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プロローグ
30年間大切な物を守り抜いた漢は魔法が使えるようになるらしい。
どこかで耳にした話だ。
でも、そんなこと有り得ない。
頭では分かっていた。
学生時代から、恋人はおろか友達すらいなかった。
コミュニケーション能力が無くて就活に失敗し、ブラック企業で精神を病み、気が付けば、30歳の誕生日。
一縷の望みに賭けてこれまで生き長らえて来た訳だが、そろそろ異世界に旅立ってもいい頃合いだろう。
俺はよく頑張ったよ。
心身を騙り、削り、抉りながら生きて来た日々がなんだか遠い過去のように懐かしい。夜空に輝く星達はやけに眩しく、澄んだ空気は心を穏やかに慰めてくれた。
「異世界では魔法が使えるように。あと出来たらヒロインも頼むよ、神様?」
これまで30年間、耐えて来たんだ。
権利くらいくれたっていいだろう。
谷底から吹き上げてきた風が前髪を揺らした時、俺は未来への一歩を踏み出した。




