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01

※細かい描写はありませんが、性に関する表現があるのでR15にしています。

 チャイムが鳴って、チイ叔母さんが文句を言いながらドアに向かう。


「こんな遅くに誰?」

「俺だけど」


 聞こえて来たのはオジサンの声だ。


「え?タカヒロ?ちょっと待って」


 チイ叔母さんが顔だけこっちに向けて、「あんた達、寝た振りして」と小声で叫ぶ。

 すると私の肩を抱いていた男が「誰だよ」と訊くので、「チイ叔母さんの婚約者」と答えた。

 男は「マジかよ」と呟いて私の肩から手を離す。

 直ぐにソファの端に寄って、男から体を離した。

 さっきまでチイ叔母さんとイチャついていた男の方は、ベッドに潜り込んだ。

 チイ叔母さんがシャツの下のブラを直してたから、イチャついてたで合ってると思う。



「どうしたの?こんな時間に」

「頼まれていた物を届けに来た。メッセージ見てないのか?」

「あ、ゴメ~ン、電池切れてて」


 チイ叔母さんのスマホは、よく充電が切れる。


「お客?」

「あ、うん、そうそう。リノの友達。電車なくなったんで泊めてくれって」

「それならクルマで送るよ」

「良いの良いの、遠いから大丈夫。もう寝てるし」

「じゃあリノだけ送って行く」


 チイ叔母さんの「リノも大丈夫」に被せる様に、「オジサンありがとう!」と勢い良く言った。

 バッグを持って玄関に出る。

 途中、隣の男に服の裾を引っ張られたけれど、強引に振り切った。


「待ちなさいリノ!」

「チイ叔母さん、私帰るから!」

「ダメよ、泊まって行きなさい!」

「ううん、大丈夫!オジサン、送って!」


 ドアの外に出て見上げると、オジサンは「わかった」と言って私の頭を撫でた。

 オジサンがスッと私とドアの間に立つ。

 玄関ではチイ叔母さんが慌ててサンダルを履こうとしている。さっきひっくり返しといた。

 走って逃げられる様に、スニーカーの踵を引っ張り上げてちゃんと履く。


「ちゃんと送るから心配いらない。おやすみ」


 そう言ってオジサンはドアを閉めた。

 ゴンと音がしたのは、チイ叔母さんがドアに頭をぶつけたのかも知れない。

 オジサンはその音に苦笑した様に見えたけど、私を見る顔は微笑んでる。


「リノ、逃げるか?」


 口角を上げたオジサンの「逃げる」の言葉にひゅっと喉が詰まる。声を出せないまま肯いた。

 オジサンは私のバッグを奪うと私の手を握り、クルマを停めてある所を目指して走り始めた。


 オジサン、結構速い。



「駅まで送って」


 クルマに乗ってからそう頼むと、オジサンは一瞬だけこちらを睨んで前を向いて「なんで?」と言う。


「俺ん家に帰る途中だし、送って行くよ」

「あ、うん。駅までで大丈夫だから」

「おいおい。こんな時間からどこか行く気か?」

「あの、ううん、どこにも」

「もしかして、俺を警戒してる?俺が怖い?」

「そうじゃないけど」

「リノって処女?」

「え?何言ってんの!」

「処女なら襲わないよ」

「そんなの!・・・じゃあ、処女じゃなかったら?」

「熱い言葉で誘って、その気になって貰う」

「そんな事したら、チイ叔母さんに言い付けるよ?」

「いいよ。もう婚約解消するから構わない」

「え?チイ叔母さんと?」

