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7話 貧民街にある壁街。

「りゅうせい様。お待たせしました。本日からハンターランク10となり、仮登録から正式登録となります。半年経たずにランク10に上がれる人は珍しいですよ。毎日魔境に潜れるのも才能です。おめでとうございます。こちらが正式な登録証となります。次回からの買い取り価格からは相場変動制となりますのでご注意下さい」


遂に今日から俺は正式なハンターとなった。


登録した名前は前世の記憶から付けた名前だ。本当は『彩清』と登録したかったが、スラム出身の俺が難しい漢字を知っているとおかしいので平仮名で登録した。それに、高レベルのハンターになると漢字に変更する奴が多いらしい。その時に変更すれば良い。


この地域では前世の日本と同じで、平仮名、カタカナ、ローマ字、漢字、カタカナ英語等、不自然な程同じだ。


まあお陰で文字の読み書きにも苦労は無い。


その代わり、スラムで見かける文字は平仮名かカタカナ位だ。そして重要な書類程、前世の新聞の様に漢字だらけだ。これは漢字を暗号の様に使っている為だ。一定以上の学が無いと読めない様にしていると思われる。


それから買い取りの相場は固定額での買い取りだった。


分かる範囲の理由としては、新規登録者の殆どが長く続けられないからだ。死んでしまったり、怪我をしたり、特典だけが目的で成果を出さなかったり色々だ。


ハンター事務所だって儲けを出す為に営業しているのだ。稼げない奴にお金をかける訳がない。もしそれに文句がある奴が居るなら、ハンターにならずに個人取引すれば良い。コネと信用と実績があればハンター事務所を通さなくてもやっていけるだろう。


そしてハンター登録は誰にでもチャンスが与えられている代わりに、安い固定額で利益を確保しているのだ。それにより沢山の人を受け入れられるようになっているし、確実に利益を出せる人材を選別出来るからだ。


他にも理由は色々あるだろうが身分や生まれ、学や経験や資格が無くても始められるのはハンター位なものだ。


そろそろ別の狩場に挑戦したいが、定期運航車両が出ているのは初心者が行く狩場の荒田遺跡位だ。他の狩場に行きたいなら自分で車等を確保する必要がある。


しかし、値段を考えるならバイクが無難だな。


そして俺は人生で初めてスラムを抜けて、徒党の管理している区域の先にある貧民街まで来ていた。


壁に近い地域には、一部に都市側の人員や警備員等が配置されている。その為かなり治安が良いが、ここに出入りする条件は壁の中に出入りするのと違い条件がかなり緩い。


ここのゲートを通る為には一定以上の税金を納めている必要がある。つまり、身分を証明出来る仕事をしていて、尚且つ税金を払って都市に貢献出来る人間ならば誰でも入る事が出来るのだ。


簡単に説明すると、仕組みとしてはこうだ。


都市内でしか製造出来ない物質は他の都市との取引に利用されている。その一部を貧民街の壁側にある一部の企業に卸し、大量生産された物質も取引出来るようにしている。


そしてその物質を取引している一部の企業が他の貧民街の企業に卸し、尚且つ都市内で作るに値しない様な物を製造して販売している。


そしてそれらの物を取引している企業が貧民街の町に卸し、卸した一部と更に安物を生産してスラムにある店や徒党に卸している。


そしてスラムにある店や徒党は都市に税金を納めて、壁側の貧民街に出入りして直接企業から大量取引をしてスラムの住民に販売している。


そして徒党は住民から税金を取る代わりに、確実に食料等の物質を確実に確保しなくてはならない。


つまり徒党のボスになっても自由に何でも出来る訳ではない。


企業と取引出来るだけの実績と信用、徒党の管理が出来る武力と統率、様々な能力が必要とされる為に徒党は孤児達も受け入れ最低限の食事を与えて、見込みのある孤児を将来の徒党の構成員として育てているのだ。


しかし、それらを飛び越えて出入り出来るのがハンターだ。


ハンター事務所は企業が生産に必要とする大量の物質を集めてくる取引相手だ。だからこそハンター事務所に一定の権限を与える代わりに、物質の確保を確実に行わせる為に優遇措置をしている。


一方ハンター事務所は確実に物質を集められるハンターを確保する為に、どんな人材にも入り口を開き選別して、長く大量に資源を集められる様に実力や信用に応じて優遇措置をしている。


だからこそスラムの住民達にとって、ハンターになるために命を賭ける価値があり、尊敬と畏怖の対象でもあるのだ。


そして車両を買うには壁側にある店で購入するしかない。だけどハンターの場合は物資調達の為に必要な乗り物に関しては金さえ払えば買えるのだ。


「すいません、バイクのカタログを見せて貰えませんか?」


驚いた事にここの店員は女性だった。スラムではあり得ない光景だ。


別にこれは差別とかではない。スラムでは安全の為にも必要な事なのだ。


女性の店員というだけで、魔が差して襲ってくる奴も居るし、脅して奪おうと考える奴も出てくる。例え自衛が出来る女性でも、毎日店で殺し合いになったらマトモにお店を営業出来る筈がない。


