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第7話 でかいの、登場

 私は眼前の森を睨みながら、暗がりを動く気配に意識を集中させていた。

 茂みに潜む魔物は、恐らく単体ではない。群れで行動する魔物が集まり、一斉に私へ襲い掛かる。その光景が容易にイメージできた。

 私は右手の召喚武器、ナノデス・ソードを握り締める。漆黒の刀身が触れた箇所に局所的壊死をもたらす、一刀両断の召喚剣。私が召喚書に記した設定が完璧に反映された、最高に格好良い武器だ。ネーミングも良い感じにまとまって大満足。やはり私は、アイデアを出すのが得意なんじゃないかしら?

 などと考えていたら、森の中から日差しの下へ魔物が飛び出してきた。狼型の魔物が5匹。真っ直ぐ、私に向かって来ている。

 そのうちの1匹は素早く反応したねこすけの突撃を喰らい、地面を転がる。私は残った4匹の攻撃を、神の加護で強化された動体視力と素早さで見切り、回避する。

 攻撃を避けながら、私はナノデス・ソードの横薙ぎで1匹を真っ二つにした。そしてすぐに振り向き、再攻撃してきた1匹を縦に両断し、さらにもう1匹を下段からの斬り上げで倒す。狼型3匹くらいならば、同時に襲い掛かられてもどうにか対応できるようになっていた。


「あ痛いた痛痛いたいたいたっいたいたいたいってばぁっ!!」


 でも4匹は無理だった!

 残った1匹が私の脚に噛みつき、ズボンに穴を空けている。『健康』の加護で肉体はダメージを受けないけど、噛まれる痛みや服の破損はどうしようもないからもうっ!!

 私がのたうち回っていると、ねこすけが魔物に噛みつき、一瞬で灰燼(かいじん)へと変えてくれた。魔物は血が出ないしすぐに魔力となって消えていくから、倒すのが精神的に楽で助かります。


「ありがとう……ねこすけ」

「ネコー」


 ねこすけが笑って応える。

 ……笑ってるんだよね、その顔。この怪物、友好的で知性も高いんだろうけど、見た目がアレだからどうしても不安が拭えないとこがある。


「先生もねこすけも、おつかれさまなのです」


 遠くから戦いを見ていたもくれんが私たちに歩み寄り、(ねぎら)いの言葉をかける。アンタは安全でいいよね! 危ない目にあわせられないのは重々承知だけどさ!


「もう魔物はいないと思うのですが、もうちょっとだけ確認してから帰るのです」

「……ねぇ、もくれん。後で相談があるんだけど、いいかな」

「いいのです。今日もファミレスで女子トークするのです」

「そうだね……」


**********


「タンクがほしいぃぃぃーーー!!」

「先生、店内でやかましい声を出さないで欲しいのです。恥ずかしいのです」

「ごめん」


 ファミレス(愛称)で夕食をごちそうさました後、私はもくれんに相談を持ち掛けていた。


「それで、次は戦車に挑戦するのです?」

「そっちのタンクじゃない。盾役。前衛で敵の攻撃を受け止める役割の人」

「それはユリサキ先生なのです」

「今はそうなんだけど、私みたいな回避型タンクだと複数の敵はつらいというか、攻撃を受けて痛い思いするのやだというか、私ひとりだけ頑張るのはなんかストレス溜まるから仲間が欲しいというか」

「つまり、前衛が1人だと寂しいということなのです?」

「そういうわけじゃ……いや、そういうことかな?」

「ねこすけも一緒なのです。それじゃあダメなのです?」

「ダメとは言わないけど、正直これからもっと難しい依頼をこなすには人手不足が否めないと思う。というより私の負担が大きすぎ」

「先生の負担を減らせる仲間が欲しいということなのです?」

「うん。具体的には女性冒険者を1人、パーティーに加えたい」

「防御用の召喚獣を増やした方が安上がりなのです」

「それだと、ねこすけたちに使う魔力が削られるかもしれないでしょ。攻撃力は落としたくない」

「わがままなのです。とはいえこれからのことを考えると、新しく仲間を加えるのもやぶさかではないのです」

「よし。それならさっそく明日、仲間を異世界召喚してみようか」

「それはオススメできないのです。先生みたいなハズレ能力の人が召喚される可能性が高いのです」

「ハズレ能力とか言うな」

「異世界召喚は当たり外れが大きくて、外れだと人材の扱いに困るのです。それにあっちの世界から人が消えるので、濫用(らんよう)もよくないのです。却下なのです」

「私を呼び出すのには使ったくせに」

「ちゃんと呼び出したい人がいるときは使ってもいいのです。適切な運用なのです。でもおまかせで召喚すると誰が来るかわからないのです。危ない人が来たら危険が危ないのです」

「……まぁ、確かにガチャは悪い文化だし、異世界召喚は博打が過ぎるかもね」


 知らないおじさんがオトモ仲間になる姿を想像してしまい、私は「ガチャ危ねぇわ」と思い直した。

 そうなるとこの世界の人をパーティに加えるのが正解かぁ……


「パーティへ冒険者を勧誘するのって、みんなどうやってるのかな?」

「みんなハロパを利用しているのです」

「ハロパ?」


 何故か妙に聞いたことがある単語だ……


「ハローパーティーの略なのです。冒険業安定所とも言うのです」

「そこはもっとオリジナルな名前使おうよ異世界!!」

「どういうことなのです?」

「ああ、アンタは未成年だからあんま分からないか……とにかく、ハロパに求人を出せばいいの?」

「その通りなのです。察しが良いのです」


 社会人なら誰でも分かるよ……もしかして、異世界転移した人間でも理解しやすいようにそんな名称になってるのかな……?