「ああ」

「なんで?どうして?他に好きな人出来たの?」

「今日部屋にいた二人の男、リノの友達?」

「え?あの、うん」

「なんて名前?」

「え~と、サトウとスズキ?」

「どっちがどっちかわからないけど、一人はタナカ」

「え?」

「玄関にあった靴、一足はタナカのだった」

「オジサンの知り合い?」

「オバサンのセフレ」

「スフレ?」

「オバサンのエッチ友達」

「え?エッチ?違うよ!ちがうちがう、違うから!」

「でもタナカはそう思ってるし」

「そりゃあチイ叔母さんだってオジサンの前にも恋人いたし、そう言う関係の男性もいたけど、今はオジサンの婚約者なんだから、違うから」

「だけどオバサンは俺と結婚しても、タナカとの付き合いは()めないらしいぞ?」

「え?なに言ってんの?そんな訳ないじゃない」

「俺と結婚してもあの部屋は、タナカの為に借り続けるんだそうだ」

「え?」

「タナカの家には内縁の奧さんがいて、オバサンとのエッチに使えないからな」

「え?奧さんってそれ、チイ叔母さんは知ってるの?」

「さあ?」

「それってつまり、チイ叔母さんはタナカと別れるんだよ。だからオジサンと結婚するんじゃない」

「部屋を借り続けるのは?」

「それはあのー、あの部屋汚いから、部屋を返すのに掃除に何日も掛かるんだよ」

「ふ~ん、なるほど」

「それに新婚て何かと忙しいじゃない?そしたら片付けに何ヶ月も掛かるでしょう?」

「オバサンに任せたらそうなりそうだな」

「そうそう。チイ叔母さんだもんね」

「ベッドの脇にコンドームの袋がいつまでも落ちてるしな」

「え?」

「知らない?」

「あ、いや~、どうかな?」

「リノは来る度にオバサンの部屋を片付けてるみたいだけれど、あれはさすがに(さわ)るのがイヤなんだろう?」

「あ~、気が付かなかったな~」

「たまに使用済みのゴムも捨ててあるし」

「うそ?!床に?!」

「ゴミ箱の中に」

「それはさすがに気付かないよ。ゴミ箱なら良いじゃない」

「問題はそれを誰が使用したのかだよな?」

「え?」

「な?」

「でも、それって・・・オジサンじゃないって事?」

「オバサンはいつも今日は安全だって言ってる。だから俺はオバサンとはゴムを付けた事がない」

「え~と、こう、なんか、遊んだんじゃないの?かなり膨らむって聞くし」

「じゃあただ遊んだだけなら、リノはあのゴムに触れるよな?」

「・・・触れる訳ないでしょ」

「そもそも俺とはサイズが合わないと思うぞ?」

「サイズ?」

「俺はタナカに比べると凄く小さいそうだ。凄く早くて凄く下手でもあるらしい」

「え?」

「オバサンは俺の子を妊娠する積もりかも知れないけれど、オバサンがタナカとも愉しんでると思うと不能になるから無理だな。だから婚約は解消だ」


 そう言うオジサンの横顔は、何の感情も乗ってないみたい。

 オジサンの事だから、好い加減な事は言ってないと思う。探偵とか雇って調べたのかな?

 実際に今日、チイ叔母さんは男とイチャついてたし、あれがタナカなんだろうな。


「あの、チイ叔母さんの借金は?」

「ああ、それもあったな」


 オジサンの表情からは、やっぱり何も読み取れない。


「オバサンには感謝もしてるんだ」

「え?そうなの?」


 あ、疑問形でじゃなくて、「そうだよね」って肯定系で返すべきだったかな?