つまり、壁側の治安がそれほどマトモで確実な管理がされている証拠だ。


逆に此処ではスラムで許されている事でも直ぐに処分の対称になる。入り口で散々注意された。


「スラムの子ね。先ずはハンターの登録証を出して」


言われた通りに登録証を渡した。


スラムの住人達と違い、清潔で肌にも艶があり、纏っている雰囲気や匂いも違う。あまりにも違い過ぎて緊張してしまう。


「ランク10ね。なら今の貴方が買えるのはこの3つね」


最初に紹介されたのが最低限の性能のバイクだ。とにかく安い。ただただ安さを求めた物で、壊れた時の修理すら考慮されていないバイクだ。壊れたら新しい物を買った方が安い位だ。使い捨てバイクだな。


2つ目はハンター用のバイクで最も安いバイクだ。ある程度の長距離を走れるがスピードはあまり出ない。その代わりにかなり頑丈らしい。走行中に転んだ程度では壊れないらしい。流石に壁に真っ直ぐ突っ込んだら壊れる用だ。


最後は新規参入してきた企業のバイクだ。元々は色々な部品を製造していた会社だったが、新しい社長に代わってから車両製造に参入したらしい。


その車両は変わった車両だった。


「電子制御を一切使用していないんですか?逆に凄いですね」


「あら?この説明で分かるの?スラム出身にしては知識が有るのね」


しまった。驚いてつい呟いてしまった。しかしまだ言い訳はいくらでも出来る。


「ハンター事務所で色々事前に調べていたので」


「そう?それでもある程度理解出来ているなら凄い事よ」


こんな風に素直に誉められたのは初めてでかなり戸惑った。かなり挙動不審になっていたはずだ。


それから説明が続き、このバイクは電子制御を使わない事で値段が高くなっているが、代わりに最新の流体力学や熱力学を使い、抵抗器を複数組み合わせた超多段制御を組み合わせて得意な加工技術を駆使して物理的な制御に成功させて、より耐久性と信頼性を確保しているらしい。


それにより余った電力で、オプションの電磁装甲用の魔力制御用の演算コアを搭載出来るらしい。


「この3つ目のバイクにします」


「本当にこのバイクで良いの?確かにスペックだけ見れば凄いけど、実績もない企業の製品は殆ど信頼出来ない事が多いのよ?」


「これにします。俺の直感がこれが良いって言ってます」


「そう。分かったわ。このバイクは注文になるから、納車日時が決まり次第連絡するから。それと、前金で半分を払ってもらい、納車時に残りの半分を払って貰うわよ。もし納車時に残りの半分を払えなかった場合でも返金は出来ない。それでも良い?」


「はい」


そうやってバイクの注文をした。


値段はオプションの電磁装甲込みで150万。これで殆どの金を使ってしまった。


普通に考えればお金のない俺がこんな博打をする必要はない。ましてや命がかかっている装備でなら尚更だ。


だけど俺は自分の直感を信じた。合理的な考えは大切だけど、直感とは自分自身でも気が付いてない情報により違和感として捉えて、本能的に良い事なのか、悪い事なのかを直感と言う形で判断しているらしい。


そのため最初の頃は精度が悪く、知識や経験を重ねる事で直感の精度が上がっていくと考えられている。俺は前世の知識と、スラムと言う過酷な経験のお陰でこの直感に何度も助けられた。


だからこそ直感を信じる事にした。







スラムの少年が店から出ると早速バイクの注文を始めた。


スラム出身者が個人経営の店に来るのは珍しい。大体が有名な大手の販売店に行きたがる。それはスラムではブランドとしても使えるからだし、憧れの対象としても見られる事になるから。


スラム出身者が正式なハンターに成れる確率は50人に1人と言われている。さらに子供のハンターとなれば激減する。


お金さえあれば殆ど死なない壁街の住民とは違い、お金の無いスラムの子供がハンターとして生き残るのは難しい。


更にあの少年はかなりチグハグだった。


見た目はそのままスラムの住人。纏っている空気もスラム出身者特有の異常な警戒心が見てとれる。しかし話してみると、スラムの住民らしくない知性と教養があった。更にスラムの住民からすれば大金の筈の買い物を平然と払い、尚且つ実績の無い企業の製品を買う精神性。


壁街の住民ですら大金を使う時には慎重になる。より確実に求める性能の製品を選ぶ。


だからこそあの少年は異質に見えた。普通ではない矛盾を内包した青年。


私はこの事を姉に話してみる事にした。



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