「求人を出すのにはお金がかかるのですが、ユリサキ先生のお願いなら仕方ないのです」

「……お小遣い、減る?」

「減らすのです」


 ド畜生め。


「それじゃあ、早速求人の内容を考えるのです。新しい仲間に求める必須条件とか、何かあるのです?」

「まず、性別は絶対に女性だね。男を加えると面倒なことになりそう」

「それは同意なのです。男の人が入ると、主人公の座が奪われそうなのです」


 アンタは主人公じゃない気がするんだけど、私も主人公って器じゃ無いしツッコまないでおこう。


「あとは前衛職で……盾役経験者なら尚良しって感じかな?」

「ナオヨシって誰なのです?」

「年齢はどうしよう。不問で良いかな」

「ナオヨシって誰なのです?」


 無視。


「あとは職場、というかパーティの説明か」

「アットホームで明るいパーティなのです」

「そういう説明がある職場は地雷臭いわ。そりゃ、女子2人パーティなのにアットホームで明るいパーティじゃなかったら相当キツいけどさ」

「それならシンプルに、可愛い召喚士と頑張るお姉さんの2人組パーティと書くのです。2人を守る前衛を募集しますと書くのです」

「まぁ、そんな感じで良いかな」

「お給料とかはどうするのです?」

「3人だから報酬の3分の1……いや、私はオトモだから2分の1じゃないと駄目なのかな?」

「3分の1にするのです。私が管理しているだけで先生の取り分もしっかり発生していることにするのです」


 せこい。


「あと休みは……週休2日?」

「そんなに働きたくないのです。週休4日くらいにするのです」

「実際、そのくらいの頻度でしか依頼受けてないしね……もうちょい働かないとマズいんじゃない?」

「将来の貯蓄まで考えるとそうなのですが、当面は報酬が高い依頼をこなせば十分なのです。体は資本なので大事にするのです」

「あんまり甘い見通しされると困るんだけど……いや、私は『健康』の加護があるから、アンタが貧乏になっても元気でいられるのかな?」

「私が貧乏だと、好きなものを買ったり食べたりするお金が無いと思うのです」

「今だってそんなにお小遣い貰ってないんだけど」

「おこづかいはともかく、私たちは貧乏になるような状況ではまったくないのです。安心して欲しいのです」


 だいぶ疑わしい。


「……とりあえず、募集要項をまとめるね。募集する人材は前衛の盾役。女性であることが条件で、年齢は不問。就業パーティーはクソガキ召喚士と美人のお姉さんの2人パーティー。給与は依頼報酬の3分の1。依頼のある日以外は休みだから、現状週休4日予定。こんな感じ?」

「先生は美人なのです?」

「……ごめん、そこは訂正で」


 クソガキには触れずにそこだけ指摘されると、自分がすごい悲しいことをしたように思えちゃう。


「こんなんで応募してくれる人いるのかなぁ……」

「もう少しアピールポイントを増やしてみるです?」

「アピールポイント……報告、連絡、相談がしやすい、働き甲斐のある職場です。とか?」

「2人パーティならほうれんそうは出来て当然なのです。出来てないとヤバいのです」

「そうだよね……報連相って言葉は知ってるんだ」

「常識なのです」

「いや、アンタはあんま常識を知らないでしょ……」

「失礼なのです。あっちの世界にいた頃は、それなりに優等生だったのです」

「えー。絶対うそだわー」

「あの……」

「本当なのです」

「えー」

「あのっ!!」


 突然、見知らぬ女性の声がした。


「はい? うぉ、でっか……」

「先生、いきなり何を……うわっ、でっかなのです」


 私ともくれんがファミレス(愛称)の通路側を見ると、そこにはすごい巨乳の、美少女がいた。

 すごい、巨乳の。


「前衛の、盾役、募集してるんですよねっ!」


 恥ずかしそうに顔を赤らめながら、他のお客様の迷惑になりそうな声量でおっぱいが言った。

 おっぱいじゃない、おっぱいだ。おっぱい。

 そんな感じでおっぱいに気を取られている私たちに向かって、その金髪セミロングの巨乳はこう続けた。


「私を、あの、パーティーに加えてはいただけないでしょうかっ!」


 というわけで(どういうわけだ?)唐突に、掲載前の求人の面接がファミレス(愛称)で始まるのであった。

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