エビルマウンテンらぁめん魔竜級
人生は長い。とりわけ、人の身のまま二百年以上も生きていると、その長さは退屈となって精神にのしかかってくる。
耳長たちのような長命種はどのような精神構造でこれに耐えてるのか不思議にすら思えてくるが、そういった思索を巡らすのもとうに飽きた。
老いに悩まされることのない肉体も考えものだ。
まともな人間は二百年も生きれば相応に老人の精神を獲得し達観の域へ辿り着くだろうが、不老の身では精神は老成せずすり減るばかりで、その減った分を埋めなければと焦燥するように娯楽への欲求が高まっていく。
魔女はこうして、少しずつ壊れていくのだろう。
心が壊れているから魔女になるのではなく、魔女になったから心が壊れるのではなく、人の心がそもそも脆いのだ……とは、先輩の言葉だったか。その証拠に定命の者だってたまに壊れるだろう、と言われれば納得するしかなかった。
魔女は退屈で人をやめていく。
北方の国を一つそのまま氷に閉じ込めた魔女も、南西の己が縄張りを地獄に変えた魔女も、元は私のように大したことのない、普通の人格であったのかもしれない。
「ヘイらっしゃい!」
長き時間に耐えてなお精神を正常に保ちたいのなら、心のケアは大切だ。潤いがなければ干乾び、簡単にひび割れてしまう。
だから退屈に抗うため、魔女は娯楽を求める。私もその一人だった。
まあ……そうした魔女は己の娯楽を充実させるために魔法を究めるようになり、やがてはその娯楽の名で呼ばれるのだけど、魔女としてはまだ若年のわたしにそんな名はまだ不相応だし、そんなものはいらないと思っている。
操人形師、舞台演者、大図書館、剣戟、赤薔薇、星詠み。名だたる魔女は数あれど、そこに私が並ぶ日は来ないだろう。
そう。
「エビルマウンテンらぁめん魔竜級。野菜マシマシにんにく魚粉カラメで!」
食べ歩きの魔女だなんて呼び名、絶対に私は認めないのだから。