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1話 災害。

この世界に生まれて10年。思い出せる最初の記憶は路上で泣いていた事。


幼いながらに両親に捨てられたと理解しながら、『もしかしたらここで待っていたら考え直した両親が迎えに来てくれるかもしれない』と期待して、泣きながらも待ち続けた記憶だ。


そのショックからか、生存本能からか、その日から前世の記憶を少しずつ思い出していた。


「この謎の力の鍛練もかなり上達してきたな」


この力に最初に気が付いたのは、感情が高ぶると体の中で熱のような物を感じた事からだ。最初は『そう言うものだ』と思って気付かなかったけど、何も出来ない自分への怒りで我を忘れて木を本気で殴った時に拳の跡がついて気が付いた。


幼いながらに前世の知識を多少思い出していたから、『流石にこれはおかしい』と気付けた。


それからこの力を使って、色々な特訓を試して色々と分かって来た。


この力は体力と一緒で、鍛えれば鍛えるほど長く沢山のエネルギーが使えるようになる。一度に使える量も鍛えれば鍛えるほど増える。


そして一度に使う力の量が多ければ多い程身体能力が上昇する。だけどこれには欠点があった。出力を上げる程体にかかる負担が大きくなった。


それから様々な特訓を重ねて肉体改造を行ってきた。


考え事をしてると城壁が見えてきた。


巨大な城壁の側には巨大な貧民街が形成されている。何故内壁の住民が貧民街を放置しているかと言うと、何かあった時の時間稼ぎの盾にするためらしい。酔ったおっさんがそんな事を叫んでいた。


そんな事言われなくても分かってるって。


貧民街のスラムに戻り寝床に向かっていると警報が鳴り響いてきた。


「まずい」


急いで寝床に戻るために走り出すと人にぶつかって中々進めない。嫌な記憶が蘇るが今はそれどころではない。怒鳴られたり突き飛ばされたりしながらも、やっとの思いで拠点にたどり着く。


建物の間の狭い道に入り巨大なコンテナの隙間から飛び出たロープを掴んで上へと上る。


上りきってローブを引き上げようとすると液体金属のようなモンスターが壁を伝い登って来ていた。


俺は慌てて奥へと走りだし更に上へ昇る。後ろを振り返ると触れるものを溶かしながら追いかけて来ていた。


「ちくしょう。何で俺を追いかけるんだよ」


文句を言いながらも頭の中では逃げる方向と逃げ方を必死に考えていた。


するとモンスターがあちこち溶かしたおかげで上に重なっているコンテナが崩れ始めた。


咄嗟に右に転がり隣の建物の窓に突っ込む。


すると大きな音と振動が響き渡り、割れたガラスの破片が突き刺さる。


幸運な事に突き刺さったのは左手だけですんだようだ。


「いってーーー」


周りを見渡すとボロボロのシーツが目に入り、急いでシーツを破り左腕に強く巻き付ける。右手と口で固く結ぶと手に刺さった破片を慎重に取り除いていく。


もし破片が血管のなかに入ると取り除くのが難しくなる。だから強く縛り血の流れを止めて破片を取り除かなくてはいけない。


水道で傷口を洗い流してライトで照らして破片が残ってないか確認する。


「良かった。小さい破片は刺さらなかったみたいだ」


縛っていたシーツを洗って、傷口が隠れるように縛り直した。周りを見渡すと窓の外では色々なモンスターが暴れ回っているようだ。俺は出来る限り音をたてないようにゆっくり移動して屋上に登り慎重に周りを見渡す。


するとモンスター達が同じ方向に向かっている。その方向を見ると装甲歩兵と歩兵隊がモンスターを一掃し、その後ろには装甲車が並び、さらにその後ろには巨大装甲兵器が並んでいた。


「はぁ。助かったーーーー」


あれは内壁に所属している警備隊だ。圧倒的な力でモンスター達を蹂躙する。勿論スラムの被害など関係なくだ。そしてモンスター達は大きな音がする方向に集まってくる習性があるため、簡単に駆逐する事が出来る。


俺はその場で座りこみ、袋に入っている塩を舐めて水袋の水を飲む。


すると急に後ろから気配を感じて振り返ると液体金属のモンスターが近付いて来ていた。慌てて手に持っていた塩袋を投げつけると、急に動きが鈍くなり煙をだし始め、錆びのように変色しはじめ動きが止まった。


俺は近くにあった瓦礫を持ち上げて液体金属だったモンスターに投げ付けて止めをさした。


瓦礫をひっくり返すと、そこには小指の爪程のガラス玉が転がっていた。


「何故こんな物が」


これがただのガラス玉ならとっくに割れて壊れているはずだ。それにモンスターがこんな物を残すなんて聞いた事がない。


俺は貧民街で孤児として生きた為に大した知識は無い。それにこの貧民街の人達の知識が正しいとは限らない。つまり、誰にも知られていない事には知られたくない理由があるはず。良い事にしても、悪い事にしても。このガラス玉は現状を変える大きな力になるかもしれない。


俺はゆっくりとガラス玉を拾った。


するとガラス玉は粉々に砕け散り、光の粒となり俺の右手から体の中に吸い込まれていく。


それと同時に強烈な目眩と共に意識を失った。





「お兄ちゃん、ありがとう。一生大事にする」


「たまたま拾っただけだ。俺には必要無い物だ」


貧民街で子供が生きていくのは難しい。そんな中でも病気になったか弱い女の子は徒党からも役立たずとして捨てられる。この子はそんな子供だった。


貧民街を歩いていると、弱々しい呻き声を聞いて目を向けると、そこには5才位の女の子がお腹を押さえて蹲っていた。


貧民街では食中毒になって見捨てられる奴なんてそこら中で見かける。治しても利益にならない奴を看病する奴なんて殆どいない。皆生きるのに必死だ。俺を含めて。


しかし、俺には流石にこんな幼い子供を見捨てる事なんて出来なかった。


金を払って水浴び場で体を洗って、雑貨屋で沢山の布と服を買い、拠点へ連れ帰った。


定期的に塩の入った水を飲ませ、糞尿のついた布を取り替え体を拭いて、取り替えた布は処分場で燃やす。


それが終わったら配給に並んで飯を貰って、追加のお金を払って雑炊を持ち帰って食べさせる。朝からの農場での日雇い作業をこなし、昼過ぎには拠点へ戻り布を取り替えてやる。


