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オジサンと軽のレンタカーに乗る。
「あの男、どうする?」
「どうするって?」
「このまま逮捕されれば、オバサンも捕まるかも知れない」
「え?そうなの?」
「オバサンが金を受け取ってて、リノに売春させる積もりだった事が証言されたらな」
「・・・どうするって、どんな方法があるの?」
「ここであの男を逃がせばオバサンは捕まらないだろうけど、逃がしても結局あの男がどこかで捕まればオバサンも捕まるかも知れない」
「チイ叔母さんが犯罪者になったら、私、オジサンと居られない?」
「いいや。リノはずっと俺のとこにいろ」
「オジサン」
運転席に座るオジサンの腕に抱き付く。
オジサンが頭を撫でてくれる。
「じゃあ、あの男、買春で逮捕して」
「オバサンは売春周旋だけどあの男は児童買春未遂だな。逮捕は強制猥褻や未成年者略取かな?」
「リャクシュ?」
「誘拐みたいなもんだ。今日の事、警察に通報してクルマのナンバーも報せたから、どっちにしろ逃げられないかもな」
ダイ叔母さんからオジサンに、チイ叔母さんが怪我をしたって連絡が入ってた。
チイ叔母さんは私を攫った男に、私を売ったお金を倍にして返せって言われて、殴られたり蹴られたりしたらしい。
それでチイ叔母さんはお金は私が持ってるって言って、私の学校を男に教えたんだって。
オジサンはその話を聞いて、私を迎えに来てくれた。
慌ててたんで、前の私のスマホに電話したらしい。繋がらなくてもっと慌てたって言うけど、それはそうだよね。
仕事を早退して私を迎えに来たら、学校の前で私がクルマに連れ込まれるところだったので、クルマの後を付けて来てくれた。
オジサンは途中で警察にも連絡した。
今も連絡したので、もうすぐここに警官が来るらしい。
男は地面に転がしてあるそうだ。
逃げないのか不思議だったけど、たまたま骨折してるらしい。かなり痛がっているから逃げられないだろう、って事だ。
たまたまか・・・たまたまなら仕方ないよね。
警官と一緒に現地の警察に行って事情を話して、帰って来て地元の警察に行ってまた事情を話す。
面倒臭いよ。
話し終わったけど、今日はここまでみたいな感じらしい。また呼び出されるらしい。
面倒臭いな。
帰ろうとしてオジサンと警察の廊下を歩いてたら、前から警官に車椅子を押されてチイ叔母さんが来た。
頭に包帯もしてる。
声を掛けようとしたら、オジサンが私の前に出た。
「おい!被害者と加害者を鉢合わせるってどういう事だ!」
オジサンが怒鳴る。驚いて体に力が入ったけど、オジサンは後ろ手で私を背中に引き寄せた。
守ってくれてるんだ。
「タカヒロ!助けて!」
チイ叔母さんの甲高い声がする。
「リノを売っといて、良くそんな事が言えるな!」
「仕方なかったのよ!」
「なら警察に捕まるのも、仕方ないよな」
オジサンの声が冷めて、これも怖い。
「タカヒロが悪いのよ!婚約を解消するなんてウソを言うから!」
「時系列が逆だ。おい!早く連れてけ!」
警官が慌てて押すから、車椅子が柱にぶつかりそうになる。慌てて停まると今度は、チイ叔母さんが車椅子から落ちそうだ。
前屈みになったチイ叔母さんと目が合った。
「リノ!この売女!タカヒロを誑かしやがって!」
「おい!」
「オジサン待って」
「・・・ああ、分かった」
「はん!すっかり骨抜きか!さすがあの女の娘だ!そんな貧相な体で良くやったもんだよ!血も繋がらないのに育ててやった恩も忘れてヒトの男を盗りやがって!」
「おい!」
「オジサン大丈夫」
ダイ叔母さんなら育ててやったと言われても言い返せない気がするけど、チイ叔母さんには育てられた覚えはないよ。
反面教師として育てた?そう言う面なら教材にはなって貰ったけど。
・・・そう言えば私は昔、チイ叔母さんになりたかったんだった・・・
「チイ叔母さん」
「なんだよ!謝ったって赦さないからな!一生恨んでやる!虐めて虐めて虐め抜いてやるからな!」
「私はチイ叔母さんに感謝してるんだよ?」
「そんな事今更言ったって赦すか!」
「チイ叔母さんのお陰でオジサンと出会えたし」
「なっ!この売女が!」
「チイ叔母さんはオジサンの事、分かってないでしょう?でも私は違う」
「何言ってんだ!隅々まで知ってるよ!」
「そうじゃないよ、チイ叔母さん。オジサンの事を分かってネトったのは私だから。ゴメンね?」
「なっ?なっ!クッソー!」
