6話 まるで垂らされた蜘蛛の糸。
暫くはシステムの使い方や、最近夢の中で手に入れた武術の知識を使って訓練している。
新しい素材の情報を記憶するためには必ず気を失う事が分かった。どうやら物質の解析をする為には脳のリソースの大半を使う為に、一時的に気を失うようだ。
それから大まかな形を変えたり、大雑把に不純物を選り分ける分にはシステムを使わなくても魔力干渉するだけでも出来る。ただ完成品はかなり雑な仕上がりになる。
そこでシステムを使ってより詳細な情報を読み取り、その情報を使ってより細かく、正確に形を作り替える事が出来る。ただ同じコップを作るにしても、同じアルミ板を使っても成功しない。必ず一度システムを使い物質の解析をしなければならない。
それから武術は古武術の技術とCQCの技術を参考にしている。銃による超近接戦での戦いはかなり特殊だ。相手を殴り倒すよりも、武器を奪う方が遥かに簡単だ。だからこそ相手も使ってくる想定で戦わなければならない。
さらに関節技は対処方法を知らなければ確実に積む。逆に知っていればほぼ食らわない。だからこそ高度な総合格闘技の試合では打撃戦になる。関節技を使っても対処されるからだ。
そして古武術の知識とCQCの闘い方は相性が良い。
CQCでは超近接戦での銃による直進の線での攻撃と、ナイフや手や足による横や縦の線での攻撃を組み合わせた戦い方になる。そして古武術では遠くても大体5歩程度までを想定した戦い方だ。この2つを組み合わせてオリジナルの武術を模索している。
そしてそれらの基本の動きを、鏡を見ながら出来るだけ正確な動きを再現する。その繰り返しだ。相手が居ない分、動きの正確さや力の伝わり方を意識して極めるしかない。
それからハンター用の端末を手に入れたので古い端末は処分してもらい、初心者が行く魔境に向かった。
朝から魔境に向かう定期運航車両には沢山の人が乗っている。子供の俺は目立つようだ。現地に着くとパーティーの誘いもあったが断った。なぜならこの世界でマトモな大人に出会った事がないからだ。理由は何となく分かる。
スラムで生きていくには狡猾さが無ければ生きていけない。優しい奴から死んでいき、次に頭の悪い奴等が死んでいく。そして大人になる頃には狡猾で、頭が良いか、力があるか、人脈があるか、危機察知が高いかのどれかだ。善意で声をかけるような奴が生きていける程甘くない。
まあ小さな子供なら可能性はある。
一瞬妹の顔がちらついたが今はダメだ。
頭をふって気持ちを戦闘に切り替える。
それから色々と採集をしている時に銃声が段々と近付いてくるのに気が付いた。
その方向を見ると3人組が此方に向かって走ってくる。
「最悪だな」
俺が別方向に逃げようとするとわざわざ此方に方向を変えて向かってくる。
「お前ら俺にモンスターを擦り付ける気か?方向を変えないならお前らを撃つ」
そう言った次の瞬間、3人組は一瞬笑ったように感じた。すると奴等は別々の方角に散開して煙幕を投げつけてきた。
「やられたっ」
あいつら明らかに手慣れてやがる。
いまあいつらに向かって銃を撃っても、見えない敵に当たる筈がない。しかもその銃声でモンスターが此方に向かってくるはずだ。
ひたすら真っ直ぐ走ると煙幕が晴れ、モンスターは俺に向かって来ているようだ。
俺は瓦礫に登り先頭のモンスターを狙い撃った。3発目が頭に当たり倒れた。残り5匹だ。
横に広がろうとしたモンスターに牽制の射撃を撃ち、先頭のモンスターの顎の下からナイフを突き刺す。
突き刺したモンスターを盾にして飛び込んできたモンスターに投げつけて横から飛びかかってきたモンスターを一歩下がって撃ち抜く。そのまま回転して横に移動しながら左手の短剣を前に出す。
左手の短剣で直進の動きを牽制しながら銃を撃つ。
そうやって全てのモンスターを倒して周りを見渡してもだれも居ない。恐らく俺が負けそうに無いと分かって逃げたようだ。顔を隠してたせいで誰か分からなかった。完全にしてやられた。
「くそっ。手際が良すぎる。このレベルの狩場なら手練れは居ないと油断した」
さすがにこれを最初から予想するのは無理だ。だが経験してしまったからには対策しなくてはならない。それから武器ももう少し長い武器や、連射可能なバトルライフルも必要そうだ。この辺は実際に戦いながら運用法を模索していこう。
俺はやはり世の中そう簡単に上手くは行かない事を実感しながら帰路についた。
それから何度か素材を納品しながら金属の精練や植物からの精練作業を繰り返した。
「おじさん、連射可能な武器でオススメとかある?」
今日は新しい武器を買いに来ていた。あれから擦り付け野郎は現れなかったが、やはり集団戦での必要性を感じて買いにきたのだ。
「今のお前が買える中だとこの2つがオススメだな。こいつは値段の割に命中制度が高い。ある程度の強度もあるし整備もしやすい。それからカスタムパーツが多いのも魅力だ。使いやすいし、ある程度自分好みに出来るから初心者に一番人気だ」