午後は廃品回収の手伝いを終えると安い食べ物を沢山買って拠点に戻った。それから布を取り替えて体を拭いてやり眠る。その繰り返しだ。


一週間もすれば元気になったけど、俺の後を着いてくるようになった。助けてしまったのは俺だが、全ての面倒をみてやれる訳ではない。日雇いの仕事にも着いてきたがお金は殆ど貰えない。


正直かなりの負担になっていたが、これだけ懐かれると見捨てる事が出来なかった。だからこの子に名前をつけた。いつも笑顔のこの子にふさわしい名前を。エミと名付けた。


そして一年程が経ち、水を買いにいった帰りにそれは起こった。


突然の銃声が響き渡り、皆が走り出した。俺とエミは大人達に突き飛ばされ転がって離れ離れになってしまった。


必死でエミを探すと遠くで足を怪我したエミを見つけた。


すると銃声と共に男が走ってきた。俺は急いでエミの元へ向かおうとしているとガタイのいい男がエミを蹴り飛ばした。


「邪魔だ糞ガキ」


そう言って男は走り去った。


俺は慌ててエミの元に駆け寄るが、痛みで話す事が出来ないみたいだ。そのまま拠点へ連れ帰ったが、直ぐに高熱を出し二度と目覚める事はなかった。


「くそ。嫌な夢を見た」


目を覚ますと倒れた場所で目を覚ました。周りは暗くなっているが復旧は始まっている。このままここに居ると建物の主に何を吹っ掛けられるか分かったもんじゃない。


俺は音を立てないように、足早にここから移動した。


「クソ。まだ頭が痛いし目が回ったように上手く歩けない。いったい何なんだ。もしかしてあれは人間にはヤバい物だったんじゃ」


嫌な想像が頭をよぎり否定する。もし本当に害しかなければ噂位は耳に入るはずだ。俺は心の中で自分にそう言い聞かせて新しい拠点に出来そうな場所を探してスラム街の外側に向かっている。


貧民街の壁側は比較的富裕層が住んでいて、一部都市側の施設も有りかなり治安が良い。


そこから外側に向かって治安が悪くなり、一定の境目からはスラムの住民達が管理するスラム街になる。そしてスラム街でも外側は誰にも管理されてない無法地帯になっている。


スラムの外側はかなりの危険地帯だ。治安の悪いスラムの区域からすら追放された奴や、誰からも干渉されたくない頭のおかしい奴や、モンスターを狩るのが生き甲斐で、生活環境を良くする事に興味のない戦闘狂。とにかくヤバい場所だ。


だけどちゃんとした拠点を持ってなくて、尚且つ徒党に入っていない俺みたいな子供が誰にも知られてない拠点を探すのはかなり難しい。だから子供が拠点にしない外側なら一時的な拠点としての場所はそこそこある。


だけどそれもかなりのリスクだ。外側は最低限の秩序すら無い無法地帯だ。大通り以外に入ると、いきなり殺される事もあるらしい。


俺は慎重に路地へと入り、寝れるような場所を探して歩き回る。


暫く歩き回っていると背中に何かが押し付けられる。


「勝手に動いたら殺す。何か喋っても殺す。分かったらゆっくり前に歩け」


冷や汗が止まらない。逃げようとすれば確実に殺される。人間の本気の殺意がここまではっきり分かる物だとは思わなかった。


俺は後ろの奴の指示通りに道を進み、何処か分からない建物の中に入った。そして頑丈な鉄の扉のある部屋に入れられ椅子に座らされた。


そして俺の前に座った男がフードを捲ると刺青が入った男の顔が見えた。目の前の男からは人間とは思えない程の恐ろしい威圧感を感じる。見た目は70とかそれぐらいの様に見えるが、強靭な肉体に全身からほとばしって物理的な圧力すら感じる程の覇気を感じる。


俺はこれからどうなる。いったいどうすれば生き残れる。


俺の頭の中は生き残る事だけに必死に頭を使う。もし俺がここで死んでしまえば、この世界で誰もエミの事を覚えている人が居なくなってしまう。


俺はこの世界で唯一家族になった妹の人生を無意味な物にしたくなかった。エミに生まれてきた意味を与えてやりたかった。だから俺は死ぬ訳にはいかない。


すると男が話し始めた。


「お前には利用価値がある。素直に俺の言うことを聞けば飯も与えるし知識も与えよう。だが、少しでも不審な事をすれば処分して他の奴を捕まえてくる。ある程度成果が出れば解放してやっても良い。分かったか?」


俺はゆっくりと頷いた。


「なら良い。俺は頭の悪いガキは嫌いだが、これからの実験の為に魔力持ちの子供を探していた。理想はもう少し幼い方が良かったが、お前位の奴でも問題はない。そこの飯を食ったら直ぐに寝ろ。明日から直ぐに実験を始める」


そう言って男は部屋から出ていった。


この時の俺は色々な事があり、更には圧倒的な強者に脅されて、あの砕け散ったガラス玉の事を完全に忘れ去っていた。



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