06
「それで?オバサンはなんだって?」
「え~と、1番新しいメッセージは、スマホを解約するって」
「リノの?」
「そうだろうね」
チイ叔母さんのスマホを解約しても私には関係ないし、私のだろうな。
でも私のスマホの契約者はダイ叔母さんの筈だけど?
「じゃあ、新しいスマホも買うか」
「え?私の?」
「もちろん。俺と同じキャリアでも良い?」
「それは、うん」
「じゃあこの後はスマホショップ行って、その後ドラッグストアで、帰り際にスーパーで食品か。あと、必要な物ある?」
「必要って言うか、私、ホントにオジサンと住んで良いの?」
「良いよ。もちろんだよ」
「そしたら、アルバイトしても良い?」
「・・・それはお金の為?それとも社会勉強の為?」
これ、お金の為って言ったら、やらせて貰えないよね?
「社会。バイトを通じて、社会的な視野を広げたい」
どう?
「職種は?」
「え?コンビニとか?」
「何時まで?」
「え~と、ギリギリまで?」
確か年齢で働ける時間制限があった気がする。
「夕飯は?」
「買って帰るかな?」
「俺の晩飯、作ってくれないのか?」
え?そんな約束した?
今日の晩ご飯は私が作るって言ったけど、毎日は約束してないよね?
「今日以外のは、作る約束してないと思うけど?」
「詰まり、毎日俺がリノの分も晩ご飯を作って良いんだな?」
「え?作れる日は私が作るよ?もちろんオジサンのも」
「でも俺は毎日作れるから、俺が作ればリノのバイトのシフトに左右されなくて済む」
「そうだけど、作れる日は作るよ」
「急にシフトに入ってとか頼まれたらどうする?俺はコンビニ弁当が届くのを待ってられないぞ?夜に弱いから」
何言ってんの?
「それは詰まり、コンビニバイトはダメって事?」
「夜遅いのはダメだな」
「夜の方が時給良いんだよ?たしか」
「一時間当たり数十円とか、良くても百円とかだろ?迎えに行く俺の時給を考えたら赤字だ」
「え?迎えに来るの?」
「当たり前だろ?何時だと思ってるんだ?」
「大丈夫だよ。人通りあるだろうし、危なくないよ」
「あのなぁ、事故や事件に巻き込まれる話は良くあるだろう?」
「私の周りにはないよ?」
「ニュースとかではあるよな?」
「あるらしいけど」
「そう言うのに巻き込まれた人は、巻き込まれる直前まで、自分が巻き込まれるとは思ってないと思うぞ?もしかしたら、自分は大丈夫だと思っているまであるかも知れない。違うか?」
「それはそうかもだけど」
「コンビニ強盗だってあるし」
「そんな事言ってたら何も出来ないじゃない」
「リノは俺にお小遣い貰ったりしたくないから、バイトしたいんだろ?」
「生活費くらい入れたいし、大学行くならそのお金だって自分で準備したい」
「分かった。じゃあリノに掛かった金は貸しにして置く。それとリノが何かしてくれたら金を払う」
「それはなんか違うんじゃない?」
「違わない。貸しの分は自分で付けといてくれ」
「それは、うん。分かった。でもバイトはするからね?」
「事務とかキッチンスタッフとかなら良いぞ」
「え?なんで?」
「犯罪被害に遭い難いし、客にナンパされ難い」
「どっちもないって。心配症だなぁ」
「俺の可愛いリノの事を心配するのは当たり前だ」
「・・・私を可愛いなんて言うの、オジサンだけだから」
「・・・そうか」
オジサンがしんみりと言った。
「え?なに?今の間は?」
「リノの可愛さを俺が独り占めしてるかと思って、感じ入ってた」
オジサンの表情は口にした冗談とズレてる。
空気を変えたくて、自分を抱き締めておどけてみた。
「ちょっと怖いんだけど?」
「襲わないって」
そう言ってオジサンが手を伸ばしてくる。
肩を竦めて「ひ~」と怖がって見せるけど、笑いは取れずに頭を撫でられた。
手付きがいつもより優しい。
なに?
独り占めでなんかスイッチが入ったの?
スマホショップではオジサンのチイ叔母さん専用機を解約して、代わりに私のを買って貰う。
一番安いのを選んだけど、結構高い。早速金額をメモした。
ドラッグストアで必要な物を買う。
シャンプーとか、チイ叔母さんが使ってるのが意外と高い。ダイ叔母さんが買ってくるのは並んでないけど、あれも高かったはず。
安すぎると髪が傷んだりするかな?そんなの店頭に並ばない?ネットじゃないから安くても大丈夫?
悩んで、どれも2番目とか3番目とかに安いヤツにした。
これも金額をメモ。
スーパーで買い物。
欲しい物をカゴに入れるけど、オジサンも入れる。
「金額、分かんなくなるから、カゴ分けようよ」
「別々に会計すんのか?」
「うん」
「調味料とかは?使う時にグラム計って金額をメモするのか?同じ物を二つ用意して、別々に使うのか?」
「うっ!」
「俺の分は調味料なしとか、勘弁しろよ」
「そんな事しないよ」
「同じ物を食べるのに別々に作るとか、時間の無駄だぞ?」
「それはそうだけど」
「野菜とか別々に買ったら、食べきれなくて傷むぞ?」
「バラ売りもあるし」
「割高だけどな」
「・・・分かったよ。じゃあ食費はワリカンね?」
「俺の方が食べるぞ?割り勘だから俺の分はこれだけ、とか勘弁なんだけど?」
「そんな事言わないよ!好きなだけ食べて大きくお成り!」
「安かったピーマンは俺に寄越して、高かった牛肉は自分に多目とかもなしだぞ?」
「しないって!そんなに心配ならオジサンが取り分けてよ!」
「良し。俺は肉もニンジンも公平に扱うからな」
「ちょっと!ニンジンの話なんてしてなかったじゃない!」
オジサンが澄ました顔で肩を竦める。
いいもん。ニンジンだって食べるもん。
オジサンの部屋に帰って荷物を降ろす。
スカスカだった冷蔵庫に食材をしまったら、オジサンが「ちょっと来い」って手招きをする。
付いて行ったらオジサンの部屋だ。
「ここ、使って良いから。荷物を移すの手伝え」
「え?」
私が借りた部屋の倍は広い。
「こんな良い部屋、使えないよ」
「俺には広過ぎるからな」
「私にも広過ぎるよ」
「じゃあ一緒に使うか?」
オジサンが澄ました顔でベッドを指差す。
自分を抱き締めた。
「襲わないんでしょ?」
「抱き枕にするのもされるのもOKだぞ?」
「イヤよ!」
「分かったよ。ほら、運ぶの手伝え」
そう言うとオジサンはクローゼットからスーツを出して渡して来る。
「シワにしないで運んでくれよ」
「部屋、替えないって言ってるでしょ!」
「リノ、臭いを嗅いでみろ」
「匂い?」
オジサンが天井を指差して言うから、思わず見上げてクンクンと嗅いでみる。
匂い?
「新築みたいな匂い?私の部屋もおんなじに思うけど、何?」
「いや、俺臭くて寝られないとかだと、今日中に壁紙交換だからな」
「そんなの、大丈夫だってば」
「ならさっさと運べ。シワにしたらお仕置きだぞ?」
「え?」
「ニンジン倍にする」
そう言ってオジサンはスーツを持って部屋を出てく。
冗談じゃない。
「そんな子供みたいなお仕置き、止めてよね!」
廊下からオジサンの笑い声が聞こえる。
ホント、冗談じゃないよ。