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底辺絵師の20代後半女子が異世界で召喚士少女の専属デザイナーになる話!  作者: くろろん
第1章 異世界と美少女と怪物と猫とあとなんかいろいろ
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第3話 怪物(前編)

 神殿協会の建物を出た私たちは、一旦もくれんの借りている部屋に荷物というかパジャマを置いてから、市街へと向かった。

 肩から掛けた鞄を揺らしながら、楽しそうに昼の街中を進むもくれん。彼女に付いてしばらく歩いていくと、人通りの多い開けた場所へと辿り着いた。


「ここがブルクブルクの街の真ん中、中央広場なのです」

「ごめん、何の街だって?」

「ブルクブルクの街なのです」


 アホが考えたみたいな名前! 『城塞都市の城塞都市』みたいな意味になるんじゃない?


「この広場に街の地図があるのです。地図を見ながらの方がこの街を説明しやすいのです」


 もくれんに連れられて広場を進むと、大きな地図看板が見えてきた。街の全景を描いたもので、城塞に囲われた市街はテーマパークのようにも見える。なんかテンション上がるなぁ。


「まず、私たちがいるのがこの広場なのです。神殿協会がある行政地区がここで、住宅地区がここなのです」


 もくれんが地図を指差しながら説明する。


「アンタが借りてた部屋も住宅地区にあるのね。それにしても、よく1人で借りられたもんだ」

「ミドリさんや他の神殿協会の人が手伝ってくれたのです。異世界転移した冒険者は強い人が多いので、長期滞在してくれれば街にもメリットがあるのです」

「なるほどね。冒険者といえば宿屋や馬小屋に泊まるイメージがあるけど、1つの街を拠点にするなら部屋借りる方が現実的だわ」

「馬小屋に泊まるイメージなんて無いのです」

「大人はそういうイメージ持ってるの。それで、他にはどんな地区があるの?」

「あとはお買い物をする商業地区や、色んな職人さんがいる職人地区があるのです」

「ふーん」

「あとここが冒険者地区なのです」

「冒険者地区?」

「この街は冒険者が多いので、冒険者のための地区があるのです。冒険に役立つ道具のお店や、武具の手入れを頼むためのお店、あとごはん屋さんもこの地区に多いのです」

「冒険者が多いってことは、この街ってダンジョンとかが近くにあるわけ?」

「その通りなのです。この世界では迷宮や魔物が勝手に増えるのですが、この街の付近ではそれが顕著なのです」


 魔物はともかく迷宮が勝手に増えるのは世界の法則乱れすぎじゃない?


「神殿協会の依頼で魔物を倒せばお金やクエポイントが貰えるし、迷宮には財宝があったりするのです。だからここは冒険者が暮らしやすい街なのです」

「食い扶持に困らないってのは良いね」

「とはいえ冒険者が多い分、競争も激しいのです。私も報酬が良い依頼を受けるのに苦労しているのです」

「それは何というか……お疲れ様です」

「だからユリサキ先生には、苦労して稼いだポイント分以上の仕事を期待しているのです。がんばれなのです」

「あっ、はい。頑張ります……」


 突然プレッシャーをかけてきやがった。もしかして、私が頑張らないと生活がヤバくなる感じ?


「それではこれから先生には、街の外で私の召喚を体験してもらうのです。でもその前に、お腹が空いてきたのでごはんを食べたいと思うのです。私のおごりなのです」

「ありがと。私、お金持ってないしね」

「そのうちお小遣いあげるのです」


 生暖かい微笑むを浮かべるもくれん。

 ああ、私、完全に飼われてる……!


**********


「ごちそうさまでした」

「ごちそうさまなのです」


 私たちは冒険者地区のファミレス――いや本当に小さめのファミレスにしか見えない食堂なんだけど、どうして異世界にこんなのものあるわけ――でサンドイッチとコーヒーを注文し、食べ終えた。