チイ叔母さんが車椅子から立ち上がって、バランスを崩して壁に頭をぶつけた。
倒れるチイ叔母さんから守る様に、オジサンに抱き寄せられる。
見上げると微妙な顔をしてる。
「どしたの?」
「・・・いや・・・帰るか」
「うん」
しゃがみ込んで唸ってるチイ叔母さんを避けて通って、警察を出た。
ウチに帰って、リビングでオジサンとココアを飲む。
リビングのソファで、わざとオジサンの傍に座ったら、オジサンが頭を引き寄せて肩に付けさせた。
頭が傾いてココアが飲めない。
頭に置かれたオジサンの手をずらして、頬に持ってった。
「オジサン」
「うん?」
「チイ叔母さんが言った事、ホントなんだ」
「・・・どの事だ?」
「私、チイ叔母さんと血が繋がってないの。ダイ叔母さんとも」
「・・・そうなのか?」
「うん。私のお母さん、不倫してたんだって。私は不義の子なの」
「・・・リノが生まれて直ぐに離婚したんだよな?」
「うん。そう聞いてる」
「ホントにそうなら、シンヤさんはリノを手放すんじゃないか?お母さんにリノを育てさせるだろう?」
「普通はそうかもね」
「シンヤさんの性格的にも、そうすると思うぞ?」
「お母さんは私を引き取ろうとしたらしいんだ。でもパパは、不倫の慰謝料を払うなら私を渡すって、お母さんに言ったんだって。愛した男との間に出来た娘が、血の繋がらないパパから取り返せない事で、お母さんを苦しめる為にそうしたって」
「・・・誰がそんな事を」
「ダイ叔母さんに言われた」
「・・・そんな」
「でも、パパの性格ならあり得るよね?」
オジサンが私の手からカップを取り上げて、テーブルに置いた。
オジサンに抱き締められる。
カップを置いてからって、オジサンらしい。
髪を撫でられながら、私も抱き付く。
「それでも私、オジサンのとこにいて良い?」
「もちろんだ」
「良かった」
強く抱くと抱き返してくれる。
勇気を貰える。
「オジサン」
「なんだ?」
「お願いがあるの」
「ああ。何でも言ってみろ」
大きく息を吸うと、オジサンの匂いがする。
やっぱりベッドの匂いはオジサンの匂いだ。
「私と結婚して」
「・・・え?」
聞こえなかった?声が小さかった?早口だった?
それとも?
「ダメだった?」
「いや、嬉しいよ」
との言葉とは違って、オジサンは体を離そうとする。
負けるもんか。
「あ、あ~、あれだな?あれ。これはあれだ」
「あれって?」
「大きくなったらパパのお嫁さんになる、ってヤツ」
「何でよ!」
オジサンが裏声使った事にも、私を子ども扱いする事にもイラッと来る。
「世の父親の夢らしいからな」
「・・・本気なのに」
「ああ。分かってるよ」
そう言って頭を撫でるオジサンの手付きから、あやされてる気配を感じる。
「俺はリノを女性としても好きだからな」
「・・・うん。嬉しい」
「血縁者でもないから結婚出来るし」
「うん」
「でもなんでだ?」
「え?何でって?」
「だっていきなりだろう?迫るなって言ってたじゃないか?」
「あれはオジサンがセクハラな事、言ったりやったりするから。それにオジサンが迫らないって言ってただけで、私が言ったんじゃないし」
「そうだったか?でも、いきなりはいきなりだろう?」
「いきなりじゃないよ。ずっと前からだよ」
「え?そんなの知らないぞ?いつからだ?」
「チイ叔母さんがオジサンと結婚するって言った時、私もするって言ったら凄く怒られて馬鹿にされて、確かあの時もお母さんの事を言われて、それで気持ちが捻れてたみたい」
「それ、いつの話だよ?」
「う~ん、机買って貰った時?」
「小学校あがる前じゃないか」
「それで私のオジサンに向ける気持ちは、え~と、普通に親戚のオジサンにはこう言う気持ちになるけど、それは結婚したい好きとは違うんだって事になったんだったと思う。あの時怒られて凄く怖かった事以外あまり覚えてないから、あれだけど」
「・・・そうか」
「あ、そうだ!オジサンが私と結婚したら、私の裸を見て捕まって、死刑になるって言われた」
「なんだそれ?どう言う事だ?」
「分かんないけど、だからオジサンの前で裸になっちゃいけないって」
「ロリコンだと思われてたって事か?児童ポルノ禁止法違反とかで捕まったら、確かに社会的に死ぬけど」
「だから、結婚してくれるよね?」
「どうして“だから”なのか良く分からないけど・・・分かった」
「ホント?!嬉しい!」
「俺も嬉しいよ」
と言う割には私を引き剥がそうとするオジサン。




