04
オジサンはシャツとか持って戻って来た。
「俺ので良ければこれ着ろ。洗ってあるけど新品じゃない」
「トランクスも?」
「ボクサーより良いだろう?」
ボクサーってボクシングする人だよね?何の関係が?
あ!上半身裸って事?
「嫌なら裸で寝るんだな。部屋に毛布をもう1枚入れて置いたから」
「あ、うん」
「脱いだら洗濯機に入れてスイッチ入れれば、乾燥までしてくれる。洗剤とかはセットしといた」
「あ、ありがと」
「いいや。朝までそのままだと皺になるかも知れないけど、アイロンも皺取りスプレーとかもあるから」
「分かった」
「俺はこの後トイレに行ったら朝まで部屋を出ない積もりだけど、廊下を裸で歩くなよ?」
「え?なに言ってるの?」
「大き目のバスタオル、プールで使うヤツを用意してあるから、少なくともそれで体を隠して移動しろ。部屋にタオル掛けもあるからな」
「あ、はい」
オジサンは満足そうに肯くと、私の傍まで来て手を伸ばす。
「それじゃあな。おやすみ」
そう言ってオジサンは頭を撫でた。
「え?おやすみ」
「また明日」
そう言うとあくびをしながらダイニングをまた出て行く。
あれ?ハグは?
取り敢えず、トイレの前でオジサンが出て来るのを待つ。
「お?お待たせ」
「あ、うん」
「あ、トイレ、カモフラージュの音は出ないからな?」
「え?なに言ってんの?」
「一緒に暮らすなら、そう言うのも慣れて貰わないと」
「ウチのトイレも音が漏れるし」
「いや、俺は気にしないから、リノが気にしないなら良いんだ」
「オジサンは基本的にデリカシーがない」
「ハハ、気を付けるよ」
そう言ってオジサンはまた頭を撫でようとして、手を止める。
「手、ちゃんと洗ったし、拭いたからな?」
「もう!」
自分から撫でられに行った。
「じゃあ、おやすみ」
「待ってオジサン!」
「ああ。どうした?」
「あの・・・」
「ん?・・・あ、カップ、出しっ放しだったか。リノは飲み終わったか?」
「それは、うん」
「じゃあ洗っておくから、風呂に入っちゃえ。な?」
「あ、私も洗う」
「そうか?ありがとな」
「私も飲んだし」
「リノは入れてくれたんだから、片付けは俺がやるで良いんだよ」
ダイニングに戻ってカップをキッチンに持って行く。
「洗うから拭いてくれ」
「うん」
カップ二つなので直ぐ終わってしまう。
「勉強、そこでやるのか?」
ダイニングのテーブルを指差したオジサンが訊く。
「うん。借りるね」
「明日はまず、机を買うか」
「ここで勉強するから良いよ。ダメ?」
「ダメだな。遠慮するな」
「遠慮じゃないよ。ウチでもこうだから」
「・・・机、捨てちゃったもんな」
ダイ叔母さん家に引っ越した時に、それまで使っていた机は捨てられた。
小学校の入学祝いに、オジサンが買ってくれた机だった。
「オジサンに買って貰ったのに、ごめんね」
「いや。使い続けるには子供っぽかったもんな」
当時人気だったキャラのデスクマットが付いてたけど、机自体はシンプルだった気がする。
「今度は大人になっても使えるヤツにしよう」
こう言う暗にまだ子どもだと言う言い回しをされるのはイラッと来る。
「遠慮じゃなくて、ここで勉強しちゃダメ?」
「なんで?キッチンのドアを閉めてれば料理しててもうるさくはないと思うけど、俺が行ったり来たりしてたら気が散るだろう?」
「机じゃなくてテーブルで勉強する方が、子どもの頭が良くなるんだって」
あ、自分で子どもって言ってしまった・・・気にしてたから釣られたんだ。
「ホントかよ」
「分かんないけど」
「・・・周りがうるさいと、集中力が付くのか?」
「どうだろう?人の話を聞き流す子にはなりそうだよね」
「そうか?つまり、その子のオリジナリティが強まる?」
なんでそんなに考え込んでるんだろう、このオジサンは?
「もしかして俺が机を買わなければ、リノはもっと頭が良くなったって事か?」
「そうかも知れないけど、何となく失礼じゃない?」
「まあ、ここで勉強するのは良い。それはそれとして机は買おう」
「え?なんでよ?使わないのに置いたら、部屋が狭くなっちゃう」
「そしたら俺の部屋と交換してやる」
「え?なんで?」
「二人で使う予定だったから、広い方の部屋を俺が使ってるんだ。考えたら女の子の方が持ち物が多いよな?部屋を入れ替えよう」
「え?いいよいいよ」
「臭いとか染み付いてないと思うけど、壁紙とかもリノの好みに変えれば大丈夫だから」
「そんな事思ってないけど、そうじゃなくて、そんなにして貰ったら、私が返せないから」
「子供が気を使うな」
「もう子どもじゃないんだから!」
暗に言われるより明に言われる方がムカつく。
「子供はみんなそう言うんだ」
「そんな、酔っ払いはみんなそう言うみたいに」
「大人になるとな、みんな子供に戻りたくなるんだ。子供じゃないって言ってるの内は子供」
きーっ!
「言い返せない事を言うなんてズルい!」
「大人はズルいもんなのさ」
オジサンの脚を蹴ってやった。
「蹴るなよ!」
「子どもっぽく反撃してあげる!」
「そんな蹴り方、自分の脚傷めるぞ?あ、脚で思い出した。鏡台?ドレッサー?そんなのも必要だよな?」
「え?部屋に?」
「ああ」
「洗面台あるんだよね?鏡があれば充分だよ?」
「メイクに時間が掛かるだろう?洗面所を専有されると困る」
「メイクなんて余りしないけど。でもなんで脚からドレッサーの話なの?」
「だってああ言うのって、猫足なんだろう?」
「猫足?ってなに?」
「脚の先がこうなってるヤツ」
オジサンが招き猫みたいな手をする。
「ゴメン。分かんない」
「まあ、見に行きゃ分かる」
「もしかしてそれも子供用?」
「え?どうだろう?絵画だと妙齢の女性が使ってるけど」
「ミョウレイ?」
なんか、いかがわしい響き。
「俺の部屋に図録があるけど、今日はもう眠いから明日見せてやる」
ズロクってなんだろうと思うけど、見せてくれるならそんなにいかがわしくもないのかな?
「分かった」
「リノも早く寝ろよ」
「うん」
「明日また、色々話そうな?」
「うん」
「じゃあな、おやすみ」
「うん、おやすみ」
オジサンはまたあくびをしながら、自分の部屋に入って行った。
あ!ハグ!
次の日、見せて貰った絵画の図録は、1割くらいの絵がいかがわしかった。




