
「じゃあ直ぐに済ませちゃいましょう。金額を確認したらカードをかざして」
金額に間違いが無い事を確認してカードをかざした。この新しいカードは魔力鍵が付いてるので、暗証番号の代わりに魔力を流すだけなので楽だ。
それからバイクのメンテナンス方法等を聞き終わり、相談とやらを聞くことになった。
「隣に居るのが私の姉で風見工業の社長の風見 麗華よ」
驚いた。確か俺が買ったバイクを作ってるのが風見工業って会社だったはずだ。まさかバイクを買った店のオーナーの姉が風見工業の社長だったとは。
「どうも初めまして。りゅうせいと言います。それで相談とは?」
「さっきまでのやり取りを見ていて、お前がある程度の知識と教養があり、尚且つ才能がある事も分かった。この書類の漢字も全て読めるようだし、機械や魔法の知識もある事も分かった」
漢字か。この程度の漢字が読めるだけでもおかしいのか?機械や魔法の知識もあの恐ろしい老人に教わった時に、かなり初歩的な最低限の知識だと言われた事しか習ってない。
一体何が狙いなんだ?
「そう警戒するな。別にお前にどうこうするつもりは無い。お前が何処かのエージェントじゃない事も調べて分かっている。ただスラムの子供が魔力持ちで、しかもこれだけの知識を持っていると何処かのスパイや都市のエージェントと疑われるのは当然だ。あまり目立つ前に私が見つけたのは幸いだった」
「それは何か不味い事態だったんですか?」
俺は今回は素直に聞くことにした。何か知らないと不味い情報な気がしたからだ。
「あくまでも最悪の場合の話だ。今はまだ力の無い子供だからと放置される可能性が高いだろう。調べれば直ぐにスパイじゃないと分かるしな。ただ、もしこれから先力を付けて行き、利用価値が上がると何処かの企業や組織に罠に嵌められて利用される危険がある。一番分かりやすいのが借金だな。莫大な借金をかかえる事は奴隷になるのと変わらない。合法的な奴隷と言い換えても良い。それを回避する簡単な方法が後ろ楯だ。そこで私の会社、風見工業と契約しないか?勿論契約内容についてはお互いに話し合ってから決める。どうだ?」
これは良い情報を聞けたな。色々聞きたい事も多いが、先ずはこれを先に聞くべきだろう。
「話は大体分かりました。そこで疑問なんですが、何で俺なんですか?風見工業が兵器製造に新規参入しか会社なのは分かりますが、元々の部品製造で成功してる会社ならもっと優秀な、既に実績を出してる人と契約する事も出来るのでは?」
「お前の言ってる事も分かる。だが現実は違う。私の会社の販売先は企業だ。企業側の都合で売上が変わる。つまり何をするにも取引先のご機嫌を気にしなければならない。だからこそ私の会社でも兵器の自社開発をする事にした。そして開発が成功して立場を確立するまでは他の企業に目を付けられる訳には行かない。だから他の企業が目を付けるような人材と契約して険悪になる訳には行かないんだよ」
なるほど。推測だが成功している大きな企業は[将来有望な人材になるかもしれない]とか、[新人にしては優秀らしい]とか位では契約したりはしないのだろう。それこそ直ぐに死んだり、借金を抱えて破滅する奴も沢山いるだろう。その時に借金を肩代わりして奴隷の様に使う方が安上がりだしな。
そして風見工業からしたら、俺と契約しても他の企業から横やりを入れられるリスクも低いし、例え何処かからちょっかいかけられそうになっても、まだ大きな実績を出してない新人に手を出すような有象無象の会社や組織なら簡単にあしらえるのだろう。取引先の企業のコネも使えるしな。
「分かりました。じゃあ先に風見工業側の条件を聞いても?」
そうして話し合いが始まった。
日が沈みかけた頃に、購入したバイクに乗って拠点に付いた。結局話し合いはこんな時間まで続いて纏まった。
先ず最初の内容は、俺が精練した素材の販売についてだった。
俺の事を知った日から直ぐに調べはじめて、俺が精練した素材がハンター事務所に販売された事を知り少し高い値段を出して全て購入したらしい。
精練出来る魔力持ちの実力を簡単に調べる方法として、精練した素材の質が安定しているかを知る方法があるらしい。それで俺の精練した素材を全て購入して調べた結果、異常な精度で作られている事が分かったらしい。
金属なら純度99.99%。植物素材なら寸分の狂いもない配列。これなら将来エアロゲルやアラミド繊維、液晶等組み合わせが難しい、又はコストがかかりすぎる、もしくは現在不可能とされる組み合わせの物すら作れるようになるのでは?と期待されたようだ。
そこでこの契約だ。技術的な話は知識不足でよく分からなかったが、風見工業が指定している素材を精練した物は全て風見工業が買い取る契約だ。
値段はその時期の加工前の素材の相場の5倍から20倍と素材にもよるがかなり良い値段だった。
それと例外として、素材の相場に急激な変化があった場合には新に話し合いで決める事になった。
次に風見工業からの精練や加工の依頼だ。これは風見工業が加工して欲しい物の素材を受け取り、精練や加工をする契約だ。勿論普段のハンターとしての仕事もあるので大量にとはいかない。そこで寝る前に短時間で作れる用な量に抑えるようにしてもらった。風見工業側としても特注品の高級品に使う為の素材で使う予定なのでそこまで大量には求めてないらしい。成功すればラッキー位の投資だと。
その為に一週間に1回は勉強会に参加して欲しいらしい。
そして契約期間と契約金は1年間。更新は満了の1ヶ月前に両者の合意の元で更新する事になった。これに関しては俺が譲らなかった。