「へぇー。じゃあ少しずつ強化パーツを買って、少しずつ強化していけるのか」
「そうだ。初心者は金がないからな。それからこいつは一応魔力持ち用のバトルライフルだ。少々重いがかなり頑丈に作られている。そのお陰で銃剣としても使えるのが特徴だ。パーツの数も少ないから整備もしやすい。ただカスタムパーツが銃剣周り位で値段も高い。それから弾薬は徹甲弾と黄魔徹甲弾と緑魔徹甲弾がある。徹甲弾から順に高くなる。黄魔徹甲弾と緑魔徹甲弾は魔力を込めると貫通力が上がり、弾頭が潰れると爆発する。かなりの値段するぞ。後黄魔徹甲弾と緑魔徹甲弾は正式にハンターにならないと売れないからな」
「やっぱりそうか。魔力を込めない場合、徹甲弾と黄魔徹甲弾に違いはあるのか?」
「若干だが黄魔徹甲弾の方が貫通性能が高い。魔力を込めると段違いだ。ただし、貫通力が高すぎて弱いモンスターや貧弱な装備の人間相手だと値段の価値は無いな」
「値段がこんなに違うのか。じゃあ将来的には拳銃の徹甲弾と、バトルライフル用の徹甲弾と黄魔徹甲弾を使い分けるのが良いのか。緑魔徹甲弾は高すぎて採算とれなさそうだな」
「モンスターを相手するなら徹甲弾、別の言い方ならAP弾以上じゃないと通用しないからな。金が掛かるのは当たり前だ。上に行くと特殊弾が当たり前になってくるが、高い弾だと一発で100万とかするやつもある。そこまで行けば100万なんてはした金だ。坊主もそこまで行ければ不自由しない筈だ。ま、頑張りな」
「今は地道に頑張るしかないさ。じゃあこの銃剣のこのセットと、拳銃用の徹甲弾二箱と、バトルライフル用の徹甲弾10箱と、予備の弾倉6個でお願い」
「今は正式なハンターを目指して頑張りな。値段を確認したらカードをかざせ」
カードをかざして番号を入力すると無事支払いが終わった。
ハンターって意外と金がかかるな。拳銃は練習用の通常弾で射撃訓練出来たけど、このバトルライフルは徹甲弾からしか対応してないから金がかかる。また暫くは赤字が続くけど我慢だ。なんとしても正式なハンターにならなくては。
それから同じような日々を過ごして拠点に帰る途中に声を掛けられた。
「あ、あの」
振り返ると、そこには8歳位の男女2
人と4歳位の女の子が立っていた。
「何の用だ?」
「わ、私達に仕事をくれませんか?出来る事は何でもします。どうかお願いします」
そうして3人は土下座をした。
普通スラムの子供は何処かの徒党の傘下に入る位でしか生きられない。俺の場合は前世の知識で読み書き計算も出来たので、日雇いの仕事を探すのにあまり苦労はしなかった。
しかし、他の子供は徒党に入って地域の清掃や監視、連絡約や買い出し、雑用等をして生活している。無料の配給だけでは生きていけない。
それに雑用と言ってもかなり大変だ。死体の処理や廃品回収、重い荷物や飲み水の確保など。ある程度の体力が無ければ出来ない事ばかりだ。
そしてこの3人は明らかに体力が無い。特に幼い女の子の方はかなり弱って見える。このままなら3人とも近い内に死んでしまうだろう。
スラムでこんな子供を助ける奴なんて居ない。
だけど、俺には此処で見捨てる事なんて出来なかった。
あの日、妹を助けた日の記憶が蘇る。
『お兄ちゃん』
胸に走る痛みを必死に堪えて決断した。
「命をかける覚悟があるか?一生を捧げる覚悟があるか?そうで無ければお前達の様な体力も無い子供に出来る仕事は無い」
「やります」
「どんな事でもやってみせます」
「がんばいましゅ」
「なら付いてこい。離れると命の保証は無い」
そうして俺はこの3人を拠点に連れ帰る事にした。
スラムの外側で路地に入る時にはかなり怯えていたが、それでも立ち止まらずに付いてきた。覚悟は本物だったようだ。
それから拠点に付くと風呂に入れて、服を着替えさせて飯を食わせた。食べ終わると明日から部屋の掃除と庭の手入れ、果物や野菜の収穫方法を簡単に教えて就寝させた。
それから死にたく無ければ拠点から出ないようにも言いつけた。正直この辺の治安は最悪だ。子供達もそれはわかってる様で必死に頷いていた。
翌日は掃除の仕方と庭の手入れや収穫物の保管場所等を教えて、黒い服と紺色のズボン、黒のボクサーパンツと黒のスポーツブラを5着ずつ買い、丈夫な靴やベルト、自衛の為のサブコンパクトの拳銃を買ってきた。
銃に関しては暫く後から訓練して、ある程度信頼出来ると思えたら携帯させるつもりだ。
お昼を食べ終わると午後からは体作りの為の訓練をさせた。暫くは軽いランニングと障害物を飛び越えたり、上ったり降りたりする簡単な事をさせるつもりだ。
スラムの中で襲われそうになっても、土地勘のある子供は障害物が多いので逃げやすい。それでもある程度の訓練は必要なので毎日続けさせる。
流石に一生外に出せないのも不便だ。
それから幼い女の子はまさかの魔力持ちだった。毎日寝る前には全身から全力の魔力放出をさせる事にした。
後驚いた事に、3人ともスラム育ちの子供にしてはかなり大人しい性格をしているようだ。まあ今は大人しい子供の方が忠実で面倒も見やすい。