「だってオバサンのお陰でリノに会えたからな」

「え?私?」

「そう」

「え?まさか借金のカタに私の純潔を?」

「アホ」

「アホってだって・・・オジサンに借金してるの私の叔母さんだし」

「リノが処女じゃなきゃ俺は本気で口説く積もりなんだぞ?もっと自分を大切にしろ」

「大切にって」

「自分を大切にしろなんてセリフ、本気で口にする日が来るとは思わんかった」


 そう言ってオジサンは私の頭をコツンと叩いた。


「リノに出会わせてくれたから、オバサンの借金はチャラでも良い」

「え?見返りはナシ?」

「大した金額じゃないし、手切れ金だな」


 いやいや、ウチからすると大してるけど。


「で?どうする?本当に駅で良いのか?」

「あ、うん」

「ちゃんと家に帰るんだろうな?」

「それは、モチロン」

「・・・ウソだな」

「え?いや、ホントだよ?」

「そのバッグ、泊まり用の着替えとか入ってるだろう?帰らない気なんじゃないか?」

「え?違うよ。ちがうちがう」

「じゃあ中、見せてみろ」

「え?女の子にバッグの中見せろなんて、オジサンのエッチ」

「ダイさんに遠慮してるのか?」


 ちょっと可愛く言ってみたのに、スルー?


「いや、そんな事ないけど」

「ダイさんの恋人が来てるんだろう?」

「え?なんでそれを?」

「0が付く日がある週の金曜は、リノがオバサン家に泊まるからな」

「え?そう?」

「今日もそうだろう?」

「確かに水曜が二十日だった。え?なんで?」

「何でかは知らんよ。なんでそうなのか、ダイさんからは何か聞いてないのか?」

「うん。何も」

「ダイさんの恋人ってどんな人なんだ?」

「会った事ないし、ダイ叔母さんからは何も聞いてないんだよね」

「一緒に暮らしてんだから、少しは訊けよ。興味持てって」

「でも・・・」

「取り敢えず送ってやるから。ダイさんには俺から言ってやるよ」

「あ、でも・・・」

「どうした?音が気になって寝られないか?」

「ウチ、ベッド一つしかないから・・・」

「・・・一つって、普段はダイさんと一緒に寝てんのか?」

「うん」

「自分の部屋は?」

「あそこ、ワンルームだし」

「あ~、そうなのか。そりゃあ帰れないわな」

「うん・・・」

「わかった。ホテル取ってやるから、そこに泊まれ」

「え?一人で?」

「友達喚んでも良いけど、一人部屋分しか金は出さないぞ?」

「え?出してくれるの?」

「当たり前だろう?俺が連れ出したんだし」


 また頭をコツンと叩かれる。


「もしかして、助けてくれたの?」

「・・・やっぱり危なかったのか?」


 オジサンが前を向いたまま、ウエットティッシュを差し出してくれる。

 あの男に(さわ)られた所を擦っていたのに気付かれた。


「知ってたの?」

「リノが泊まりに行く日に、オバサンがタナカを部屋に喚ぶっておかしいだろう?男がもう一人いるし」

「・・・うん」

「ほら」


 オジサンは今度はティッシュペーパーを差し出してくれた。


 チーン。


 鼻をかんだら、オジサンが頭を撫でてくれた。


「もうオバサンの所に行くのは()せ」

「でも」

「行くとこないなら、俺んちに来るか?」

「え?良いの?」

「え?良いのか?」

「え?あ、ごめん」

「あ、いや、良いぞ?もちろんウェルカムだし、大歓迎だ」

「でも」

「いやいや、ホント。リノが俺を怖いかと思ってたから」

「ううん。怖くないよ」


 チイ叔母さんやダイ叔母さんより怖くない。


「俺ん家にリノが泊まれる部屋があるから。中から鍵が掛けられるから、安全だからな?」

「・・・処女なら襲わないんでしょう?」

「ああ、約束する。処女の間は手を出さない。だから経験したら直ぐに報告しろ」

「え?やだよ。なんでよ」

「全力でリノを口説く為に決まってるだろう?」

「それって、私がチイ叔母さんみたいでも?」

「そうなったら即、追い出す」

「え~」

「ああならなけりゃ、いつまでもいて良いから」

「・・・処女の内は?」

「経験済みでも」


 ティッシュをもう1枚取った。


「ありがと」


 ちょっと声がくぐもった。

 オジサンはまた頭を撫でてくれた。

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