「この世界さぁ……ちょっとおかしくない? メニューは日本語だし、コーヒーとかどっから輸入してるの?」

「深く考えない方がいいのです。ファンタジー世界だし、神様もいるのです。魔法や加護でなんでも出来るのです」

「そりゃまぁ転移者も多いみたいだし、知識無双と魔法の組み合わせで文明発達も早そうなんだけど……ううん、いいや。アンタの言う通り、ツッコむだけ野暮かも」


 色々と気にはなるが、異世界転移系作品の主人公たちが1つの世界に集まったらこのくらい世界が発展してもおかしく無いだろう。そういう世界だと思うしかない。


「それより、アンタの召喚って召喚書を使うんだよね。ちょっとお姉さんに見せてくれない?」

「ダメなのです。あとのお楽しみなのです」

「ダメかー。どんな感じなのか、先に知っておきたかったんだけど」

「先に本を見せちゃうと、驚きも半減なのです。あとでじっくり見せてあげるから我慢するのです」

「わかった。楽しみにしておく」

「私は絵があまり上手くないのですが、お気に入りのねこすけはとっても強くて賢いのです」

「……ねこすけ?」

「ネコの召喚獣なのです。最近はねこすけばっかり召喚しているのです」

「ネーミングはひどいけど、ちょっと気になるなぁ……」

「だったら、早く行くのです。女子トークはさっさと切り上げるのです」

「でもちょっと待って。チョコレートケーキを追加で」

「行くのです。これ以上先生におごりたくないのです」


 うん。

 言い方がひどい。


**********


 私たちは街から少し離れた、穏やかな草原へとやって来た。芝生のように背の低い草が広がっており、人や動物の姿は見えない。ここなら召喚獣を呼び出しても問題無いだろう。


「では、さっそく私のねこすけをお見せするのです」


 もくれんが右手を前に出すと、天に向けた彼女の手のひらに光の粒子が集まり、それが召喚書へと変化した。


「ねこすけはお気に入りなので、1ページ目に移動させたのです」


 そう言いながら、もくれんが左手で表紙をめくる。


「ページを移動させるとか、そういうの出来るの?」

「この『よびだしちゃん』は私の体の一部と言っても過言では無いのです。だから本に描いた召喚獣は好きなページに移動できるのです。もちろん消したりコピペしたりも自由なのです」

「体に書いた文字を移動させたり増やしたり出来る奴なんていないんだけど」 

「言葉のあやなのです。細かいことを気にしてると老けるのです」


 そろそろお肌の年齢とか気になってきた私に小ダメージ。


「そんなことより私の召喚なのです。どうぞご覧くださいなのです」


 もくれんは右手に持った召喚書を開いたまま、左手を前方の地面にかざし、目をつむって集中する。


「出でよ……ねこすけ!」


 一瞬、彼女の全身がぼんやりと青白い光を放ち、それに呼応するように地面の上でも青白い光の粒子が発生した。それらは先ほどの召喚書と同様に、集まって形を成していく。

 そして、召喚獣が現出した。


「これが、ねこすけなのです!」


 発光が止み、もくれんが得意げに笑う。


「…………………………」


 彼女の前にいる1体の小さな獣。その姿に、私は言葉を失った。

 太い輪郭線を持った、象牙のような白い皮膚の……皮膚? 表面? なにこれ? 顔は……一応あの丸くて黒いのが目なのかな? ってことはその上にあるとんがった角みたいのが耳? 目の下にあるギザギザしてるのが口というか牙? それで顔の後ろにある(かたまり)が胴体? んで脚? 先の方の黒いのが爪? そんで巨大なうどんの麺みたいの見えるけど、まさか尻尾? え、これどうなってるの? なんか立体としておかしくない? 


「どうですか、先生」

「えっと…………斬新で前衛的でエキセントリックな……」

「ネコォォ~」

「うわっ!? なんか鳴いたっ!!??」


 目の前の物体が、口を引きつらせて……いや、多分笑ってるのだろうけど、とにかく口角? らしきものを上げて声を出した。


「ネコォォゥ」

「これは……怪物か」

「ひどいのです。ねこすけも見慣れればかわいいのです」


 こんな怪物を見慣れてしまったから、この子はナノデス星人になったのか……


「ネーコネコ」

「鳴き声も変だし……ともかく、これが猫じゃないのはわかる」

「やっぱり、猫には見えないですか」

「当たり前や」

「自分でも絵がちょっと下手なのは分かっているのです。でも、ねこすけはれっきとしたネコの召喚獣なのです」

「ネコ~」


 ねこすけが「そうだよ~」とでも言ってそうな鳴き声をあげた。だけどお前は絶対、猫じゃないから。


「これ、街中で召喚したらパニックになるよね?」

「一度やったことがあるのです。魔物と間違えられたのです」

「だろうね……」

「それでも、ねこすけが今の形になるまでかなり苦労したのです。何度も描きなおしたのです」

「アンタが私を召喚した理由がわかったわ……」


 こんな怪物を召喚していては、いわれも無い悪評が立ってしまうだろう。過去にはもっとひどい怪物を召喚していたみたいだから、既に手遅れかもしれないけど。

 それに画力が低いということは、召喚したいものを描けないということでもある。ファンタジー世界なのだから、彼女だってユニコーンとかドラゴンとかデーモンとか召喚したいところだろう。デーモンは図らずも召喚出来てる気がするけど。


「それで先生。せっかくだから、ねこすけで試したいことがあるのです」

「試したいこと?」

「まずは、ズボンの裾をまくって欲しいのです」

「何故に?」

「いいからなのです」


 私は言う通りにズボンの裾を両脚ともまくった。すんごい嫌な予感がする。


「それじゃあねこすけ、ユリサキ先生の足に噛みつくのです」

「ネコッ!」


 野蛮な飼い主の命令により、怪物が襲い掛かってきた。

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