そして最後の守秘義務契約はかなり厳しい物になっている。それは俺が契約更新をお互いの合意が無ければ更新出来ない事に拘ったからだ。勿論自衛の為だ。今は友好的かもしれないが、契約した後に裏切る可能性もあるし、会社の方針が変わって勝手に契約を変える可能性もあるためだ。
それに俺はこの人の事もよく知らないし、会社の事も知らない。信頼関係以前の問題だ。お互いにお互いを理解出来るようになってから改めて契約し直せば良いのだ。
そうして拠点で三人から今日の報告を聞いて、寝る前に考え事をしていた。
今日聞いた話の中で、企業側が持っている魔力持ちの情報を少し知る事が出来た。
魔力持ちと言ってもその能力はピンきりだ。上に行けば行くほど魔力持ちなど関係無くなるようだ。まあ魔力持ちが有利なのは確からしいが、結局はハンターとしてのセンスと運の方が大事らしい。
例えば体のサイボーグ化。ある程度までは強化スーツ等で補えるが、敵が強くなればなるほどより強力な装備が必要になる。そこでより強力な装備を扱う為にサイボーグ手術がある。どこまで機械化するかは人それぞれだと。
それから肉体強化手術だ。ナノマシンを使って肉体を改造して、超人的な力と頑丈さを手に入れる方法だ。これはかなり辛いし、時間もかかるらしい。
ナノマシンと言っても機械を入れる訳ではないらしい。ナノマシン技術で人工ウイルスの様な物を作り出し、まるでウイルスの様に細胞に寄生させて細胞単位で強化させる仕組みらしい。このナノマシンの技術を使えば腕を生やす事すら出来るらしい。まるで魔法だな。
ただここで使われてるのは戦闘に特化したナノマシンテクノロジーだ。肉体の極度な破壊と再生を繰り返して超人の力を得る為に、長い時間と才能が必要になる。そして細胞に定着した擬似ウイルスは一定の分裂をすると体外に排出される為定期的にナノマシンによる動脈注射が必要になる。
次に魔力保管技術が使われてる各種装備だ。魔力が無い人でも使える魔力武器で、定期的に魔力チャージさえ出来れば魔力武器を使い続けられる。
このように様々な強化方法があり、無限の組み合わせがあるため、上に行けば行くほど魔力持ちなど関係無くなるようだ。
そしてこれらの強化方法は例外なく恐ろしい値段がする。途方もない金が必要なのだ。
昔は魔力を物理現象として具現化したりして使っていた時期もあったらしいが、技術力が発展していくと効率の悪さから消えていった。
例えば炎を出すより、銃弾に魔力を込めて発射する方が効率的出し威力も上がる。火に干渉出来る人ならその干渉能力を高めて、銃弾が発射される時のエネルギーに魔力を上乗せさせて使った方が良いのだ。
魔力を使った技術も様々な方面から研究が進み、昔のような単純な物理現象を起こす方法は廃れたようだ。
もちろん一部の例外を除いて。
翌日。俺は新しいバイクに乗って新たな魔境を目指していた。最初に通っていた荒田遺跡は魔境だが昔の採掘場跡らしく、たいした物は無いし強いモンスターもいないので初心者を育成する場所として使われてる。採掘出来る鉱石も時間がたつと復活するらしい。
そして俺が今向かってる場所はセントラルシティーと呼ばれている。この辺りの遺跡の中でも最大規模の都市遺跡だ。名前の由来は遺跡の広告にそう書いてあるかららしい。
そしてこのセントラルシティーには隣接した5つの都市に囲まれている。その全ての都市も合わせてセントラルシティーと呼ばれている。まあ名前の付け方なんてどうでも良いか。
すると突然バイクの電磁装甲が展開され爆発が起きた。
突然の出来事に対応出来ずバランスを崩して転倒してしまった。それでも直ぐに立て直して魔力を通常より多く巡らせてバイクを走らせる。
周りをよく見ると砲塔を背中に抱えた機械兵器が此方を狙っている。その周りには小型の四足歩行型の機械兵器5体が護衛するように展開している。あれらは管理プログラムから外れたはぐれの防衛兵器達だ。ヤバいかもしれない。
俺は方向転換しながら走り続けてモンスターが発生しない廃墟群に逃げ込んだ。
ここはモンスターが発生しないが、代わりに野良のモンスターが住みかにしている。そこに逃げ込むと砲撃が廃墟群に放たれた。
すると一部のモンスターがはぐれ防衛兵器に向かい、一部は俺に向かってきた。俺に向かってきた奴らは、この騒動が俺のせいだと思ってるんだろう。それから何度か道を曲がりモンスター達を引き連れて防衛兵器に向かっていく。そして俺は銃を構えて防衛兵器に向かって黄魔徹甲弾を撃った。
すると此方に向かって反撃の砲弾が放たれた。それを回避すると後ろから追いかけてきたモンスター達は防衛兵器に向かって行った。俺は少し離れて岩陰に隠れて観察する事にした。
もともと防衛兵器はかなりの強敵らしい。だけどはぐれ兵器の場合は長期間整備を行えない関係でかなり弱体化してるらしい。
だけどこの戦いを見ていると、とても弱ってるようには見えない。少しずつ弱っているけど、確実にモンスターを倒している。まともに戦ったらやばかったかもしれない。少し休もうとして座り込んだ時だった。
銃弾が立っていた時に頭があった壁に当たった。反対側を見ると四輪の装甲車両が見えた。あの車両から撃ったんだろう。俺は慌ててバイクに乗った。
また撃たれたが、バイクの電磁装甲で弾かれた。バイクに乗るのが分かっていたから狙い撃ちされた。
直ぐに走り出して移動する。
恐らく長距離用の狙撃ライフルだ。単発なのがその証拠だ。距離も目算で2キロ以上離れてる。
これからどうするか。
戦うのか。逃げるのか。